十月三十四日:議論

 十月三十四日が来た。

『編入生』は辺りを見回す。ロビーには九人の生徒がいた。

「今日、足りないのは……」

『先輩』が表情を曇らせて言う。

「『生物部』が噛まれた」

「そこ噛まれるのかよ……」と、『文芸部』が呟いた。



【第三回目 議論開始】



「霊能結果だ、『剣道部』は人間だった。これでわかった。『図書委員』は本物じゃない」

『美術部』の言葉に、『元バスケ部』が拳を握りしめる。


『図書委員』は眉根を下げて言った。

「まさか、霊能者が偽物だったなんてな」

「え、そんなパターンあるのかよ」

『編入生』の問いに『先輩』が額を抑えながら言う。

「可能性はゼロではない。ゲームが始まった瞬間にこの寮にいた学園長も参加者にカウントされていて、学園長が霊能者のカードを引いてた場合だが、流石にそれはないと思いたい……」


『映研部』が手を叩いて言った。

「まぁ、『図書委員』はほぼ狂人で確定だから焦って処刑することもねえよ。それに朗報だぜ。『生物部』は妖狐だった」

 全員が『映研部』を見た。

「『図書委員』と占い先を敢えて合わせてくるのが気になってたんだ。人狼にしては目立ちすぎるし、狂人だと思われて生き残りたい妖狐じゃないかと思って占ったら当たりだったな」


「その理屈はキツいだろ」

『元バスケ部』が言った。

「まだ俺たちには昨日三人のうち誰が本物かわからなかった。それなのにわざわざ自分にとって人外とわかり切ってる対抗の占い師をわざわざ占うか?」


『映研部』は肩をすくめた。

「俺が妖狐を占ってひとつ、人狼の襲撃でもうひとつ、ふたつ死体が出れば証明になると思ったんだよ」

「昨日の夜は霊能の結果を見るため、狩人は『美術部』を守るだろうな。『生物部』を占って殺したけど、護衛も成功してたから死体はひとつでしたって言い張るなら今日しかない。『映研部』、俺はお前を人狼だと思ってる」

『元バスケ部』はねめつけるように視線を上げた。

「そんだけ頭回るなら初日からやる気出してくれや」

『文芸部』がかぶりを振った。


「俺は『図書委員』を処刑したい」

『美術部』が俯いて言った。

「どっちの占い師が本物だとしても、『図書委員』が偽物なことは確定だ。まだ人狼が二匹いるなら残したくない」

『文芸部』が頭を掻きながら答える。

「うーん、あいつは狂人っぽいんだよなぁ。霊能者が生きてるうちに人間を狼だって言ったらすぐバレるのに、人狼がそんなことするかぁ? 処刑はいつでもできるし、今は確実に人狼って奴を処刑したいな」

「彼と友人だから処刑したくないのはわかるが……」

「そんなんじゃねえよ」


「昨日死体がなかったのは狩人の護衛成功じゃないかもしれない」

『先輩』が言った。

「霊能の結果で狐は人間として出る。『剣道部』が妖狐だった場合、昨日狼が彼を襲って死ななかったとしたら、まさか自分が噛みましたと言えないから、占いでわざと狼だと言って処刑させた可能性もある。そうすると『図書委員』を人間だと言った『映研部』も偽物になるが……」


『風紀委員』がそれを遮った。

「もし、『生物部』が本物なら、『先輩』が怪しくなりますよね。昨日『先輩』を占うって予告して噛まれたんですから」

「流石に人狼でそんなわかりやすいことはしないだろ……」


 ふたりの議論を横目に『文芸部』が『図書委員』に言った。

「何か言っとくことある?」

『図書委員』はひと呼吸置いて答えた。

「今日は『風紀委員』を占った。人間だったぞ」

「お前、意外と神経図太いよなぁ」



『編入生』の袖を引いて、『保健委員』が言った。

「ねえ、結局誰に投票すればいいのかな……」

「さぁ、たぶん『図書委員』だと思うけど、『映研部』が偽物ってこともあるんだよな。『先輩』も疑われてるし」

「霊能者が偽物の可能性もあるって本当? 『美術部』さんは偽物じゃないよね?」

「さすがにそれはないと思うけど……どうだろう、あるのかなぁ?」



【投票開始】


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