十月三十三日:議論

 十月三十三日が来た。

 ロビーには十一人の生徒が集まっていた。



「誰も、噛まれてないのか……?」

『先輩』が辺りを見回し、『編入生』が声を上げた。

「そうか、狩人が仕事したんだ! ひと晩ひとりを選んで人狼から守られる奴がいるんだろ」

「何でそうだとわかるんだ?」と、『元バスケ部』が腕を組んだまま言う。

「だって、誰も噛まれてないんだからそうだろ」


「違うな、別の可能性がある。妖狐だ」

『美術部』が言った。

「人狼のもうひとつの敵、妖狐。ひとと狼どっちが勝とうが、そのとき生存していれば全部そいつの勝ち逃げになる厄介な存在だ。こいつは人狼に噛まれても死なない。殺す方法は処刑か占われるかだけだ」

「だから、妖狐を殺せれば本物の占い師の証明になるね」と、『生物部』が微笑む。


「じゃあ、狩人に誰を守ったか聞けばいいんじゃないでしょうか」

『保健委員』を『風紀委員』が怒鳴りつけた。

「馬鹿! 狩人は自分を守れないんだ。出たらすぐ人狼に殺されるぞ!」

「お前ら、疑われたくないなら頼むから勉強してくれ……」

『先輩』がこめかみを抑えて呟いた。



【第二回目 議論開始】


 最初に『美術部』が口を開いた。

「昨日の結果だ。『吹奏楽部』は人間だった」

 全員がわずかに俯く。『映研部』が言った。


「今日の死体なしで余裕もできたし、焦ることねえよ。俺は『元バスケ部』を占った。昨日占い師全員の処刑を提案したのが引っかかったんだが、人間だったぜ」

『元バスケ部』は「どうも」と肩を竦め、

「他に候補者もいないし、霊能者は本物と思っていいらしいな」

「そりゃそうだ。味方じゃなきゃ困る。これが終わったら文化祭に出す映画で美術を担当してもらわなきゃならないからな」

「それ、死亡フラグだぞ」と『美術部』が一蹴すると、今まで黙り込んでいた『図書委員』が顔を上げた。



「言わなきゃいけないことがある。人狼を見つけた」

 視線が一斉に『図書委員』に注がれる。

「『剣道部』は人狼だった」

「そんな訳ねえだろ!」

『元バスケ部』が椅子を蹴って立ち上がった。


 それを追うように『生物部』も立ち上がる。

「そうだよ、ボクも『剣道部』を占った。昨日霊能者に出るように言ったのが気になってね。狩人に霊能者を守らせて、占い師を噛もうとした人狼かと思ったんだけど……人間だったよ」

「占い師がふたり『剣道部』を占って、結果が別々?」

『編入生』の声に、『先輩』が頷いた。

「あぁ、遅れてから被せてきた『生物部』のが若干信ぴょう性が低いが……」



「そうか、俺か……」

 蒼白な顔をした『剣道部』が、ひと呼吸置いて言う。

「俺は人間だが、役職はない。今日は俺を処刑して、明日の霊能結果を見てくれ。それで真偽がわかるはずだ」

「何が真偽だ。その頃お前は死んでるんだぞ!」

『元バスケ部』の怒声に『剣道部』が笑みを作って言う。

「今日俺が処刑されれば、うっかり狩人を処刑してしまう心配がなくて済む。大事なことだ」

「何で他人のことばっかり……」

『元バスケ部』は途中で言葉を失った。



「うーん、正直『生物部』は今んとこ信頼しにくいしなぁ……」

 頭の後ろで手を組んだ『文芸部』が言う。

「お前、昨日も今日も一番最後に出てきて『図書委員』と占い先被ってるだろ。やり口が何か狂人っぽいんだよな」

「狼と狂人はお互いを把握できない分、狂人は自分が味方だと狼に知らせなきゃいけない。わざと疑われやすい行為をするってことか」

『風紀委員』が呟くと、『文芸部』が首肯を返す。


「ごめんね。じゃあ、今日は占い先を予告しておくよ。キミを占おうと思う」

『生物部』が示した先は『先輩』だった。

「キミは冷静だけど、議論よりルールをわかっていない子の支援に回ることが多い。人間なら頼もしいし、人狼なら怖いからはっきりさせたい」

「あぁ、わかった」


『美術部』が言った。

「今日は全員『剣道部』に投票してくれ、いいな?」

 異論は出なかった。


 全員が投票に向かう中、座ったままの『元バスケ部』の隣に『剣道部』が腰掛けた。

「疑われないように、ちゃんと俺に投票してくれ」

『元バスケ部』は答えない。『剣道部』が微笑んだ。

「生きて帰れば、いつか怪我も治ってまた部活に戻れる。諦めるなよ。信じてるから」


【投票開始】

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