#40

 

「は、初めまして……」


「よろしくー」


「初めまして、よろしくね?」


「期待してるよ、よろしく」


 これから一緒のメンバーだというのに圧倒されてしまいそうだ。

 緊張と不安が入り混じって、声に出てしまいそうだ。

 そして勿論ここにいる全員は配信している。

 ということは、向こうには違う層のリスナーがいるわけで、間違えた言動をしてしまえば取り返しのつかないようなことへと発展しかねない。

 これまで配信してきた中で一番緊張しているかもしれない。

 自己紹介とまではいかないが、軽く自分の事を言ったり雑談をして、早速VA〇ORANTをすることになった。


「取り合えず全員の実力を知りたいからデスマッチ」


 デスマッチとは、全員が敵で誰かが40キルした時点で終了するモードでエイム練習だったり腕慣らしにもってこいのモードである。


「凛斗さん、ハンドガン」


「はい……」


「プロ相手にハンドガンで勝負するのかい?」


「本当は俺たちがハンドガン使うべきなんだよなー」


「まあ凛斗だし、ハンドガンでもなんとかなるでしょ」


 愛理さんに、『変な癖がつかないようにまずハンドガンだけで戦ってください』と言われて昨日は練習させられた。

 勿論普通の試合では、しっかりとした武器を使わさせられた。

 試合が始まり俺は取り合えず、距離にもよるがヘッドショットで一撃のハンドガンを持った。





 結果は……


「うん、凛斗君初心者じゃないよね?」


「初心者です……」


「なんであれ反応できたんだよ……」


 愛理さんに教えられた動き、視点の高さを守り戦った。


「勿論まだ付け焼刃感は否めないけど……一番は反応速度が若いね」


「全盛期のあの人みたいだな」


「キャラピックどうなるかと思ったけど、もう決まったね」


 どうやら俺はスキルで武器が取り出せるキャラになってしまった。

 そのキャラを使う人の特徴を簡単にまとめるとエイムが良くて反応速度が高い人。

 他のキャラに比べれば、スキルを出す位置、置く位置、次にすることを考えることがかなり省略されるので、ある意味初心者に優しいキャラかもしれない、わけがない。

 あまりにもエイム頼りのキャラなので、撃ち負けることが許されない。

 そして今回の大会、味方も敵もプロレベルが揃っているので、その人たちに勝つ必要がある。

 実のところを言うとこのキャラを使うことはないだろうと思っていた。

 しかし上手い人から言われてしまえば使うしかないだろう。


「他に使いたいキャラあったらそれでもいいんだけど」


「ないです」


「んーまあ問題は、初心者にやらせると他のキャラが使えなくなることぐらい」


「そうだね、あと1キャラぐらいは、使えておくといいかもしれないね」


「マップまだ覚えきれてないんでモクできないです……」


「オッケー、じゃあデュエかセンチだね」


「私デュエ!」


「ん~じゃあWデュエか、センチかも」


 希華のよく使うキャラはデュエリストという役職に分類されているキャラを使うことが多い。

 デュエリストはとにかく前に出て、戦う役割でエイムが強い希華は、適当に突っ込んでも勝ってしまうのでよく使っている。

 センチネルは、防衛の時に強いキャラで、敵の進行を止めたりして時間稼ぎもできる強いキャラだ。

 俺が使うことになったキャラもセンチだけど……


「私センチ使いなんですけど……」


 そう、愛理さんはセンチ使いなのである。

 なので俺が何か別のキャラを使うべきなんだろうが、使えないものは使えないからな……


「んーなるほどねーkqnrさんモクで、俺が索敵。フリー枠で凛斗君のほうが良さそうかもね」


「そうなるかもね?」


「マップによってキャラ変えてもらう必要があるけど、大丈夫?」


「えーっと」


「まあ最悪私がフリー枠でもいいですよ」


 愛理さんが助け舟を出してくれた。

 正直俺は他のキャラを使えと言われても、定点だったり覚えるべきことを覚えていないので、使えない。


「じゃあ、ゆきさんがフリー枠で」


「そしたら編成決めてこっかー」


「マップは決まってるし、デュエもキャラ決まってるから……」


「希華さんは……あーそうだった……」


 希華さんは確かに強いが使えるキャラが少ない。

 というか2キャラしか使えないので、デュエはほぼ編成が決まってしまっている。

 ほぼキャラピックが確定している人間が2人いるせいで、編成は案外すぐできてしまった。

 編成が決まり、次はマップ理解しようということになった。


「ん~確かここに乗っけられたはず……」


「こっからこうじゃなかった?」


「んーえい!……あーこれです!」


「雪さんは楽しそうだな」


「こういう地味なのも案外楽しいですよ」


 俺は特に覚えることがないので、希華と勝負していた。


「そういえばゆきちゃんと凛斗君は付き合ってるんだっけ?」


「結婚前提で」


「それはまあ……凛斗君大変そうだね」


「雪さんいないと生きれないぐらにはダメ人間にされてるんで、もう大変でもどうしようもない感じです……」


「「「あー……」」」


 愛理さんと希華以外の三人は、何かを察して「ダメだこれ」と言いたげな雰囲気になった。

 事実を言っただけなんだが、まあそういう反応になるわな。

 実際俺もそんな気持ちだが、諦めなければいけないものだと思っている。


「いちゃいちゃしかしないってほんと?」


「本当。マジで鬱陶しいぐらいイチャイチャしてる。目の前で見たときは吐くかと思った」


「希華?」


「んー本番でイチャイチャされたら困るかもしれないねー」


「コーチとしていちゃいちゃ禁止令を出す」


「いやだー私は凛斗さんにくっついてないと消えちゃいますー」


 何故だろうか、俺の扱いが雑になる予感しかしない。

 いやまあ愛理さんとイチャイチャしてると心が落ち着くからしてるのだが、まあうんリスナーだったら脳破壊されているようなものだからな。


「そういえばゆきちゃんとの関係は分かるんだけど、希華さんとの関係って?」


「知り合い」


「siveaの一期生と関わりある感じですね」


「sivea創立の一人」


「それ言っていいのか?」


「知らない」


「なるほどねー」


 正直隠しているわけでもないが、siveaとしてはあまり話すべき話ではないような気がするんだがな。

 コメ欄を見てみれば「なるほど」とか「そういうことか」といったコメントが見られる。


「ちなみに、凛斗いなかったらsiveaなかったからね」


「え……」


 希華の発言に驚いたのか、kqnrさんが声を漏らした。

 コメ欄も大騒ぎ。


「どことは言わないけど日本の有名なゲーム会社から派遣されたんじゃないかってレベルで天才だから」


「いやそんなわけないだろ」


「じゃあなんで自分の担当じゃない仕事もできて、アドバイスもできて全部一人で解決することができるの?」


「私、お正月にsivea行ったとき凛斗さんが本当に凄いこと聞かされてびっくりしたんですよね」


 俺は別にそこまで凄いわけじゃないからな……

 ただ色々なことを齧った感じだったし、やれと言われたらやる人間だったからそういうことができただけだ。


「まあ今は取り合えずこっちに集中しような?希華、雪さん」


「そうですね」


「まあどうせ、このことは凛斗が説明する」


「まあそうだな。いつか話すか」


「何年後の話になるんでしょうかね~古参勢の私は信用してませんからね」


「信用してくれよ」


 どうやら俺の古参勢のリスナーは信用してくれていないらしい。

 まあ俺がいつか話すと言ったことはいつになっても話すことがないということが多いからな。


「まあ天才様がやるVA〇ORANTは凄いことになりそうだねー」


「天才様って……」


「思えばsiveaに関わりが強いメンバーが一番多いのうちなのか」


「そうですね」


 半分がsiveaと関わりが強いメンバーである。

 他のチームには一人、二人いるくらいだな。


「しっかしsiveaはゲーム強い子多いよね~」


 このVA〇ORANT大会に出てるsivea所属のVはほとんどがゲーム上手い人が出場している。


「なんでsiveaはVtuber事務所なんだろうね?プロゲーマー事務所でもいいような気がするけど?」


「元々一期生はREVIAの会社員だったこともありますし、別にゲームが特段上手い人だけってわけではないんですよね。まあ六期生は4人中3人がゲーム上手いらしいですけど」


 そういえば六期生のデビューがそろそろなのか。

 正月に愛理さんと一緒に公式放送に出たのが懐かしい。

 そういえばあれから4か月も経ってることに驚きだ。


「また増えるの……懐に優しくないよー」


「Dustarさんは箱推ししてますもんね……」


「そろっと新しい部屋が欲しいかも……」


「どれだけ買ってるんだ……」


「んー全部買ってる。くじ系がかさばって大変なことになってるけど」


「分かります……」


 雪姫雪花のくじが出たときは本当に置き場所に困った。

 ちなみにあの時は中々当たらなくて、何万消えたのか数えることをやめたぐらい引いた。

 少し後悔している。

 だって愛理さん全部持っていたんだよ……


「凛斗君は分かってくれると信じてたよ!くじ系本当に被りまくるよね!」


「でも、被っても手に入れるたびに欲求が満たされてく感じがしてダメなんですよね」


「分かるー」


「限界ファンが二名」


 まあ実際そういうものなので、他に何も言えない。


「仕方がないんだ……推し活というのは失って得る物が大きいからな」


「そういうものなんです」


「なぜゆきちゃんまで」


「凛斗さん推してたんで」


「なるほど……推し合いしてたのか」


「まあそのくせ凛斗さんは、私がVCつけて一緒にゲームしても気づかなかったんだけどねー」


「その節はどうもすみませんでした……」


 マジであの時の俺、阿呆だと思う。

 いや推しぐらい気づけよ。

 推しがリスナーとして見ててVCつけて参加してくれるとかいう非現実的なことが起これば気づけないかもしれないが。

 誰かに似てるとは思ってたんだけどなぁ……

 思ってただけだったなぁ……


「まあ推しと喋るなんて現実味ないよね~」


「Dustarさんは最推し誰でしたっけ?」


「ツキだねぇ……」


「凛斗とツキ、仲クソが付くほど悪いよ」


「え?」


「いやまあ色々とあったんです……色々と……」


 あの頃の記憶の中でも特に鮮明に残っているのはツキだな。


「凛斗さんなんでツキさんと仲悪いのか理由聞いたことないんだけど」


「いやまあ色々とあったんだよ……色々と……」


「ふーん」


「あーこれ後で凛斗しばかれる」


「希華?物騒なこと言わないでくれるか」


「消えそうだね?」


「まあ頑張れ」


 説明するのも面倒くさいし、愛理さんに何か言われるのも面倒くさいって……

 しれーっと何もなかったことにしよう。

 それからすぐに配信を終わることになった。


「これから毎日集合、大丈夫?」


「はーい」


「明日からは試合やっていく感じで」


 そして各々で配信を閉じて今日の集まりは終わった。


「緊張したー……」


 多分話しやすいようにはしててくれたと思うが、やっぱり有名人と話すと緊張するしそれが向こうのリスナーにも聞こえてるとなると緊張してしまう。

 慣れなければ大会本番でも、この調子だったら流石にプレイに影響してくる。

 段々と慣れるように頑張ろう。

 一種の心構えのようなものをした。

 そんな瞬間思いっきりドアを開けられ、心臓が止まるほどいや止まったんじゃないかというレベルで驚いた。


「凛斗さーん」


「驚かさないでくれ」


「なんでツキさんと仲悪いの?」


「いやまあ喧嘩するほど仲が悪いだけだ。性格の相性とかもあるかもしれないが」


「本当ですか?」


 嘘に決まってる。

 本当の事を言えばただただツキが気持ち悪いだけである。

 俺がsiveaにいたとき中学生である。

 そしてそのころのツキはショタコンだったので、中学生にしてはできることがきもすぎてあまり中学生といわれなかったが、ショタっぽかったらしいので間一髪というところまで行った。

 そしてそのことは俺的にはただの恐怖体験でしかなかった。

 それで助けてくれたのが黒瀬さんだったので今でも慕っているとまではいかないが、まあ尊敬している感じだ。


「樹さんって嘘苦手そうですね」


「そんなに分かるものか」


「いやまあリアルは半年程度の付き合いですけど、なんかわかるようになりました」


「そうか、半年か……」


「若い高校生カップルが一緒に暮らして半年も経って何もしないのもどうかと思いますけどねー」


 俺の愛する人は余韻に浸る間も与えてくれないようだ。


「何も言えん」


「卒業まで待てなくなってきましたけど、どうしてくれるんです?」


 元より待ててないだろ愛理さんは……

 正直最近は理性との戦いが疎かになってきている気がする。

 心の中ではまだダメだと言っているが脳が空っぽになっているのか愛理さんに侵されているのか分からないが、そのうち手を出してしまいそうなくらいには負けてしまっている。


「大会優勝したらご褒美欲しいなー」


「何がいいんだ?」


「なんでもいいです」


 何を選ぶかによってセンス問われるやつでは?

 ……まだ猶予はあるし優勝するかもわからない。

 大会本番までには考えよう。


「期待してますからね」


「ハードルを上げるな」


「本当になんでもいいですからね?」


「その二ヤつきをやめてから言ってくれ」


「んふふ~」


 まあ正直話の流れ的に何をすればいいかは確定しているようなものだが、俺は抵抗するぞ。

 ただそんなことを考えられないくらいには疲れているので、取り合えず今日は寝た。

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