#4

 俺は最後まで雪花様の配信を堪能して自分の配信の準備に取り掛かった。

 そういえば今日も特に内容を決めてなかったな。

 雑談でいいか、と思い雑談配信として準備した。


「枠たった瞬間に待機コメするとかよっぽどの暇人だな」


 俺が枠を用意するとすぐにコメ欄に立凛が『待機』とコメントしていた。

 なに?毎分更新してるのか?

 そうじゃないと説明がつかないよな……

 いつものことなので特に気にせず適当に夕飯を食べてから配信を開始した。


「こんばんは、神木凛斗だ」


 立凛も雪さん……も『こんばんは』とコメントしてきた。

 愛理さんいたのかよ。

 まあでも言ってしまえば俺もさっき雪花様の配信を見てたわけだし何も言えない。


「二人とも来てくれてありがとな」


『私はやることないからね~暇で絵を描いているぐらいなら君の配信を見てた方が楽しいからね』


「お、おう、そ、そうか」


 なんだか照れ臭い。

 それをよそに雪さんは……


『私も暇ですし聞いてて安心するような声なので今日も来ました』


 いや暇じゃないだろ!と心の中でツッコみを入れた。

 登録者数が100万人いっているそれに加え事務所に所属しているやつが暇だと……

 なんなら今からでも配信してもらいたいぐらいだ。

 俺は心の中でそう思ったが今このまま配信に載せてしまえば色々とまずいで済まされなくなる。


「許嫁の件もある奴が暇とか言ってる場合じゃないと思うぞ」


 その相手は俺だがまあ、立凛は知らないしなこの話題にしても問題ない。


『そ、それは~』


『よそ向いたら駄目だよ。で、関係はどんな感じ?』


「そうだな……確かに俺も気になる」


 若干本音を交えながらも話題を振った。


『そのお相手が知り合いで……まあ色々とお互いのことを知っていたんですよね……』


「そんな偶然もあるんだな」


『世の中って狭いね。私は狭いというか関わりがないというか……』


「ボッチという認識で間違いはないな。まあまず人間として失格だと思うが」


『え、あ、あーいやまあ仕事のことは、ね?あれは暇だし……』


「そうかそうか仕事が終わって暇で無断で帰る奴がいるとは俺は思わないがなあ」


 俺は立凛を追い込んでみた。

 流石に俺もあれはだめだと思うからこれを機に反省してもらおうじゃないか。

 こんな大人を参考にしてはいけないそれぐらいはわかるが立凛はそれを知らなかったようだし一から常識というものを直した方がよさそうだ。

 というかよくクビにならないよな。まあ、仕事はやってるからというわけかもしれないな。

 すると急にスマホに連絡が来た。


『なんで気が立凛さんに向くんです?私のこともかまってくださいよ』


 最初の一文で束縛系かと思ったらただかまってほしいだけのようだ。

 配信中にそんな奴がいるか!


「あ!そう言えば話が逸れていたな。気になるんだが知り合いってどういう感じなんだ?会ったことがないと言っていたよな?」


『確かにそうですね。ネットの知り合いなので』


『へえ、ネットねぇ。それでそれでどうなの?』


『どうとは?』


『顔よ、顔どうだったの?』


 なぜか勝手にリスナーの間で話が進んでいる。

 まあ、立凛と雪さんだから構わないが……

 ここしばらく見ていない初見リスナーもこれを見たらすぐに去っていくだろうな。


「で、結局雪さんの許嫁はネットの知り合いだったということでいいか」


『なんだか振出しに戻っただけみたいな感じですけど……』


『途中は全部無視するスタイルか。嫌いじゃないよ』


 どの口が言うんだか。

 俺は長く続きそうだったので雪さんと立凛の会話を無理やり止めた。

 その後は適当に話をしたりして適当に配信を終わらせた。


「はあ、今日の出来事は俺にとっては重かったか」


 体の疲れが見え始めたのでこれ以上起きてもつらいだけだろうと思い夕飯を食ったり支度をしてその後、深い眠りについた。









 俺は朝いつも通り支度をして学校へ向かった。


「……お前、また良くない噂が流れているぞ」


「……そうか、いつもすまん」


「気にすんな、内容は……今送っておいた」


 その言葉の通り少し経ったらスマホが鳴った。

 こいつの名前は塚野 京一つかの けいいち

 この学校での情報はこいつから聞いている。

 こいつは陽キャ、陰キャ、男子、女子、分け隔てなく接しているいわゆるクラスの中心的な存在だ。

 俺はその人望の厚さを利用して俺に対する噂だけじゃなく色々と聞いている。


「そろそろ俺は行くわ。こんなところお前も誰かに見られたくないだろ?」


「ああ、まあな。これからもよろしく頼む」


 俺の言葉に反応して背を向けて歩きながら手を振っていた。

 さて確認するか。

 俺は鞄の中にあるスマホを取り出し送られてきたメッセージを見た。


「……これぐらいなら気にする価値もないな」


 スマホの画面には「1-2有坂紀里と1-2神崎樹熱愛か!?」と、いかにも雑誌に乗りそうなタイトルが送られてきていた。

 内容を見てみると昨日俺ら二人とも休んでいたというのがきっかけらしい。

 でたらめだな。


「はあ、こいつらの勝手にしておこう。どうせ大事には発展しない」


 なにせ有坂紀里という名前が載っているのだから。

 あいつはこれを認めるわけがないということは金か圧力で潰しにかかると俺は思う。

 なら俺が出る幕はなく知らず知らずのうちに終わっているだろう。

 あいつを頼るのは断固として拒否したいがこればかりは俺の力ではどうにもできないことだ。


「なにせ俺はただの一般人の家庭の息子という認識だしな」


 俺は小声で誰にも聞こえないようにそう呟いた。

 これに関しては俺が匿名で流したものだ。

 普通だったらこれには誰も反応しないだろうが俺の場合は最初から企業の息子とかという噂が流れていたのでこれを流して変えただけだ。


「おっと、そろそろ教室へ向かわないとだな」


 時計を見てみると時間に余裕はあるもののあのくそお嬢様が蹴ってきてそれで時間が食われることは分かっている。

 俺は少し早歩きで教室へ向かった。









 俺が教室へ着くと紀里の机の周りには女子が集まり俺の机の周りには鬼の形相を浮かべた男子が数名いた。

 あれを信じたやつらか。


「おい、これはどういうことだ?」


 男子が一人スマホの画面をこっちへ見せながら近寄ってきた。

 ひぃー怖い怖い。


「なんだそのでたらめ記事は」


「そうなのか?」


「当たり前だ。あんなに俺を嫌ってるやつとそうなるとでも思ってんのかお前は」


「確かにそれもそうだな」


「ああ、だからそこをどいてくれると助かる」


「「「ウオォオオオオオオオオオ!」」」


 机の周りにいたやつらは全員雄叫びを上げ歓喜していた。

 さっさとそこをどいてくれると助かるんだがなあ。

 少し経ちどき始めたので何事もなかったように座った。


「災難だったな」


 京一が横を通りながらこそっと呟いてきた。

 あいつ怖いな。

 足音も立てず周りに声をが聞こえないように呟いてくるやつは学校にそうそういないよな?


「ん?……はあ、面倒くさいな」


 机の奥に何か入っていると思ったら「色々と聞きたいことがあるから昼休憩の時屋上へ来て頂戴」と紀里からの手紙が入っていた。

 親衛隊に見つからなくてよかったな。

 紀里もあいつらが俺の机に集まることは予想外だっただろう、どうせ今頃は見つからなくてよかったと安堵していることだろうな。

 昼休憩まですべての暇な授業を聞き待った。









 昼休憩になると同時に俺は立ち上がり紀里よりも先に屋上へ向かったといってもこの学校で屋上の使用は禁止されているので行けるところまでだが。


「待たせたわね」


「で、何の話だ。見当はついているが」


「ちょっとそこどきなさい」


 そう言われたので俺は大人しくどくと鍵を取り出して屋上へ出れるドアを開けた。

 こいつやってるな。

 鍵の所有は基本担当になっている教師以外はもっていないはず。

 俺はなぜ持っているのか疑問を持っていた。


「借りてきたのよ」


「そういえば鍵の担当は猪口先生か。なら納得だ」


 俺の言った猪口という苗字は屋上の担当をしている教師だが学校自体を楽観的に見ている教師で生徒からの信頼も厚い。


「まず昨日のことを聞いてもいいかしら?」


「ああ、問題ない」


「なぜ昨日はあんな場所にいたのかしら。一応言っておくけど私は親の都合で休んで時間が余ったから行ったのだけれども」


「全く一緒だ。俺も親に呼ばれてな」


「でも、あなた言い方が悪いけれども一般家庭の生まれでしょう?普通は呼ばれないんじゃないのかしら?」


 確かに言っていることは合っている。

 普通に考えたら親がサラリーマンとかなら考えられない話だ。

 自分の職場に子供を呼んでも意味がないだろうしな。

 俺は少し特殊な一般家庭だということにすることにした。


「うちは少しばかり特殊でな」


「ふ~ん、そうなのね。いいわ、これ以上は聞かないわ。もう一つ聞きたいのだけれどもあの噂は何?」


「でたらめだな。いつものやつらが勝手にしたみたいだぞ」


「やっぱりいつものなのね。後であの部活は潰しておくわ」


 潰っ…………

 今まで紀里を甘く見ていたのかもしれない。

 これやらかしたら俺退学させられるルートへ突入するよな?

 これからは紀里との接し方は慎重にしようと心に決めた。


「もういいか?」


「ん?ああ、もう行ってもいいわよ」


 少し動揺しながらもこの場を離れた。

 教室へ戻る途中泣き叫んで顧問に縋っているとある部活部員を見たが俺は何も知らないし見てもいないことにした。









「佐二なんでそこにいる」


 すべての授業が終わり生徒が帰っている中俺も帰ろうとしていたがなぜか佐二に出待ちされていた。


「もちろん昨日の配信は見たね?」


「ああ、もちろんだ」


「いつもと雰囲気が違うのには気づいたかい?」


「……そうか?あまり変わらなかった気もするが」


「最初だけだからね~。恐ろしく早い雰囲気の切り替え、僕でなきゃ見逃しちゃうね」


 最後のほうにどこかのモブキャラの少し変えられたセリフが入っていたが実際雰囲気が違ったことに気づけるこいつは凄いと思う。

 俺はしっかりと見逃していたからな。


「コラボだからか?」


「いや違うと思うね。他のコラボでもあんな雰囲気は出していなかった、ということは日常で何かいいことがあったとかじゃないかな~」


 こいつ……鋭い!

 確かに中身の愛理さんはなんか気分上がっていたみたいだが推しに会えたからか?

 それを言ってしまえば俺は爆散しそうだったけどな。

 昨日のことを思い出し複雑な思いを抱いた。


「まあ、気のせいかもしれないけどね~」


「いやたぶん合っているんじゃないか?知らんが」


 そんな会話を終わらせ俺は普通に帰ろうとしたがスマホが鳴ったので確認してみた。


「チッ……まだ帰れないのかよ」


 京一から呼び出された。

 面倒くさいがあいつは聞きたいことがあるだろうから俺は指定された場所へ向かった。


「出てきていいぞ。というかその中二病こじらせてる感じやめたらどうだ?」


「アハハ、キャラ付けというのは大事だろ?」


「……まあいい話ってなんだ?」


 こいつのいつもの態度はキャラなのか?と疑問を抱きつつも何を話してほしいのか聞いた。


「お前らの噂を流していた部活が廃部になったのは知っているよな?あれをやったのはお前か?」


「いや違う。紀里がしたと言っておく」


「そうか……お前じゃなかったのか。すまんな、急に聞いて実のところを言うと千郷に言われて調べていたんだが……有坂か」


 千郷ちさとというのはこいつの彼女のことだ。

 思い出した、あの新聞部には千郷の友達が居たな。

 調べているのは千郷の友達が居た部活の廃部した原因、それで取り上げられていた俺を聞いてみたが原因が紀里だと知ったというのが現状か。


「お前だったら殴ってやろうと思っていたんだがな」


「本音駄々洩れだな、おい」


「しかし有坂か……仕方ねぇ、諦めてもらうしかないな」


「なんかすまないな」


「いや気にすんな。あいつが有坂に喧嘩を吹っ掛けたことが原因だからな」


 有坂を止められるぐらいの権力が俺にもあったらよかったが……

 自分の立ち位置を守るために周りを売ったような行為……黙っていたおかげで立ち位置は変わらないが……いやあの場で何か一言でも言っていたら良かったのかもしれないな。

 心の無さと無力さを痛感した。


「そうだ、疑った詫びとして今日手に入れた貴重な情報を渡すわ。今日校長の部屋の前を通ったやつが転校生が来るという情報を手に入れていたんだ。まだ広がってないからお前に渡しておくわ」


「それは俺に広げろということか?」


「ああ、そういうことだ。なにせ学校中の情報をいじれるのがお前だからな」


「分かった……全校に話が通るようにしておく」


「頼んだ……?あれ頼んでいるな俺……まあいいかよろしく頼むわ」


 そういって手を振ってこの場を離れて行った。

 転校生というのは愛理さんのことだろうな。

 頼まれたからには仕方がないのでこの情報を全体に放っておいた。

 これがどう受け取られるのか……楽しみだな。

 あと、おまけで女子ということと見た目が良いらしいということを勝手に流しておいた。

 こっちのほうが男子受けしやすいしすぐに広がるからな。

 俺は情報共有が終わってから家に帰って配信をしようか悩んだが久しぶりに休んで父さんに頼まれていたシステムの開発を進めてから今日という一日を終えた。

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