推しのVtuberが許嫁だった

夜葉音

#1

 俺、神崎 樹かみざき いつきはオタクのVtuberだ。

 俺はもともとはただのクラスの端で陰キャしながら同志とただただ話しているだけの人間だった。

 そんな奴がなぜVtuberなんか始めたのかというと今でも推している「雪姫 雪花ゆきひめ ゆきか」というVtuberの影響いや少しでも話してみたくてVtuberになった。

 その時はその願いが叶えばいいという願いの一心で昔から応援している絵師に依頼した。

 しかし相手は登録者数100万も超えていること忘れて必死になっていた。

 案の定その願いは叶うはずもなく……


「こんばんは~神木 凛斗かみき りんとだ」


 挨拶をし俺はいつも通り配信を開始した。


ゆきさんいつも来てくれてありがと~ママはいつも通りいんのか~」


 この二人は毎回のように見かけている。

 コメ欄で「いつものように扱い雑だね~」と言っているこの人は俺の絵師である「立凛たちりん」 

 ちなみにこのVの名前の「凛斗」は立凛が自分の名前からとりたいといいこうなった。

 雪さんはいつもコメントしてくれる常連リスナーだ。

 デビュー当時からずっと居てくれている。


「今日はすること決めてないけどしてもらいこととかある?」



『今日の出来事を話す雑談はどうですか?』

 

 珍しく雪さんから提案された。

 いつもは『したいことをしてくれればいいです』みたいなコメントをしてくれている。


「え、じゃあ家に雪花様のグッズが届いたことでも話すか」


 俺は雪花様について語りだした。


「で、ちなみにいうと圧倒的な金欠」


『配信機材で結構使ったでしょ?』


 まったくその通りだ。

 配信機材を集めるのに五十万以上使い本当はグッズなど買える状況ではないのだ。


「収益化が通ればましかもしれないが……な?」


 コメ欄が静寂した。

 今の同時視聴者数なんと2人それも雪さんと立凛だけ……


「うちの学校バイトもできねぇからなあ」


 今までの貯金で何とかしているがそろそろ底につきそうだ。

 机の中にある通帳を手に取り確認したがやはりもうすっからかんになりそうだ。


「まあでも配信は初めてよかったと思ってるからいいか」


 やっていていて楽しかったことは何度もある。

 すると少しコメントが反映されるのが遅れたのかわからないが……


『雪花さんにお金を使うのをやめたらどうですか?』


「雪さんわかってないな。推しに貢ぐことが生きがいってことを」


 立凛にいろいろと言われているが無視した。


『じゃあ凛斗さんもグッズ出してください。買いますから』


「ん?それは雪さんは俺を推しているということか?」


 気になったので聞いてみた。


『そうですが?』


「あ、そうだったのか。それはありがたいな」


 少し感情が高ぶった。


「ママにグッズの件は頼んでおくよろしく」


 丸投げにしてやった。

 こういうめんどくさいことは極力したくない。

 立凛もめんどくさがっているが立凛は何でも引き受けてくれるので丸投げにしていても大丈夫だ。


「じゃあ今日はここら辺にしておくか。お疲れ様~」


 そう言って配信を閉じた。

 それと同時にDMに何か送られてきた。


「前からグッズのこと考えていたのかよ」


 立凛からグッズの案が送られてきた。

 底辺も底辺のいいところの人間にここまでしてくれるのはうれしい。

 どれも良さそうなのでしてもらうことにした。


「さて雪花様のアーカイブでも見て寝るか」


 アーカイブを見てから今日一日を終えた。









 いつものように俺が低血圧であることを恨みながら支度をし学校へ向かった。


「いつも通りのようだね~」


「お前にもこのつらさ分けてやろうか」


「勘弁してくれ~」


「なにが勘弁してくれだ」


 謎に語尾が伸びているこいつは雪花様を見ている同志伊藤 佐二いとう さいじ

 こいつはいつも暇してるなと思いながらも教室へ向かった。









 教室の席へ向かった。

 俺の席は一番後ろの窓際、最高の陰ポジ。

 あまりクラスになじめないというか人と話すのが苦手で結果教室ではぼっちしている。

 ぐすっ……ま、まあ、俺には雪花様がいるしぼっちでもいいもん。


「あなた気持ち悪いわよ」


「去ねこのくそお嬢様野郎が」


 素早く堂々と正面に腕を突き出しながら中指を立ててやった。

 は~すっきりし……

 思いっきり頬にビンタをお見舞いされた。


「あなた常識も知らないのね」


 おまけに蹴りも食らった。

 マジでこいつ女子でお嬢様ってことを言いように使いやがって……

 この最低野郎は有坂 紀里ありさか きり

 あまり詳しくは知らないが大手企業のお嬢様で俺を見た瞬間から貶してくるような最低野郎だ。

 俺は雪花様のために反論した。

 ちなみに言うと自分のためではないあくまで雪花様のためだ。


「雪花様のこと考えて何が悪い」


「それを顔に出してるから悪いのよ」


 軽蔑の目で見下された。

 その目をされると興奮するのは俺だけだろうか?

 わかる奴いるだろう?

 そう思いつつも立ち上がり……


「さっさと消え失せなさい」


「お前がな」


 最後にもう一度中指を立ててやった。

 案の定蹴りを食らったが無視して席に戻った。

 席に着いたが特にすることもないので今日の配信内容と雪花様の配信スケジュールを見てHRを迎えた。









 蹴りを食らったところが妙に痛む。

 そう思いトイレでその部分を見てみるとみごとにあざができていた。


「あーマジか~」


 表面お嬢様という皮をかぶった元ヤンだろあいつ。


「あの時よりはましか」


 一度だけ本気で蹴られたのか当たり所が悪かったのかわからないが骨折させられた。

 あの時はずっと心配してきたがもちろん無視した。

 ちなみにその時はなぜか俺の悪評しか広まらなかった。

 その時の俺の心情は「なぜ俺がこんな目に合わなきゃならんのだ?」である。


「最悪だ」


 憂鬱な気分のまま教室に向かい昼休憩を過ごし残りの授業を受けた。









「こんばんは~いつも通りの二人だな~」


 いつも通り雪さんと立凛が配信に来ていた。


「今日は何しようか」


 学校で考えていたにもかかわらず特に決まっていなかった。

 さて困ったどうしようか?


「え?参加型?なんで二人とも意気投合してる?」


 俺が悩む暇もなくコメ欄に同時に参加型と二人が出した。

 参加型か、一度はやってみるか。


「どのゲーム?」


 するとまたも同じように意気投合したかのように同じゲーム名が書かれた。

 俺がいつもやっているゲーム名だった。

 このゲームは雪花様の影響を受けてやり始めたゲームでもある。

 そんなことも考えながらも参加型の準備をするのだった。


「じゃあフレンド申請してくれ」


 するとまるで準備していたかのように送られてきた。

 早くね?

 どちらとも承認し入ってきてもらった。


「どっちもやりこんでるなあ」


 二人ともレベルがカンストしていた。

 それに対して俺は……


「VC?別にいいけど……」


 ボイスチャット通称VCまたはボイチャと呼ばれるものをつけてもいいか聞かれた。

 向こうがつけたいんだったら別に何も思わない。


「こんばんは~凛斗ちゃ~ん」


「キモイ」


「そんなっ」


 声からもわかるようにガクッとうなだれていた。


「えっと、こ、こんばんは」


「初めまして?雪さん対よろ~」


「こちらこそ対よろです!」


 ん?なんだ?この既視感……

 雪さんの声に多少なりの既視感を覚えたが気にすることはなかった。

 早速マッチが開始し最初はのんびりやろうということになった。


「SR頂戴」


「え?いつも使わない……」


「多分二人ともうまいからポイントだけもらっておこうかと思って……」


「立凛さん?戦ってください」


「ほら雪さんも言っているじゃないか」


 雪さんからとてつもない圧がかけられていた。

 というか立凛一人で攻めても勝てるぐらいの実力はあるはずなんだがな……


「ま、まあ、二丁持ちはしないから」


「当たり前だ。片方SMG持っとけ」


「うえ~い、SMG乱射しまくるぜ~ひゃっほーい」


 そう言いながら無駄に撃って弾を消費している。

 だめだ完全におふざけモードになっている。

 SMGは立凛の得意武器だが持つたびあの調子だからなあ。


「敵発見しました」


 すぐさま発砲音がなった。

 雪さんはしっかりと索敵していた様子。


「一人ダウン詰めましょう」


 発砲し始めてから約数秒で仕留めた。

 え?この距離を発見からこのスピードでダウンだと……

 相当実力があるだろう。

 流れに乗って敵のほうへ詰めた。


「二人……三人、1パ壊滅です」


「うわぉ、予想よりも上の実力だね」


 やばすぎだろ。

 発見から壊滅まで俺たちの出番はなかった。

 大会出ていてもおかしくないレベルかもしれない。

 そのあとも雪さんが一人無双を始めて俺たちはおこぼれをもらっているだけだった。


「凛斗さんに手柄が……」


「気にしないでいいから楽しんでいるんだったらなによりだ」


「実際ポイントうまうましてるし凛斗も気にせんやろ」


 心配しているような声で訊いてきた。

 なんか変な語尾になっている立凛は置いといて雪さん強すぎだろ。

 一人任せていても壊滅させて戻ってくるのが怖すぎる。


「ん?あ!すまんやられた」


 このゲームの最強武器で頭を抜かれたみたいだ。

 特に回り遮蔽物もなく確殺を入れられてしまい観戦モードに切り替わった。

 どうせだったらこの機会に雪さんのプレイ見てみるか。

 そう思い画面に変えると少しだけ思うところがあった。

 雪花様と動きが似ているような……

 見ていると癖やエイムの動かし方までそのまま写したかのような動きだった。


「雪花様……?いやそんなわけないか」


「どうしたの?」


「いや何でもない」


 多分気のせいだろう。

 それでも雪さんのプレイは参考になるので見ていた。


「そこでその判断に行きつくのがすごいよなあ」


「どうしたんですか?」


「いや今のところ……」


 戦闘中にもかかわらず立ち回りのことなど考えた。

 互いにどれが最適か出し合い雪さんの考えは自分にはないものばかりだった。


「確かに次機会があればやってみたいです」


「こちらこそ参考になった」


「何この疎外感」


 ちなみに言うと立凛はこの話に一回も入ってこなかったいや入ってこれなかったのほうが正しいか?









 その後も何試合かし最初居た場所へ戻ってきた。


「面白かったしこれからも定期的に参加型するか」


「こちらも楽しかったので次もぜひ参加させてください」


「私も入れてくれるよね?」


「参加型の配信した時だけだがな」


「プラベでもやろうよ」


「こっちは学生だわ。んな時間ねえよ」


 ただでさえ勉強への時間を削ってやっているせいで成績が悪いというのにこれ以上下げたらどうなることか……

 両親の姿を思い出し震えた。

 一方立凛は「何その無職で暇人みたいな扱いは……」とか言っているが別にそんなに変りないだろう。それよりか俺はあの両親だけは敵に回したくないのでプラベでやることはないだろう。


「まあ、やることはないわ」


「そんな~まあ、学校頑張ってね」


「私も応援してます」


「ありがとうな二人とも」


 ここまで心に響いたのは久しぶりだった。


「この後は配信続けるの?」


「ん~雑談しようか迷ってる」


「しましょう!」


「そんなに楽しみなのか雪さんは」


「楽しみです!雑談雑談♪」


 先ほどまでの緊張していたテンションとは大違いだった。

 そこまで言われると責任感を感じてしまう。

 仕方がないので雑談配信に切り替えることにした。

 枠は変えるのがめんどくさいのでタイトルだけ変えておけばいいだろう。


「じゃあこのまま雑談配信に切り替えるか」


「やったー!」


「じゃあVC抜けるね」


 そういうと二人はパーティーから抜けVCも切った。


「さて何話すか……」


 すると雪さんが『学校どんな感じで過ごしてるのですか』とコメントした。

 え~陰キャかましている俺が話すことなんかないんだけどなあ。

 そう思いながらも頭をひねってあの事を思い出した。


「話すことがあるとすればクラスメイトのお嬢様がガチでうざい」


『どういうこと?』


「俺が雪花様のことを考えたときに顔に出るらしいがそれを見るたびに気持ち悪いと言ってくる」


『それは凛斗が悪い』


 いやまあ顔に出ているのが悪いのだろうが……

 さすがにあの話をすれば同感?してくれるだろう。


「それで蹴ったりビンタするやつがいると思うか?」


『いないね』


「まあ、俺が中指立てるのも悪いかもしれないが」


『それは良くないです』


『ねえ、凛斗どっちもどっちじゃない?』


 くそっ、立凛めこっちに着くと思っていたのに……

 さすがに中指立てたことを話したのは失敗だったか。

 次何を話そうか悩んでいると……


『お時間あればいいのですが相談があるんですけどいいですか?』


「ん?相談?別にいいが相談する相手間違えていると思うぞ」


『凛斗に代わって私が聞こうか?』


 そのコメントは俺が役立たずだと言っているようなものでは?

 さすがに言い過ぎではと考えたが確かに俺は相談されても具体的な解決策を出すのが苦手だから確かにそうしたほうがいいのかもしれない。

 それでも雪さんは『いえ、申し訳ないのですが凛斗さんにお願いします』と言ってくれた。

 ここまで見てくれているししっかりと相談に乗るか……

 少しだけ張り切ることにした。


「で、なにを相談に乗ればいいんだ?」


『それがついこの間許嫁がいることを親に言われて……』


「うわぁ今時許嫁かよ」


 普段聞きもしないであろう単語を耳にした。

 許嫁とかどこのお嬢様なんだか……

 俺の印象としては許嫁という言葉は大企業などの会社の社長の娘という一般市民には関わりのない人たちがなることという印象でしかない。

 まあ、俺も例外ではないか……


『相手は会ったこともない方ですし』


「まじ?会ったこともない人間と結婚するなんて最悪じゃないか?」


『最悪です。年齢は私と一緒らしいんですが』


「それでも俺は無理だな」


『私も無理だね。というか人の配信で相談することなのかな?』


 まあ確かにそれはそうだ。

 俺でもまず人には言わないだろう。

 立凛の意見に深くうなずきながらも話を続けた。


『せめて凛斗さんだったらいいなと何度も思います』


「なんだよそれは」


 雪さんの謎の爆弾発言?なのかはわからないことを言った。

 大して変わらない気もするが……


『まあとにかく聞きたいことは何から話を進めればいいと思いますか?』


「趣味とか聞いて自分と共通することを見つけてその話に花を咲かせた方がいい。何かと楽だからな」


 人づきあいが苦手な俺からの助言だ。

 この言葉はあまり信用ならないと思うがこれで大丈夫なはずだ。

 またコメントが来た。


『やっぱりそれが無難ですか……』


「まあそうだな。話を始めないと何も始まらないしな」


『ありがとうございます。参考にしますね』


「参考程度にしておけよ。間違ったことを言ってるかもしれないしな」


『私もそれでいいと思うから大丈夫』


 立凛に言われても少し不安だ。

 そう考えつつも特に話すこともなくなったので配信をやめベットに入り瞼を閉じた。








 朝起きて部屋を出てると固定電話から突然電話がかかってきた。

 見てみると見覚えのある番号だった。

 父さんか。

 恐る恐る電話に出てみると……


「久しぶりだな。突然で悪いが今日は学校を欠席してくれ」


「はあ?何言ってんだ?」


 久しぶりの会話の始まりがこれとか親子関係、最悪だな。

 そう思いつつも欠席しなければならない理由を考えた。

 結論が出る前に話が進み始めた。


「事の説明は後でする。まずは会社に来てくれ」


「何時までに?」


「そこからだと一時間はかかるか……なら三時間以内に来い」


「……三時間だな?間違っても二時間に変えることはしないようにしてくれ」


「ああ、約束しよう」


 これが親子の会話というものか?

 そう思いつつも電話が切れてから俺は急いで身支度を始めた。

 一時間はかかるというのは電車での移動だけの時間だ。

 実際は歩きも含めるので二時間はかかる。


「せめて昨日のうちに言っとけよ」


 頭を抱えながらもスーツに着替えた。

 父さんの用件の時は大体こういうものを着て行かないといけない用件が多い。

 なので高校に入ってから母さんが買ってきた。

 学生服でいいだろと何度も思う。


「面倒くさい」


 そんなことも思いつつも身支度をし家を出た。









 予想よりも早く父さんの会社に着いた。

 会社の中へ入ると声をかけられた。


「お久しぶりですね。樹様」


「いい加減その様付けやめてくれませんかね?自分年下なので……」


「私たちはこの会社で働いている者ですからね。社長のご子息には敬語でいるべきでしょう」


 またそう言いくるめられたのであきらめた。

 確かにそれも一理あるかもしれないが俺はできれば勘弁してもらいたい。


「樹様をお連れするように言われているので……」


「…………いちいちこういうことをしなくてもいいんだがなあ」


 人に聞こえないようにひとり呟いた。

 俺は父さんがよこした迎えについていった。









 父さんがいるところまで行く際に何度も声をかけられた。

 無視してくれればいいのにと思った。

 と、そんなことを思っていると目的地に着いた。


「樹様をお連れしました」


「……入ってくれ」


 目の前にある扉を開け中に入った。


「樹適当に腰を掛けろ案内ご苦労だった。外してくれ」


 そういうと連れてきてくれた人は部屋を出て俺と父さんだけがこの部屋に残った。

 俺は即座に用件を聞いた。


「いきなり呼び出してなんだ?」


「用件は二つある。一つは対ウイルスシステムの開発だ」


「は!?まさかじゃないが俺一人でやれとか言わないよな?」


「いや一人でやってくれ今この会社は別のことで対応が追われている」


「ふざけんな!」


 座っている椅子へ当たった。

 こういうことも平然と真顔で言うあの顔に一発殴ってやりたい。

 負けることは目に見えているが……

 ただでさえ学校行って時間が少ないというのに……


「落ち着け、もう一つは今日許嫁に会うことだ」


「……は?許嫁?」


 その言葉が頭によぎった瞬間頭の中が真っ白になった。

 ……嘘だろ?

 もう一度疑うように訊いてみた。


「マジで言ってんの?許嫁?」


「ああ、嘘でも何でもない。事実を述べているまでだ」


 さっきまでの怒りはとうに消えてすべてが崩れ去った感覚に浸った。

 昨日の雪さんの発言?を思い出した。

 雪さんもこんな気持ちになったのだということがよく分かった。


「会うのは何時だ?」


「向こうが到着する予定が……あと一時間半後だな」


「っ、わかった。一時間後まで一部屋貸してもらうぞ」


「ああ、一時間後までには戻ってこい」


 頭の中で整理が追い付かないまま部屋を出た。

 まじでふざけんなよあの親。

 急に呼び出しておいてこんなことを話すなんて……

 イラついたまま適当な部屋へ入った。

 一度落ち着くためにもう一つの用件を思い出した。


「なんだよ。俺一人で対ウイルスシステムを作らないといけないなんて」


 どういうものにすればいいかなどを聞いてはいないが前回のものよりも性能を上げろということだよな?

 そう思い部屋にあるPCを一台借り早速始めた。









 時計を見ながら作業すること一時間。

 約束の一時間後になったので父さんがいる部屋に戻ることにした。

 父さんへの怒りは少し落ち着いた。

 部屋の前に立ちノックして……


「入るぞ」


 そういって扉を開けた。


「来たか。向こうはあと数十分で着くそうだ。お前はそこに座って待っていろ」


「詳しいことは話してくれないのか?」


「そういえば話していなかったな。簡単に話すと相手は財閥のお嬢様で俺の親友の娘だ」


「まじで?嘘だろ……」


 まさかの親同士のつながりで許嫁ができてるとは思わなった。

 それも財閥ということはどうせ投資とかでもされたのだろう。

 投資とかいろいろめんどくさいことは俺はよく知らんがそういうものだろ?

 こんな父親にはあきれるしかなかった。









 特に何もしないで数十分待っていたら。


「相手が着いたみたいだ。ここで待っているか?」


「できればそうしたい」


「わかった。戻ってくるまで部屋から出ずに待っていろ」


 父さんは席を立ち部屋を出て行った。

 はあ、相手はどういう人なのか……

 というかあれ?俺喋れなくね?

 ふと自分が他人の前では話せなくなる人見知りだということを思い出した。


「まずいな。まあ、それなりに頑張るか」


 そんな独り言を吐きつつも待った。

 だんだん緊張もしてきたので深呼吸をしていったん落ち着かせるのだった。









 数分待っていると急に扉がノックされ中にまず父さんが入ってきた。


「連れてきたぞ」


 そういうとまず父さんと大体年齢が同じ男の人が入ってきてそのあとをついてくるかのように女子が入ってきた。

 俺はその女子を見た瞬間に息ができなかった。

 まるで物語の中から出てきたかのような美しさを持っていた。


「えっと……あの、そのよろしくお願いします?」


 と挨拶?されたので返さねばと思いすぐに……


「えっと……こちらこそよろしくお願いします」


「二人とも座ってくれ」


 俺と対面するように今来た二人は座った。

 やばいめっちゃ緊張する。


「樹、あちらは雪上家当主雪上 城雪ゆきがみ じょうせつと隣にいるのはお前の許嫁雪上 愛理ゆきがみ あいりだ」


「愛理、この企業の代表取締役兼社長の神崎 弓義かみさき ゆみぎと愛理の許嫁の神木樹君だよ」


 簡単に互いの親が自分の子に紹介を済ませた。

 次に口を開いたのは向こうの城雪さんだった。


「許嫁のこと今日聞かされたんだって?すまないね。弓義はもう少し親子の会話を持ったらどうだ?」


「こいつのことだ。あまり気にしてないだろう」


 雪上家当主の人は名前の割には結構楽観的な人だった。

 さあ冷静になれよ俺。

 相手が財閥の人間ということと許嫁が絶世の美女だということに正直言ってビビり散らかしている。


「さて紹介も済んだところだし弓義僕たちはさっさとこの部屋から退散させてもらおうか?」


「わかった。二人で仲良くやっておけよ」


「うちの子奥手だからね。少しは進捗があるといいんだけど」


「うちもそうだ。いつになったらあの人見知りは治るんだか」


 あきれたように首を横に振った。

 頭にきたがここで怒るのは違うだろう。

 そう思い耐えることにした。

 そんなことを父さんたちは言いつつも部屋から出て行った。

 き、気まずい……


「「あ、あの……」」


 言葉が重なりかなり気まずくなった。

 や、やばい俺もうだめだ。


「で、では、私から……あの……ご、ご趣味とかあります?」


「しゅ、趣味ですか……」


 どう答えたらいいのかわからなくなり困惑し始めた。

 趣味……配信のことを言うかそれともゲームのこと?

 何を話せばいいか迷っていると向こう側が先に口を開いた。


「一応私はゲームとかしてたりしてます」


「あ、え、ええっとまあ、自分も結構しています」


「「……」」


 会話が途切れてしまった。

 なにを、なにを話せばいいんだああああああああ―――――

 心の中で精一杯叫んだ。

 そういえばこの人の声どこかで聞いたことが……

 聞いててずっと思っていたがこの人の声に妙に既視感を覚える。


「一応聞きますけどどういったゲームを?」


「特に決まってやってないです。あえて言うなら……」


 昨日も配信したゲームを口にした。


「自分もまあしてます」


「そうなんですか!」


 明らか今までのとは違う食いつき方をした。

 これは話せるか?


「私も結構してるんです」


「あれ、結構楽しいですよね」


「楽しくてずっとやってます」


 俺の知っている話題だと話しやすい。

 というか少し……というかだいぶ気になったことがある。

 これは俺の間違いでなければいいんだが……

 そう思いつつも話を振ってみた。


「あの~失礼かもしれませんが一つ聞きたいことが……」


「はい??何でしょうか?」


「唐突かもしれませんがVtuber知ってたりとかって……」


 Vtuberという言葉を聞き目を見開いていた。

 これはもしかしてだが……


「ちなみに聞きますけど雪姫雪花って知ってます?」


「え、え、え、い、いや、いやいやち、違いますよ」


 目をそらし明らか動揺したような反応を示していた。

 というか知ってます?って聞いてるのに違うって言ってるし……

 これは確信した。

 この人……


「もしかして……雪姫雪花だったりします?」


「ひゃああああああああお、終わったぁ」


 膝からガクッと地面に落ちた。

 ありがとうございました無事俺は尊死を遂げることができるようです。

 推しが許嫁ってもう俺死んでいいかな?

 雪姫雪花を推している者だったら尊死するだろう確実に。


「な、なんでわかったんです?」


「ふぐっ、え、い、いや声が似てるなあと思ってカマかけたら引っかかって……」


「そ、そんなぁ~」


 推しが膝をついているのに対して俺は……

 やばい生で推しの声が聞けてる。

 俺の耳が癒されいると幸せに考えていた。


「ばれたのならこっちも聞きたいことがあります!」


「なんですか?」


「神木凛斗さんですよね!?」


「は?え、な、なんで……?」


 推しの口から俺の配信者名が出るとは思わなかった。

 俺を認知しているのか?

 そう思い軽く訊くことにした。


「何で知って……」


「それはだって私も一リスナーなんですから」


「はい!?」


「だから、私も一リスナーなんです」


「え?いやでも……」


 疑いを隠せないような衝撃の言葉を耳にした。

 雪花様が俺のリスナーだった?

 誰だ一体……

 俺の配信にコメントを残してくれているのは立凛と雪さ……ん?

 点と点が繋がったようにに俺の頭の中で何かが出来上がった。


「まさか雪さん?」


「はいそうですよ!昨日も配信に来て参加型に入っていた雪です!」


「へ?は、はああああああっ!?」


 お、終わった……

 俺のことがばれていたなんて……

 俺はこんなことを夢にも思わなかった。

 まさか俺の推しのVtuberが許嫁だったなんてえええええええ―――――

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