第4話 現状把握

 桃子は今更ながら身に起きた事柄に混乱していた。本当に今更ながら、死んだはずなのに体は自由が効く、ここはどこ、私は今井桃子のままだ、おばあちゃんがよく見ていたドラマの景色にいる、とパンク寸前だった。


 しかし、そんな彼女の思考を簡単に落とす言葉があった。今まさにその言葉を女が発した。


「妾には、そなたのような気丈な女が必要じゃ」


 桃子の混乱した頭が一瞬にして空っぽになった。彼女の頭には女の声だけが幾度も繰り返される。


「あたしが必要‥?」


 今井桃子は承認欲求が非常に強く、ちょろいのだ。


「わ、分かった。ケド、一応知らない人に着いていくわけだし、怖いし?名前教えてよ」


 桃子の幼子の様な口調に女は微笑んだ。そして女は名乗った。


「妾の名は福じゃ」


 その名は後に春日局となり、後世でも語り継がれていく大奥を作り上げたものの名だった。

 この時、桃子は福がただのお節介なおばさんであるという認識でしかなかった。しかし、この出会いが彼女の運命を大きく変えるきっかけだという事はまだ知らない。

 自身が江戸幕府の基盤を作り上げるために一役買う事もまだ知らない。


「福ね。わかった。よろしく」


 こうして桃子は、奥入りした。


⭐︎桃子の小話

 実際に春日局は浅草参りの帰りに四代将軍徳川家綱の母となるお蘭、のちに宝樹院となる少女を大奥にスカウトしたっていう史実が残ってるよ。春日局フレンドリー過ぎん?せんけんのめってやつ?冴えすぎ〜。あと、話しかけてくるジジィまじなんなん?そういう売りやってねぇからみたいな。歌舞伎町も江戸も治安悪すぎ。


<注>

奥入り:大奥へ勤めに入ること。

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