第40話 ランチタイムでバッタリ

(どうもヘンだ)


 スポーツ用品店での買い物を終え、お昼ごはんを食べる予定のファミレスへ移動中、私はそう思った。


 ちなみに私が買いたかったものはランニングシューズ。例の体質のせいであちこち駆け回るのであっという間に靴の寿命が尽きてしまうのだ。靴屋でも良かったけど、冷却スプレーなどの消耗品も一緒に手に入るためスポーツ用品店をリクエストした。


 あまり運動しない綺沙良や鳴衣にとってはさぞかし暇な時間になるだろうと思っていたら、綺沙良はスポーツウェアのコーナーを物色して「意外と可愛いなこれ……盲点だった」とかなんとか呟いていたし、鳴衣は鳴衣で品物を見ながら物凄い速さでメモを真っ黒にしていたので、特に問題はなかったらしい。


 閑話休題。


 時折雑踏の中に感じていた違和感というか、既視感というか、とにかくその不思議な気配はスポーツ用品店を出た時にも感じた。でもこれまでと同様正体を突き止めることは出来ず、もやもやしたものが心に残るだけとなった。


 そんな私の状態に、当然親友2人が気付かない訳もなく。


「どしたのこよいっち?さっきから妙に人混みを気にしてるみたいだけど」


「いやその……なんと言うか、人混みになんか覚えのある気配を感じると言うか……」


 私が歯切れ悪くそう口にすると、2人は後方の雑踏に目をこらした。


「……知り合いらしき人はいないけど」


「やだなこよいっちのストーカーとかだったら……今日は特に着飾って可愛くなってるわけだし」


「もしそうだったら責任持って私が物理的にオハナシするけど……別に悪意ある感じはしないんだよね」


「来宵、普段から色んな目に遭いすぎて過敏になってるんじゃない……?」


 鳴衣の指摘はもっともだ。正直私の中の“危険感知センサー”みたいなものの感度が滅茶苦茶高いことは否定出来ない。


 だが今回に限っては多分気のせいじゃないという謎の確信があるのだ。


「うーん……そう言われれば、そうかもね」


 2人をあまり付き合わせるのも考えものなので、取り敢えずは鳴衣に同意しておくけども。


「まあまあ、あまり気にしないのが吉だって!美味しいもの食べて忘れるべし!!」


 そんな調子の綺沙良に付いて、いつの間にかすぐ近くにあったファミレスに入っていく。『500円1枚あれば十分お腹を満たせる』という、学生に優しいイタリアンレストランだ。


 通された席は窓際で、広々とした公園の風景がよく見える。大きな木組みのアスレチックや、木陰でベビーカーを突き合わせて談笑しているママたちの集団の姿があった。


 それぞれドリンクバー付きのパスタと、3人で食べるための大きめのサラダを注文し、思い思いのドリンクでコップを満たして一息つく。パスタの種類も私がミートソース、綺沙良がカルボナーラ、鳴衣がたらことバラバラなので、交換用の取り皿も持って来てあった。


「えっと……次のお店って、あの中でいいんだっけ?」


 そう私が指差したのは、公園の先に見える大型ショッピングモール。確か春音市再開発の流れで建設され、先月オープンしたばかりだったと記憶している。私もまだ入ったことはない。


「そうそう。そこの服屋さんの品揃えが凄かったんだよー。特に夏に向けての水着コーナーが増設されてたね」


「水着かぁ」


 毎年夏休みには海かプールに行く機会が結構あるので、確かに水着は新調しておきたいかもしれない。


「他にも夏物が充実してるから、私が2人の分もコーデしてあげるよ」


「「楽しみ」」


 私と鳴衣がシンクロする。綺沙良のコーデはだいたい鳴衣が選ぶ本くらいにはハズレがないからね。今回も期待が高まるというものだ。


 私の背中に例の“覚えのある気配”を感じたのはその時だった。


 反射的にバッと振り返ると、ダークグレーのトレーニングウェアに身を包んだ男女が、店員さんに私たちの隣のテーブルへと案内されて来るところだった。


 向こうは店員さんがメニューを置いた後でこちらに気付いたらしく、数秒停止する。


きざはし……?」


 ようやく判明したあの気配の正体は……どうやら暁兄妹だったようだ。

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