13話目です お泊り①

「さて、今日はここら辺で解散――」

「せいかー! カナメちゃん、まだ帰ってないー? もしよかったら、泊まっていってーって!」

「「え」」

 話が一区切りついたところで、カナメに帰るよううながそうとしたら、下から母さんの声がした。その内容に、二人してピシッと固まる。

(なにを言ってらっしゃるので、お母さま……?)

 いや、でもカナメだって年頃だ。さすがに、同級生の家に泊まるのは抵抗があるだろう。

 そう思ってチラリと横を見る。カナメもこちらを見て、わかってる、というようにうなずいた。

 二人で階段をおり、下にいる母さんのところに向かう。

「あ、カナメちゃんやっぱりいた! どう? 今晩くらい。家も近いし、なにかあればすぐ帰れるわよ!」

 家近いっていうか、隣なんだから泊まんなくてもいいだろ。てか、なにかあるってなんだ。なにがあるってんだよ。

「どうしたんだ、母さん。そんないきなり」

「いや、凛華ちゃん――カナメちゃんのお母さんね――が、今日仕事遅くなるって言ってたから。どうせならうちで面倒見ようかな、と思って」

 なるほどなぁ。でも、中学二年生だ。一晩親がいないくらい、大丈夫ではないか。

 カナメも断り方に迷っているようで、苦笑を返している。

「なぁ、母さんやっぱり泊まりっていうのは――」

「そ、そうですねっ、残念ながら今回は――」

「それに、今日の夕飯はから揚げよ!」

「――お泊りさせていただきます!」

 食いもんにつられるなよ……。


「ん~、ほんとおいしいですね、これ!」

 から揚げをつまみ、ほおをおさえながら、なんとも幸せそうな顔でカナメが言う。

「そんなこと言ってくれて、お母さん嬉しい!」

「よかったな。……まぁ、から揚げは人気メニューだしな。というか、食べたことなかったのか?」

「えぇ。母様が、なかなかこういうものを食べさせてくれず……。初めて食べました」

 マジかよ。から揚げ食べたことないやつなんかいたのか。

「さすが、お父さんが校長なだけあるわね。普段、どんなものを食べてるの?」

「そう、ですね……。普通の食事です。給仕さんが作ってくれる、健康的な料理ですよ。たまに、家族で外食に行ったりもしますが。オススメは、――《ピー》というレストランで、」

「え、そこめちゃくちゃ高級レストランじゃなかった!? 一品、何千もするっていう……」

 ……やっぱこいつ、お嬢様だ。

 目をまんまるくする母さんと、眉をひそめる俺を見て、カナメは首をかしげた。


「あ、そういえば。最近、流行っているものを吉高さんから聞いたのですが」

「吉高? 誰だ?」

「……クラスメイトの女子です。あれだけ好意を向けられているのに、気づかないものですかね」

「?」

 俺の反応に、もういいです、と言うとカナメは大真面目な顔をした。

「コイバナ、というものが流行っているらしいです」

「へえ、――ぶっ!」

「ちょ、汚いです。礼儀ってものがないんですか? 言っとくけど、ふきませんよ」

「せいか、はい机ふき」

「誰がたのんだ! 自分でふくわ、んなもん! 母さん、ありがと。……げほっ」

 飲みかけの味噌汁をせいだいに吹き出し、思いっきりむせる。

 ったく、コイバナ女子とするとかそっちの方が気まずいわ!

 まあ? カナメはよくわかってないっぽいし、このままごまかせば……。

「さあ、始めましょう!」

「あ、あとでな? あとで」

 妙にやる気なカナメをさらりと流し、ニマニマする母さんの視線からスッと目をそらした。


「おやすみ~」

「あぁ、おやすみ」

 ただいま、夜の九時。風呂に入って、寝る時間だ。健康な中学生なのならな。

 というか母さん、なぜカナメを帰さない。家となりだし、もういいじゃん。

「でも、帰ったのか? いないし……」

 先ほどから見かけていない。独り言をつぶやきながら、自室のドアを開ける。

「なんでお前がいる……」

「泊まってくれと言われたので、お言葉に甘えて」

 どこから持ってきたのか完全な私服と、クッションを胸にだき、座るカナメがいた。ゆるめの白いパジャマに、風呂から出た後のしめった黒髪と、ほてった頬。うーん、普通の男子ならイチコロかな?

「泊まるのはいいが、ここじゃないだろ。俺の部屋だ。出てけ」

「……少し、話したいことがあったので。少しですので」

 懇願するカナメに、仕方ないとつぶやく。べ、別に上目遣いにやられたとかでは断じてない。

「なんだ? 少しなら……」

「コイバナです」

 ……ぜっっったいやだ。

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