第4話 話し合いの結果Ⅰ

「婚約を解消してきた」


 太陽が西に傾くころ両親がテンネル侯爵家より帰ってきました。ティールームに呼ばれた私はお父様の話を聞いているところです。


「大丈夫だったのですか?」


 あの莫大な慰謝料を見たら、すんなり了承されたとは思えませんけれど。


「婚約を破棄したいと言ったのはエドガー様ですから、あちらに責任があると思いますが。そうであれば、慰謝料の支払いも発生すると思うのですが」


「そうだな。縁がなくなればそれもあり得る」


 なんだか、歯切れの悪い言い方です。お父様らしくない。縁がなくなればって婚約解消したのだからつながりはなくなったと思うのですが、まだ、何かあるのでしょうか。納得できずにお母様を見ると静かに微笑んでいらっしゃいます。

 何なのでしょうか。


「契約のことについては両家でしっかりと話し合うから、フローラは心配せずに私たちに任せておきなさい」


「そうですね。差し出がましいことを言ってしまいました。わかりました。お父様たちにお任せします」


 婚約は家との契約でもありますから、当主に権限があり娘が口出すことではありませんでした。

 それにしてもお父様、娘が婚約解消されたというのに、清々しい表情をしてらっしゃいますけど。こんな時は悲壮感が漂ったりするものじゃないのでしょうか。

 

 婚約解消については不満もありませんし、よかったと思っています。好きな方と結婚するのが一番ですから。


「ただ、今回の件で、もしかしたら結婚相手を探すことが困難になってしまうかもしれませんが、それはよろしいのですか? 資金援助をしてくれるところを見つけるのも大変ではないのですか?」


 そうなのですよね。問題はそこなのです。結婚を条件として考えるのならばとても厳しいのではないのでしょうか。婚約解消されたという瑕疵があり、それに加えて研究資金の問題。


 テンネル侯爵家は広大な土地を所有しており、金鉱や鉱山、風光明媚な観光地もあります。農業も盛んで、ローナの栽培もしています。国内でも有数の資産家なのです。


 我がブルーバーグ侯爵家は土地こそ狭いですが、最高峰と呼ばれる技術者を抱えており、製鉄をはじめ様々な機器類を製造しています。それと医療にも力を入れ薬草や薬、健康食品などの開発もしています。最近は農産物にも注目して加工製品も作るようになりました。

 

 それがテンネル家の目に留まったのです。観光地をさらに発展させるための商品を生み出すことと農産物の充実化。それらを実現させる代わりに研究資金を提供する。それを円滑に行使するために婚姻を結ぶ、はずでした。


 エドガー様と初めて顔合わせをした日のこと。

 両家の両親がいるうちは良かったのですが、二人きりになった時にはっきりと嫌いだと言われました。身内の前では見事に隠していらっしゃいましたから、錯覚してしまうこともありました。

 婚約をしたからには少しは歩み寄らなければと思った時期もありました。もしかしたら、好きになってくれるかもと期待したこともありました。けれど、そんな日は来ませんでした。


 いつの日からか、愛情なんて私には必要ない。研究が出来さえすればいいと思うようになったのです。

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