第6話

そしてその夢は、数々の奇跡と偶然を重ねながら実現寸前にまで到達する。

千二百年たった現代の日本でも、なし得ない有徳者による政治を実現一歩手前まで進んでいくとは二人はまだ気付いてなかった。 


「今日の授業はこれで終わりです。今日の勉強は難しかったですか。明日は少し切り替え違う話をしましょう」


東宮学士の吉備真備は、阿部内親王に穏やかに声をかけた。


「すみません先生、だけど世界が広いのが分かり面白いです。私もう少しその話を聞きたいので懲りずにまたそのお話をしてください。今日もありがとうございました」


阿部内親王は、いつも通り行儀よく終わりの挨拶をした。

彼女はとても活発であったが、将来美人になるであろう上品な気品を兼ね備えていた。彼女は挨拶を終えると振り返って後ろで控えていた侍女の広虫に声をかけた。


「お天気もいいし、今から庭にいきましょ」


「はい、お庭の花々がすごく綺麗に咲いてますね」


広虫は、嬉しそうに返事をした。

広虫は、内親王が小さい頃から仕えている侍女で

内親王のお気に入りだった。

彼女も、庭に咲き乱れている花々が気になっていた。二人はしばらくの間花々が綺麗に咲いている場所で花を見てまた花を摘んで籠に飾り、花輪を作ったりして遊んでいた。


「この花輪すごく綺麗ね。私こんなに上手に編めないわ。広虫は何で器用にできて羨ましいあなたの旦那様になる人は幸せね。私は大丈夫かしら?」


阿部内親王は広虫に心底羨ましそうにしゃべった。


「羨ましいなんてとんでもない。私のほうこそ、いつも阿部様のようになりたいとずっと憧れているのです」


広虫は吉備地方出身の女儒として、わずか十三歳で一人宮中にあがった。母恋しくて寂しく泣いていた自分にいつも気にかけ優しい声をかけてくれたのは、阿部内親王だった。広虫は今それを考えると畏れ多くて恐縮で身が引き締まる事だったのと思い、阿部様に

どんな事があっても支えていこうと心に誓っていた。そんな広虫に内親王は返事をした。


「私は憧れるような人じゃないわ。

ただ父が天皇だから皆が私を甘やかしてくれてるだけ。父がいなかったら私はただの人以下よ。

情けないわ。

もうこの話はやめましょう」


内親王はそう言うと、自分の作った花輪を自分の頭にのせてポーズをとった。広虫も負けじと花輪を頭にのせたが、やはり内親王の優美で上品な仕草には勝てなかった。

花輪でひととおり遊ぶと、また新たな花輪を作りだした。内親王は広虫のように美しい花輪を作ろと真剣だった。 

その様子を、たまたま側で通りかった聖武天皇が声をかけてきた。

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