第8話 迷宮の上野、終焉

 店を出て、ビルの入口が見える路地の角で客引きを装い壁に寄りかかってターゲットが出てくるのを待つ。店で会計した時にもらったガムを噛みながら状況を整理していみる。

キャバクラが疑似恋愛目的なんだから、バーで口説くシチュエーションも疑似口説きとしてアリだよな。

しかし、昨日の熟女パブといい、今回のターゲットは相当マニアックな趣味だな。

【状況整理って、ターゲットの趣向の整理かい・・】


23時10分、ターゲットが店を出てきた。またしてもターゲット一人だけ。キャストとのアフターは無いようだ・・。

上野駅へ尾行を続ける。昨夜同様京浜東北線に乗り込んだ。これは今日もハズレのようだ。

やはり川口駅で降りた。ホームには蒲田行最終電車のアナウンスが流れている。今日はこれ以上の尾行に意味はないと判断して上りの最終列車に乗り込んだ。

田端でも大崎止まりの最終電車と接続があり、ジュクまでギリギリ辿り着くことができた。連荘完徹は回避出来たようだ。


 事務所兼セーフハウスのドアを開ける。

事務所特有の匂いに包まれたこの瞬間、俺の緊張は解けるのさ。

【そろそろ掃除しないと。せめてゴミは捨てないと、もう匂ってるよ・・】


結局晩飯がまだだったな。深夜だし、軽く和食で済ませるか。

確か素麺があったはず・・あった。素麵を茹でながら麺つゆを探したが、これも切らしていた。仕方ない、アレンジするとするか。色々なバージョンを考えたが、やはり牛丼弁当に付いていた七味と塩だけになってしまった。

料理とは味だけじゃなく、見た目やネーミングも重要なのさ。よし、名付けて「夜食向けカロリーオフ、素材の味が楽しめるピリ辛素麺」ってところかな。

【ラノベのタイトルですか?】

早速出来立ての、夜食向けカロリーオフ、素材の味が楽しめるピリ辛素麺を食べる。

うん、味も無いけどコクも無い。ただしょっぱいだけだ。

【マジまずそう・・】


しかし、ダンディズムとは、味など細かいことは口にせず、栄養として摂取吸収できればそれで良いのさ。さ、腹も膨れたし、一休みするか。

【たぶん、栄養としてもあまり無いよね、これ・・】


長ソファーに横になる。日々身体を限界まで酷使している国際派探偵という俺の職務上、睡眠による疲労回復は最重要事項の一つだ。

【いつから国際派になった?】

ベッドに寝られればもっと疲れが取れそうなものだが、緊急事態に対応する必要がある以上、これは仕方がない。

【アパート追い出されたからね・・】

その代わり、快眠グッズには一切の妥協をせず、最高の物を用意してあるのさ。

それがこの羽毛の掛布団。そんじょそこらの掛布団と一緒にしてもらっちゃ困る。

アジアの奥地にしか生息しない伝説の野鳥の羽から作られた超高級羽毛賭け布団。

とても貴重な品物らしいが、俺の親友がたった5万で売ってくれたのさ。

やはり持つべきものは心から信頼できる親友だな。ヤツは俺にこんなに貴重な物を紹介してくれただけじゃなく、俺が俺の友達にこれを紹介して、売れた場合には俺に手間賃までくれるって言うんだ。本当に優しいヤツさ。

【それ、羽毛布団のマルチ販売でしょ・・ 伝説の鳥ってなんだよ・・】





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る