第11話 魔の森へ出発!

 それから数日、常設依頼の魔物討伐や薬草採取をこなしつつ、僕の自作魔道具やワンド(杖)の使用感を試し、ユイナとの連携を高めていった。

 僕の役目はまず何を置いても『サーチ』の魔法による索敵で、戦闘か撤退かを事前に判断できるので、かなり安全に活動できていた。サーチの結果、討伐が可能ならユイナが奇襲をして仕留め、僕は敵が複数残っている場合にユイナのフォローをするように自作魔道具で小さなファイヤボールを連打して牽制するのが基本になった。牽制のタイミングや方法は大分上手くなったと思う。最初は焦って変な方向に撃ったり、ユイナが踏み込もうとする方向に撃ったりして、大変だった。・・・その度にユイナがアクロバティックに避けてどんどんジト目になったが、あれ、ユイナじゃなければ何度か当たってたかも。ジト目で済んでホントに良かった。

 ちなみに『サーチ』以外の魔術は危なっかし過ぎるので基本封印である。ワンドは出来ることと威力を確かめるために、動けない相手に止めに使ってみたが、威力は凄まじくても僕が近接戦闘するのは今は無理なので、使わないで済むように立ち回っている。

・・・やっぱり隠れた才能とか、神様っぽい人からのサービスとかは無いようである。


 そうしてある程度手応えを掴んだので、ユイナと魔の森へ出発するための準備に冒険者ギルドに来ていた。

「魔の森の位置とそこまでの薬草や魔物のチェックはこれでよしっと。ユイナ、この薬草類で判らないのある?」

「大丈夫にゃー。どうする、直ぐに魔の森に行ってみるかにゃ?」

「うーん。魔の森にたどり着くのに1日、探索に1〜2日かかるとすると、往復で5〜6日必要だから…保存食切り詰めれば、何とかなるかな?」

「う、安物の干し肉にゃ…しょうがないにゃ…」

一瞬耳がペタンとなって悲しそうな表情を浮かべるユイナだが、

「いや、現地調達すればいいにゃ。森の中ならイケるにゃ。狩るにゃ。受付でアスラにどんな生き物がいるか聞いてみるにゃー。」

と受付カウンターにいるアスラのところに向かって行ったので、慌てて僕も追いかけたのだった。


「おはようございます、ユイナさん、ライルさん。」

「おはようございます、アスラさん。」

「ライルさん、武器は決まりました?」

 アスラは笑顔で朝の挨拶をして迎えてくれた後、相談したことを気にかけて聞いてきてくれた。

「ええ。この頑丈な棍棒クラブをとりあえず使おうと思います。」

 教授に貰った魔道具のワンド(杖)については下手に目立つのを避けるため、ユイナと話し合って、棍棒と言うことに決めていた。

「なるほど。扱い易そうで良いですね。武器の扱いに慣れてきたら、より破壊力のある物に換えていっても良いでしょうし。」

「うん。重いと武器に振り回されるし。これで頑張るよ。ユイナも特訓してくれるし。」

「へー、そうなんですね!良いですね!」

「うん。でもありがたいけど、容赦ないんだよね…。」

そう言って日々の訓練を思い出して顔をしかめると

「ニャハハ、私にまかせるにゃ!強くしてやるにゃ!」

と言ってユイナが良い顔でニッコリ笑ったので、思わず顔が引きつった。

それを見てアスラは堪えきれなくなって吹き出し、笑っていた。


「ところでアスラ、魔の森にいる獣や魔物を教えて欲しいにゃ。特に食べれて美味しいのを教えて欲しいにゃ!」

 笑いが収まったアスラにユイナが尋ねると、アスラは一呼吸置くようにちょっと背筋を伸ばして、

「あ、ついに魔の森に行かれるのですね。最近の情報は浅い所だけであまり無いですが、獣では小動物の他に、鹿やウルフ、ボア(猪)、ベアー(熊)が多いそうです。どれも巨大らしいですけど。その中では、ジャイアントボアが別格の美味しさらしいですよ。」

と教えてくれた。

「にゃるほど!…じゅるり。」

美味しい肉を想像して、ユイナは垂れそうなつばを飲み込んでいた。

そんな中、アスラはさらに続けて、

「魔物は奥に行く程凶悪なのが出るそうですけど、近くではゴブリンやオークぐらいらしいです。巨大なスパイダーやスネークの方が強いかもしれません。

 ただ魔の森は深く入ると悪霊が出るらしいんですよ…。ある時期を境に呪われたという噂が絶えなかったんです。あまりの多さに名前が魔の森に変わったくらいですから…。十分注意して下さいね。」

と魔の森の注意すべき情報を教えてくれた。

「そうにゃのか。呪われた人はどうなるにゃ?見たことはあるにゃ?」

「私は無いんですけど。とても人前に出れる状態ではなくなって、再起不能になるらしいです。最近は気味悪がって誰も入らないですし。」

「ふーむ、ライルのサーチを頼りに行くしかないかにゃ…ライルよろしくにゃ。」

「僕が頼り!?ヤバい…」

自分にかかっていると聞き焦りが出たが

「本当にやばかったら私がライルを担いで逃げるから心配しなくて良いにゃ。大丈夫にゃ。」

とユイナが私に任せろとばかりに胸を張ったのだった。

・・・いや、女の子に担がれて逃げるのかなりかっこ悪い・・・。まぁヤバくなったらそうなるだろうし、何か容易に想像できるけど、極力そうならないように頑張ろう。


「じゃあアスラさん、情報ありがとうございました。」

「あ、ユイナさん、もしできたらで良いのですが、エクスポーションの材料の、白透草を採ってきてくれると助かります。魔の森でよく採れたらしいんですけど、最近行く人いないから、あまり出回ってなくて。高く買い取りますよ。」

「分かったにゃ。見つけたら取ってくるにゃ。行ってくるにゃ〜。」

「いってらっしゃい。気をつけてー!」


こうして僕とユイナはアスラに笑顔で手を振ってギルドを出て行き、


「無事に帰って来てください。」

アスラは去ってゆく2人の背中を見ながら祈っていた。

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