第33話

 その頃、吉田観月は電車の中に居た。

「この時間なら余裕で座れるのね、かやりん」

「か、かやりん!?」

 隣に腰掛けていた茅野詩織は、びっくりして思わず手にしていた手提鞄を取落していた。



 國府田空良は、吉田観月の事を良く理解していた。

 社交的なタイプの彼女を渉外担当にした事は勿論の事だが、彼は彼女にもう1つ大切なミッションを与えていた。


 新生都高弓道部員を、1つにする事


 竹を割ったような性格と持ち前の明るさで、彼女は男女を問わず人気が高い。

 ミス都高コンテストで暫定2位に付けている事も、彼女を知る人間には当然納得の行く事だった。

 それ故に、彼女にしか出来ない役割の重要性についても、観月は気付いていた。



「いいじゃない、同学年なんだし」

 観月はそう言ってカラカラと笑った。

「入部時期とか経験者とかで線を引きたくないよね~。私達10人、みんな同期なんだからさ」

「はい、吉田さん」

「あーだから苗字さん付け禁止」

 ぷんぷんとむくれる観月。

「私なんか昨日までに全員のニックネーム決めたんだからね」

「はは」

 ポケットから取り出したメモ帳を真剣な目で見つめている観月に、詩織はクスッと笑った。

「分かった?」

「はい、観月・・・ちゃん」

「よしよし」

 詩織の反応に、観月はニカッと微笑んだ。

 それだけで周囲の明るさが増した様な気がした詩織は、その流れで気になっていた事を訊ねてみた。

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