第15話

「大前 井隼、中立 吉田、落 月島」

「・・・」

「異議のある者は??」

「・・・ありません」

 お、と空良は思った。

 発表直後、一番何かを言いたそうな顔をしていた佳乃が、予想に反して真っ先に了承したのだ。

 他の2人も反論は無く、キンキ大会地区予選はこの立順で登録される事となった。




「あの・・・私の顔に何か付いてますか??」

 巻藁練習の手を止めた佳乃は、先程からこちらの様子を伺っている空良の方を向いて訊ねた。

「あ、いや、別に」

 空良は慌てて言葉を濁した。

 その反応を見て察した佳乃は、再び巻藁矢を番えながら言った。

「最初から決めてたんです。先輩が決めた立順で行こうって」

「え」

「まさか私が一番後ろとは思いませんでしたが」

「ははは」

「空良先輩」

 少し真面目な顔になった佳乃は、言葉を区切って言った。

「出ないんですよね、今度の試合」



「・・・バレたか」

 彼女の問い掛けに、空良は悪戯っぽく舌を出した。

「参加費の都合もあるけど、介添役を他の部員に任せっきりって訳にも行かないからな」

 何故なら、と彼は付け加えた。

「大事なデビュー戦だからな、お前達の。キチンと面倒を見るのが先輩の務めだ」

「はい、だから信じてます」

「そ、か」

 変わらない無邪気な笑顔を見せる佳乃に、空良は「ありがとう」と素直な言葉を返した。

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