第6話 管理人としての生活

 トントン拍子に進んだ俺の再就職。

 まさかこんなにすんなり行くとは……一応、向こうから声をかけてくれたわけだけど、直前になってひっくり返されるってことも考慮していたが、学園長とのやりとりは予想以上に好感触だった。


 その学園長との会話が終わった後、俺はサラに案内されて今後の生活の拠点となる管理小屋へと案内された。


「ここが管理小屋よ」

「へぇ、結構立派な造りじゃないか」

 

 サラの指さす先にある木造の管理小屋は、俺の想像していたものよりずっと大きく、暮らしやすそうだった。


 管理小屋の近くには大きなレンガ造りの建物が向かい合っている。

 

「あれが学生寮か」

「えぇ。西側が女子寮で東側が男子寮よ」

「明かりがついていないようだが……生徒たちはどこか別の場所に?」

「今はちょうど春の長期休校期間なの。まあ、中にはミアンさんのように残って自習や鍛錬をする子もいるけど」

「なるほど。その休校はいつまで続くんだ?」

「明後日には再開される予定よ」


 ふむ。

 となると、本格的に俺の仕事が始まるのもそれくらいになるか。

 気を取り直して管理小屋の中に入ると、さらに驚かされる。

 まず、必要最低限の家具がすでに揃っていた。正直、そこら辺の安宿よりずっと快適な空間だ。


「お風呂は寮にある共同浴場を使って。消灯の一時間くらい前から人の数も減って入りやすくなるわ」

「何から何までありがとう。……君には感謝しているよ」

「どうしたのよ、急に」

「本音を言うと、心底困っていたんだ。これからどうしようかって」

「……私が【星鯨】を去ってから何があったのかは馬車で聞いたけど、あなたはあそこを抜けて正解だと思うわ」


 なんだか……俺の方もそう思えるようになってきた。

 ここでなら、俺は人生をやり直せる。

 本気でそう思えたんだ。


「一応、食料だけは事前に用意してもらっておいたから、それを使って。他に何か必要な物はあるかしら?」

「いや、ここまでしてもらって悪いくらいだよ」

「何言っているのよ。これから一緒に働くんだから、当然じゃない」


 破格の条件だと思っていたが、サラの視点からはごくごく普通のことをしたまでというレベルらしい。この辺が冒険者との違いだよな。あっちはすべて自己責任。豊かな暮らしになるか貧しさにあえぐかは己の腕ひとつで決まる。

厳しい世界だが、何も持たない貧困層で生まれ育った者にとっては人生を逆転できる最大のチャンス――そういう意味では夢のある仕事なのかもしれない。


ただ、富や名声は時として人を狂わせる。

 ブリングの場合は……ヤツはとにかく野心家だったからなぁ。仮に、今ほど冒険者として大成をしていなかったとしても、きっと尊大な態度は変わらなかっただろう。

 それが大陸でも屈指のパーティーに成長したものだから手が付けられない状態になってしまった。それは少し残念だ。


 ――っと、冒険者時代の話はもう関係のない話だ。

 とりあえず今後の予定をについて聞いておこうか。


「明日はどうすればいい?」

「予定としては、業務内容を一から説明していったり、学園で働く職員たちへの紹介をしていこうと考えているわ。ちょうど休校で生徒たちは学園にいないし」

「案内役はサラが?」

「あら、不服なら代わってもらうけど?」

「いや、よろしく頼むよ」


 なんだか、このやりとり懐かしいな。

 あのパーティーで俺が新入り以外に気兼ねなく絡めたのって、本当にサラしかいなかったんだなぁって再確認させられる。


「それじゃあ、私はこの辺で失礼するわね」

「ああ。本当にありがとう。このお礼はいずれ必ず」

「なら、学園街にある酒場で奢ってもらおうかしら」

「分かった。覚えておくよ」


 飯を奢る約束をすると、サラは管理小屋をあとにする。

 ちなみに、教員は教員が暮らすための寮があるらしい。

 本当に何でも揃っているんだな、ここは……こうなってくると、もうひとつの小さな国って感じがしてくるよ。


「さて……今日は早めに寝るか」


 夕食になりそうな食材を漁り、軽く済ませたらすぐに寝よう。

 長距離移動や学園長との顔合わせで心身ともに疲労が限界だ……この辺にも年齢を感じてしまうなぁ。


 そんなことを思いつつ、俺はディナーの準備を始めるのだった。




※明日は12:00より投稿します!


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