第三章 果てにある

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 バスに乗ってしばらく、窓の外には新品の街並みがつづく。

 妙に白みのつよい家々が多い。そのため、さほどでもないはずの緑の色が妙に際立っていた、草花や木々が豊富に見える。街には高層マンションは一切なく、真新しい一軒家ばかりだった。庭も都心も広い。家々の駐車場は、どれも二台以上置け、ほとんどは二台が停まっている。

 まただ新しい街並みが終わると、景色は商業施設になった。どれも巨大で、駐車場も広大だった。一台一台の駐車スペースも広い。

 それからさきは空き地が目立つようになる。

 さらに進むと、次第に、建物は点々と存在するようになり、やがて、ほとんどなくなり、運転手越しのフロントガラスの向こうには地平線に見え始める。そのあたりまで来ると、工場施設が点在しはじめる。その数は、建設中のものを含めても、あまり数はない。

 幅広の舗装路はずっと直線だった。まるで別の国の通りに見える。始発点を出てから右折したのが二度しかなかった。

 やがて《空き箱》の入り口とされる流域を抜ける。景色から人工物が消え、荒涼とした土地が主役となる。どこまでいってもまったいらだった。何かがとんでもないものでも爆ぜて、吹き飛んだかのようだった。この先に何かの複雑な文明がありそうという予感を起させない。陽を遮るものは存在せず、ありったけの光りが車内へ押し込まれてくる。

 土には塩分が残っている含んでいるためか、雑草もまばらだった。どれも短く低い位置までしか伸びておらず、路の端に生えたものは、バスが起こしたささやか風で、ふわりと東へ揺れて、西に戻った。

 時折、思い出したように対向車線からやってくる車があった。巨大なトラックが多く、中には古びたワゴンもあった。稀にセダンがやってくる。セダンの場合は、不思議と荒涼とした景色には似合わない、高そうな車だった。

 やがて道も終わった。

 終点にはコンビニエンス・ストアが一軒だけ建っていた。

 その店は、まだ建って新しくみえる。

 大海原に浮いているように、ぽつんと、荒野にある、駐車場は大型トラックが十台以上、は停められそうだった。

 高校生、花仲文彦はここでバイトをしている。

 週に二度、高校の授業を終え、バスに乗り、ここへやってくる。夕方から店に入り、夜九時まで働く。

 住んでいる家は《空き箱》の外にあった。文彦は、外から通っていた。

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