第15話 不死身の化物 3

「そ、そんな……」


 リーナがそのまま地面に座り込んでしまう。


 奇妙な人物であったとはいえ、自分を助けてくれた恩人が自分のせいで目の前で殺されてしまった。


 ……そもそも、ああいってしまったが、ヤツは魔術師にはとても見えなかった。言葉からも彼なりの優しさが伝わってきた。


 あぁ……私は彼になんと酷い仕打ちを――


 リーナは自責の念で涙がこぼれるのがわかった。


「おいおい。隊長様が泣いているぜ?」


「ぎゃははは! ったく、だから女子供が戦場に出てくるもんじゃないぜ。大人しく家に帰って――」


 と、その時だった。


「あー……やっぱりダメか」


 と、ユウヤに剣を突き刺した兵士の後ろから声がした。それは紛れもなく、ユウヤの声だった。


「……え?」


 兵士が振り返る。


「大体こんな剣で殺せるわけないでしょ……ほら、返すね」


 巨人は立ち上がり、胸から剣を引き抜くと兵士に手渡した。


「う、嘘だろ……」


「いや、現実だけど?」


 ユウヤは少し嬉しそうに包帯の下の顔をゆがめた。


 それからしばらく、あまりのことに兵士たちは呆然とその場に突っ立っていた。


「ひ、ひゃぁぁぁぁぁ!」


 そして、さらにしばらく経ってから、兵士の一人が大声をあげて逃げ出した。


 そしてそれに習うようにその他の兵士も逃げ出した。


「お、おい! お前ら、待て!」


 ユウヤに剣を突き刺した兵士だけが残っていたが、どう見ても彼も他の兵士と同様に今にもそこから逃げ出したそうであった。


「君も逃げた方がいいんじゃないの?」


 と、ユウヤが兵士に呼びかける。


「ひ、ひぃぃ……ば、化物……!」


「ああ。そうだ。俺は化物だよ。早く逃げな。さもないと……」


 そういってユウヤは兵士の剣を掴み取る。すると、剣先を掴んだまま、くしゃりと捻じ曲げてしまった。


「こうなっちゃうよ?」


「ひぃ……ぎゃぁぁぁぁぁ!」


 最後の兵士もそのまま一目散に逃げ出した。


「あはは。全く……まぁ、それもそうか」


 ユウヤは最後に悲しげにそう呟いた。しかし、まぁ相変らず化物だな。自分でもそう思う。


「あ、あぁ……」


「ん? ああ。リーナ」


 と、相変らず地面に座り込んだままの騎士団隊長に笑顔で――本人は向けたつもりだった――微笑みかける。


「ひっ……!」


 涙目になってリーナがユウヤを見る。引きつった顔は完全に恐怖を表していた。


「どうしたの? なんでそんな怖がるの?」


「き、貴様……ど、どうして剣で刺されて……」


「え? あー……そうだね……」


 言われて見ればそうだ。剣で刺されて死なない人間がいたら怖い。ユウヤ自身だって多分、自分がこんな身体じゃなきゃ怖がっていただろう。


「えーと……そういう体なんだよ」


「な、何を言っているんだ!? 魔術師どころか……やはり、貴様がこの森の……ば、化物……」


 その瞬間、ユウヤの中の決定的な何かが切れた。


 別に今までの兵士達に化物呼ばわりされるのはよかった。


 だが、リーナにだけは言われたくなかった。


 それは例えるなら自分の好きな女の子に自分のことを不細工と言われる感覚に似ているだろうか。


 とにかく、ユウヤにはとても許せなかったのである。


 次の瞬間、リーナのへたり込んでいる地面のすぐ隣には、ユウヤの拳での重い一撃が下されていたのだった。

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