【永池家〈1〉】
1200年もの長い年月かかわってきたという
「それじや、私はここまでで」
「え、せっかくだからちょっと上がってジュースでも──」
「とんでもない!」
「?!」
「松埜家の敷地内にいきなり入るだなんて許されないことよ」
「そんな大袈裟な──」
「大袈裟じゃない、永池家の者にとっては大事な事。とにかくうちのことは御両親に話を聞けばわかるから。じゃ、明日朝またここで待ってるわ」
「えっ、明日? 朝?」
「そうよ? 何か問題?」
「何かって・・・・」
「言ったでしょう? あなたを守らないと、って。だから私はやるべきことをやるだけ。送り迎えもそのひとつ」
「送り迎え・・・・え、毎日?」
「もちろん」
「・・・・」
当然でしょ、という顔つきの愛美に私は返す言葉がすぐに出ず、困惑のままその顔をまじまじと見た。
笑みを浮かべず、すん、とした無表情のその顔はまるで能面のようで心情が推し量れない。
不可思議な空気感。
そんなものを彼女は身に
「
「あ・・・・ありがとう」
「また明日ここで」
「うん・・・・」
否応なし。
私に拒否権はないのだと、去ってゆく愛美の小さな背中を複雑な思いで見送った。
────────────────────────
「あ、お母さん」
門脇の通用口から入り石畳を少し歩いた先の花壇のところから、ふいに母が現れた。
「
「!」
母の口からいきなり出たその名に私は驚き立ち止まった。
私が彼女に送られてくることを知っていた?
まさか──
「どうして分かったの?」
「知らせは来ていたから」
「知らせ・・・・」
「永池が愛美さんを送りこんでくれていて良かったわ」
永池、と名の呼び捨て。
そして愛美を送り込んだという言葉。
ここで私は永池家が松埜家の
「お母さん」
「何?」
「その永池家のことだけど・・・・」
「家に入りましょう。その前に──」
そう言うと母は左手に持った小さな
それが意味するところ── 一般的に"邪気を祓う"意図で粗塩をまく行為があるが松埜家では少し異なる。
"何か"を混ぜたもの──その"何か"を私はまだ知らない。
「やっぱり邪気が?」
「そうね、あからさまにね」
「・・・・」
私は黙って母に背中を向けた。
口の中でとある言葉を唱える母。
そして──
「はっ! はっ!」
勢いよく私の背中に
一瞬、全身に身震いが走る。
「それじゃ、家に入りましょう」
「邪気は・・・・
「・・・・中でゆっくり話すから」
「わかった」
どんなことが語られるのかは分からないが、また私を驚かせることがきっと色々あるのだろう──そんな気持ちで母のあとを歩き出した。
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