【永池愛美の正体〈2〉】

「ねえ・・・・どこに行くの?」

「屋上」


 スタスタと先を歩く愛美あいみについて行きながら、正直、私はこれが自分の意思なのかどうかが分からなくなっていた。

 ただ、唐突に渡された2枚のメモの内容があまりに衝撃的かつ不気味だったことが、ある種の呪縛のように私の気持ちを彼女へと引き付けていた。


 屋上に着くと愛美は端にある大きな浄化タンクの裏へと回り、振り向き様に「ここで話しましょ」と言った。

 人気ひとけの無い場所──こんな所で話をしなければならない、その内容とは一体?


「早速なんだけど」

「・・・・」


 真っ直ぐに私の目を見据える愛美。

 どうしてだか私の口から言葉が出ない。

 150センチそこそこの細く小柄な彼女から発されている不思議な威圧感に私は少なからず気圧けおされていた。


松埜まつのさん、もう少し落ち着いた方がいいよ」

「えっ・・・・それってどう──」

「どういう意味か? って?」

「う、うん・・・・」


 言われた意図がわからず私はうろたえた。


「バタバタしないで時期を待て、ってこと。わかる?」

「・・・・」


 何をわかれと?──私は左右に小さく首を振った。


「情報開示!」

「情報・・・・開示?」

「そっ。そう遠からず明かされるんでしょ? 時期が来れば。裏神の正体」

「えっ!?」


 一瞬、息が止まる思いがした。

 けれど愛美は眉ひとつ動かさず微動だにしない。


「なっ、何を言って──」

「ほらまた動揺する。そういうところよ。もっとドンと構えてなきゃ。あなたが自己流に嗅ぎ回るとね、犠牲者が出るのよ、田端さんみたいな」

「犠牲者?!」

「あなたに憑いてる・・・・ああ、憑くなんて言い方は失礼だったわね、ええと・・・・あなたの後ろにいる方がね、気難しいのよ、なかなか。とんでもない存在には違いないんだけど。だから──」

「ちょっと・・・・ちょっと待って」

「何?」

「話が進みすぎて混乱してるんだけど・・・・」

「混乱?」

「あの・・・・つまり・・・・見えてるの?」

「え? ああ・・・・うん。まあ」


 全身が粟立った。

 存在を知られてはならないはずの〈おのろし様〉の姿が見える?

 何故っ?!


「どうして・・・・どういうことなの・・・・」


 絞り出すようにそれだけが私の口から吐き出た。


「そっか・・・・そうよね、面食らうわよね確かに」

「だって・・・・何で・・・・」

審神者さにわ、って知ってる?」


 またも唐突な言葉を愛美が言う。


「審神者?何となくは・・・・」


 確か、神の声を聞き伝える者──


「私・・・・それなのよ」

「えっ」


 驚いた。

 同時に彼女の独特さ、醸し出す神秘性が腑にも落ちた。


「要はうちもちょっと変わった家系、てこと」


 これまでろくに会話をしたこともなかったクラスメート、永池愛美ながいけあいみ


 特殊なのは私だけではなかった。

 


 




 


 



 

 


 

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