side.Kousuke




「コースケ。」



呼ばれたところで、なんと返事をしたらいいのかが判らなくて。もどかしい思いを代弁するみたく、遥に回した腕に力を込めてみる。


遥はそれだけで全てを理解したように。

しょうがないなぁと楽しげに、ひと言呟いた。



顔は見えないがきっと。

いつもの困ったような顔して、笑っていたんだと思う。







「はる、か…」


気持ちばかりが先走り、腕の力加減が全く出来ない。


それに対し遥は何も言わず、ぽんぽんとあやすみたいに。俺の手を優しく叩いてくれた。







「はるか、はるか…」


「ホント甘えん坊だなぁ、お前は…」


俺がいつか、ひとりでも大丈夫になったら。

遥は俺を置いて、誰かの所へ行ってしまうんじゃないだろうか…。


そんな不安に駆られ、

何度も何度も名前を呼んで確かめる。




今は、俺の中。

このままずっとこうしていられればいいのに、と。

そんな想いを込めて俺は遥の名を、必死で呼び掛けた。







「大丈夫だって、晃亮。」


俺はお前を見捨てたりしない。

最後までちゃんと、“ここ”にいてやるから────…






「たく…なんて顔してんだよ。」


向き合って交わしたその目は、

何よりも確かな光だと信じられた。







「はぁ~…しかしマジどうすっかな~…」


おばちゃん、きっと合わせろってウルサいんだろうな…。そうボヤいた遥は、本当に困ったように笑う。


そしてまた、次には悪い顔をして。

俺を捕らえるんだ。







「そうなったら、びっくりすんだろうなぁ~おばちゃん…」


いっそ本気でお前の事、紹介しちまった方が良くないか?と、遥が俺に聞いてくるから。







「それでもいい。」


あのおばちゃんは嫌いだ、でも。

それで遥が二度と、お見合いをしなくて済むのなら…







「へぇ…珍しいな、晃亮。」


人見知りな俺が、自ら会うと申し出たのを。

遥は驚いたようにして、目を丸くしながらも雑に頭を撫でてくる。


そんなこと、当然だ。






「はるかは、俺のだから。」


「!!ッ…そうきたか…」


上等だよ…遥はどこか嬉しそうに眉根を下げて。

乱暴に俺の顔を引き寄せた。


顎髭が、少しくすぐったい。






言葉にして吐き出せば、思い知らされる。

誰かを求めるということが、どういう意味を持つのかを。


それは、





「はるか…」


お前が俺に教えてくれたのだから。


これからも、ずっと。






「急かすなよ…コースケ…」


俺を甘えさせてくれればいい。




…end.

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