012_君に伝える夢一杯な魔道書

「本」「携帯端末」「激しい城」で。


---


 その本はあった。

 なにやら獣のなめし皮で装丁され、縁を金縁で装飾された、銀文字にて題名を記された真っ赤な本。

 人や鳩を飛ばさなくとも、遠くの存在に俺の言葉を遅滞なく伝えることができるという、画期的な魔道具のこと。

 この本は造り方、使い方が書いてある。

 俺の胸は否応でも高まった。


 遠くの者との遅滞無き相互連絡を可能にすると言う。

 今、情報伝達には狼煙や伝書鳩などを使うが、そんなものは比較の対象にもならない。


 ただ、この携帯端末にを使うには二三、あらかじめ用意する必要のある物がいる。

 それは数百の『電波送受信に使う固定電波衛星』、そして星の数ほどの『電信中継送受信塔』の二種だ。


 これにいたっては、図面が幾つも載っているが、正直何が書いてあるのかわからない。

 それでも俺は必死に、それこそ本に穴が開くほど目を通したが、なんの事やら全く意味がわからなかった。

 

 俺の勉強不足ということで片付けると、それはそれで簡単だが──俺にはどうしても諦めきれない。

 一週間読み、考え、計算し、予想図を書いて。


 俺は、


「ちくしょうめ!」


 と赤い本を激しく城の床、俺の書斎の床に騒がしくも叩きつけたのである。


 ◇


 数千数百年の時を越えて、俺が捨てた赤い本の情報は実現された。

 このアイデアは、さる賢者の手により実用化されたという。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る