競輪の神様と非実在の競輪予想師

鉄弾

プロローグ

 平日のひる日中ひなかの立川競輪場。今日は、名古屋競輪場にて開催中のFⅠ「西日本カップ」の場外発売を行っている。

 ビールが一杯いっぱい注がれた紙コップ片手に、場外発売を満喫している飲食店アルバイト従業員で魔法使いの静所おとなしアリサ。

 今日はシフトの都合で仕事はお休み。みんなが働いているときに飲むビールは格別だと思いながら無人投票機へと歩いていた。すると、足がもつれたアリサ。彼女は老紳士とぶつかってしまう。


「ひゃっ!」

 思わず声をあげたアリサ。ぶつかった拍子にビールが老紳士のスーツを汚してしまう。

「あっ!・・・」

 呂律ろれつがまわらないアリサ。

「おやおや、困ったわい」と、老紳士はわかり易く困った顔をした。

 持っていたハンカチで老紳士のスーツを拭こうとするアリサ。しかし、彼女は思った。なぜ、こんな品の良い老紳士が競輪場にいるのだろうか。

 老人が競輪場にいるのは、して珍しいことではない。だが、この老人男性のようにあからさまに高そうなスーツに身を包み、英国紳士のような品格を備えた老人は珍しいのだ。


「おじいちゃんは一人ですか?」

 物珍しさと、ビールの酔いで思ったことをストレートに尋ねるアリサ。

「おじいちゃんとな?失礼な小娘だな」

 どうやら余計なことを言ってしまったようで、老紳士は眉をひそめる。

「クリーニング代はお出ししますので・・・」

「そういうことではないわい。全く、よい身分じゃのう。こんなひる日中ひなかからビールを飲んで、呑気に場外発売に来て。みんなが働いているときに飲むビールはそんなに美味しいか?」


 老紳士のお説教に少しムッとするアリサ。非はこちらにあるが、平日の昼間からビールを飲んでいるのは関係ない。こっちはしっかりと仕事がお休みで来ているのだ。

「そんなの関係ないでしょう?そもそも、おじいちゃんは何でここにいるの?競輪のことを知っているの?」

 老紳士の品の良さが、かえって不自然に思えてしかたなかったアリサ。またも、思ったことをストレートに聞く。


「何を偉そうに!私は競輪の神様じゃ」

「ふーん。そうですか、はいはい」

 ムキになる老紳士の言葉をあしらうアリサ。競輪場に来れば自称・予想の神様は売る程いる。過去にも、そんなことを言うおじいちゃんやオジサン達を沢山見ていた。

「生意気な小娘め!私の力をみせてやるわい!」

「はいはい。そうですか」

 老紳士の態度に、だんだんと申し訳ないという気持ちが薄れてくるアリサ。

「なら、いい。覚悟しろ。使!」

「えっ!」

 老紳士の一言に酔いが醒めたアリサ。次の瞬間、彼女は目の眩むような光に包まれた。

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