第20話 一点突破2本の魔剣

 キリヤとジャネ、二人は互いに魔剣を構えにらみ合う。


 両者とも集中を高め、魔剣の力を最大まで高める。

 そして、


「『蛇腹・三頭』!」


 先に動いたのはジャネ。

 三頭の蛇腹はそれぞれの方向からキリヤに襲い掛かる。


 そんな中、キリヤは風魔を後ろに向ける。


 そして蛇腹の攻撃がキリヤに届く瞬間、


「悪いが、同じ攻撃を受けるつもりはない。『風魔・疾風ふうま・しっぷう』」


 風魔の刃に風が収束し、その風は後方へと吹き荒れる。


 その吹き荒れる風に乗り、キリヤは蛇腹の攻撃を避けながら高速でジャネに迫る。


「速いっ!このままだと攻撃は当たらないな。ならば―」


 ジャネは三頭の蛇腹を手元に戻す。


「『蛇腹・鉄壁』」


 蛇腹はジャネの周りを囲むように伸び、ジャネを守る壁になる。


「さあ、この蛇腹の壁。どう対処する?」


 ジャネは蛇腹越しにキリヤに叫ぶ。


 そんな対するキリヤは蛇腹の攻撃が来ないのを良いことに、さらに風魔の風を増大させ速度を上げる。


 そしてキリヤは二本の魔剣を前に突き出し、蛇腹に攻撃をする。


「はあぁぁぁ!!」


 二つの魔剣は確かな手ごたえをキリヤに伝える。

 だが、


「っ!?防がれたっ」


 二本の魔剣は分かれた蛇腹と蛇腹の間に挟まり防がれる。


「どうだ?この蛇腹、防御力もなかなかだろ?」


 ジャネが蛇腹に越しに話しかけると、キリヤはその場から飛び距離をとる。


「ふむ、まだ諦めないか。だがさっきので分かっただろうが、この蛇腹の防御力はそう簡単には突破出来な―」


 ジャネは距離をとったキリヤをの気配を察する。


「どうやらまだ諦めるつもりはないみたいだな」


 ジャネは楽し気に笑うと蛇腹の防壁を強化する。


 対するキリヤは魔探を鞘に納め、さらに新たな力を手にする。


「こい、『一針いっしん』」


 キリヤの手に収まるのは刀身の細いレイピア型の魔剣。

 そしてキリヤは先ほどと同じように風魔に風を集める。


「いくぞ。これが本当に最後だ!『風魔・疾風』」


 キリヤは風にのり、再びジャネ、そして蛇腹に迫る。

 そしてそのまま一針を蛇腹に突き刺す。


 だが蛇腹はそれでも簡単に壊せるものではなく、一針は蛇腹に突き刺さり止められてしまう。


「さあ、どうする?貴様の魔剣とらえたぞ!」


 ジャネの言葉を聞きながらも、キリヤは顔色を一つ変えずに魔剣に力を籠める。


「貫け!『一針』」


 一瞬、一針が光を放つ。

 すると、先ほどまで止められていた一針が少しずつだが蛇腹の壁を突き進んでいく。


「なっ、!?なるほど、それがその魔剣の力か!」


 魔剣『一針』

 その力は一点突破。

 その名の通り突き、一点を貫くのに最大の力を発揮する。


 だがキリヤはこれだけでは満足せず、風魔を鞘に納め斬魔を取り出す。


「貫け『斬魔』」


 キリヤは一針と共に斬魔を突き刺す。


 斬魔なのに突きとは変な感じもするが斬魔の力はその刃に宿るので問題は無い。

 さらにここで斬魔を使ったのには理由がある。

 それは、


(なんだ?あの魔法を切った魔剣が加わった瞬間、蛇腹の防御力が落ちた!?)


 二本の魔剣はどんどん突き進んでいき、ついに蛇腹の壁を突き破る。


「なっ!」


『斬魔ノ魔剣』

 その刃はありとあらゆる魔法、魔力を切り裂く。


 そしてありとあらゆる魔剣は自身に魔力を持つ。

 だからこそ魔力の持たないキリヤでも使うことが出来る。


 つまり斬魔は魔剣を相手にしてもその力を発揮する。

 だからこそ、斬魔を蛇腹に突き刺し、魔力を直接削ることで蛇腹の防御力を一気に削ることができたのだ。


 蛇腹の防壁を失ったジャネを斬魔で切り裂く。


「はあぁぁぁ!!」


「ぐっ、あああああ!!!」


 ジャネはキリヤに切られその場に倒れ、剣を突き付けられる。


「どうする?まだやるか?」


 キリヤの言葉にジャネは蛇腹を手放し、


「いや。俺の負けだ」


 手を上げて、降参のポーズをとった。







 _______________________


[侵入者は無事撃退されました。怪我などをした生徒は保健室、もしくは近くの教師に伝えてください。なお、校舎破壊、負傷者の治療のため、明日は休みとなります。]


 学園内に放送が流れる。

 それとともに、魔法により眠らされていた生徒たちの何人かが起きはじめる。


 そんな中、一番魔力を消費しているであろうフレイナは放送を聞くと、


「キリヤくん。やったのね。ほんとは感謝を伝えに行きたいのだけど」


 フレイナは身体を起こそうとするが、力が入らず座った状態を抜け出せない。


「ダメね。……あなたのご主人様に私の感謝、伝えてもらえる?」


 フレイナは自分で動くことを諦め、不死鳥にキリヤへの伝言を頼む。

 すると、不死鳥は頷きピェロロロ、っと鳴き声を残し飛んでいく。


「さてと、ディルくん。さすがに起きているでしょう?」


「ええ、まあ、なんとか」


 フレイナが呼びかけると、ディルは頭を押さえながら起き上がる。


「見ての通り、私いま動けないから先生呼んできてもらえる?」


「見ての通り、今まで魔法で強制的に眠らされていたんですけど?」


 ディルの言葉を聞きながらも、フレイナはディルをじっと見る。


「……」


「………。わかりましたよ。行けばいいんでしょう」


 結果、ディルが折れた。


「ええ。よろしくね」


 そしてディルはフレイナに見送られながら、教師を探しに行くのだった。







 ________________


「よし。あとは……」


 場所は変わり訓練場。

 そこでは現在、学園襲撃を行った者たちが捕まっていた。


 そしてそれを行っているのは他でもないこの国の治安機関、魔法騎士団だ。


「あとはお前だけだぞ」


 魔法騎士の一人は両手を拘束されたジャネに声をかける。


「ああ、けど少しだけ彼と話をさせてくれ」


 ジャネはキリヤに目を向けて言う。

 だが魔法騎士もそう融通が利くわけでもなく、


「そういうわけにはいかない」


 と、拒否される。

 だがそこに声をかける人影が一人。


「まあ、いいじゃないか。少しくらいなら」


 その人影は、


「先生?」


 キリヤの担任だった。


「いや、そう言われても……!?あんた。いや、あなたはまさか!」


 魔法騎士は担任を見て驚いたよう表情をする。


「いいだろ?」


「は、はい!……少しだけだぞ」


 魔法騎士はジャネに許可をだし、ジャネはキリヤのもとは歩く。


「キリヤよ、傷はどうだ?」


「なんの話かと思えば、…それは煽ってるのか?」


 キリヤは冗談めかして言う。

 だが、ジャネは笑うことなく首を横に振る。


「いいや。良心からの言葉だ。傷をつけた俺が言うのもおかしいが、相棒を任せる相手を思ってのことだと思え」


 ジャネはキリヤの持つ蛇腹を見て言う。

 そんな会話をしている途中、ピェロロロとキリヤにとって聞き覚えのある鳴き声と共に不死鳥がキリヤの肩に止まる。


「そうか。さて、さっきの答えだが。『不死鳥』」


 不死鳥はキリヤの言葉を聞き、キリヤの身体を炎に包む。

 すると、キリヤの身体は燃えるどころか見る見るうちに傷が癒えていく。

 そして傷が完全に癒えると炎が消える。


「これが答えだ」


「く、ははは!まったく、お前はいくつ魔剣を持っているんだ!」


 ジャネは不死鳥が魔剣だと見抜き、キリヤと魔剣のあまりのでたらめさに笑い出す。


「ん?そうだなぁ……」


「いや、数えなくていいい。それだけでお前のでたらめさはよく分かった」


「そうか?というか、でたらめってずいぶんな物言いだな。っとそうだ俺もお前に聞きたいことがあるんだ」


「ほう、なんだ?」


 キリヤは蛇腹を眺め、口を開く。


「魔剣を完全に使いこなし、一対一の精神や負けを認める潔さ。そして俺が剣士と名乗ったとき言った「剣士を名乗る奴が他にも残っている」との言葉、お前もしかして元騎士なのか?」


 ジャネはキリヤの質問を聞き、笑うというよりも関心したような表情を作る。


「そうだな。少し違う。正確には元騎士の家に生まれたという方が正しいな。俺の家は魔法主義のこの世界でも剣を捨てられない家だった。俺はそんな家を誇りに思っていたが、時代が悪かったな剣ばっかりで魔法の訓練をしていなかった俺には居場所がなかった」


「だからこんなことを?」


「ま、そういうことだな。だが、一つ忠告だ。この襲撃は序章に過ぎない。俺はただの末端。だからな」


「え、それはどういう?」


 キリヤが聞こうとするが、そこにタイミング悪く魔法騎士の声がかかる。


「おい、これ以上は待てないぞ」


「はいよ。さらばだキリヤ。蛇腹のこと頼んだぜぞ」


 ジャネは最後に大きな笑いではなく、ほほ笑むような笑みをキリヤに向け、魔法騎士に連行されるのだった。


「さて、キリヤ。今回はお疲れだったな」


「はぁ。えっと、ありがとうございます。というか先生、魔法騎士ビビらすとか何者なんですか?」


「ん?そうだな。時期があれば話してやろう。それよりも一つだけ、魔法を封じる魔道具を奴らは持っているはずなんだが知らないか?」


「そういえば。あいつら魔法を封じたとか言ってましたけど。魔道具だったんですか」


「その様子だと知らないみたいだな。さて、それなら魔道具はどこにいったのか」



 ジャネの残した言葉と消えた魔法を封じる魔道具、新たなる問題の種を残しながらも、学園襲撃は幕を閉じたのだ。

































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