第8話 魔剣士と【炎帝】候補

 炎魔法の試験が終わってから一日後。

 キリヤとディルは、お昼休みに教室で談笑していた。



「兄貴!今日は昨日兄貴あの教師を倒したことが話題になってますよ!」


「そうなのか?」


「えぇ、なんて言ってもあいつはいろんな生徒から嫌われてましたからね、それが一年生の魔力無しに敗れたって、凄い話題ですよ」


「なるほど。ってことは俺の名前もこの学園にそこそこ浸透してるのか?」


「もちろんですよ!……そういえば兄貴、なんであの教師には俺みたく『契約ギアス』で心を壊さなかったんですか?」


 キリヤはディルと戦ったときに、『契約ノ魔剣』により、ディルの心を破壊した。 

 だが、同じような状況であった教師の心を破壊ではなく、点数を平等に付けるという強制だった。


 それが疑問だとディルは首をかしげる。


「……それか、それなら単純にあの教師の【契約】魔法がお前のよりも強力で精密に作られてたからな。あの魔法の中に、心を壊すほどの『契約』をねじ込むのが面倒だったんだ」


 魔法は人によりその出来が変わる。

 そして『契約ノ魔剣』は【契約】魔法に干渉をして、無理やり『契約』をねじ込む。

 つまり、【契約】魔法がより強力で精密であるほど、『契約ノ魔剣』でねじ込める『契約』の質は、変わる。


「ま、あの教師は腐っても元魔法騎士だったってことだな」


 と、そんなことを話していると後ろからとある生徒が歩いてくる。


「ねぇ、ちょっといいかしら?」


「ん?」


 赤く長い髪にきれいな容姿、声の主は【炎帝】候補のフェルニーナ=フレイナ。


「何か御用ですか?フレイナ嬢」


「えぇ、少し時間を貰いたいの。あと、呼び捨てで構わないわよキリヤくん?」


 少ないやり取り、だがそんなやり取りでも聞いていた生徒は、ざわざわと、騒ぎ出す。


 それもそのはず、フレイナは次期【炎帝】候補で、フレイナ家の長女。

 この学園で彼女を呼び捨てにできるのは、ディルほどの地位を持つ者か、教師くらいだ。


 そんな彼女が自分から呼び捨てを許したとなればざわつきもする。


 それに加えて時間を貰いたいという言葉、生徒達かれらは時代を担う優秀な魔法使いだが、それでも15、16の少年、少女だ。

 色恋沙汰は大好物である。


 もちろんフレイナにそんな気はないのだが。


「要件を先に聞きたいんだが?」


「……別に私は構わないけれど、あなたが構うんじゃないかしら?」


「どういう意味だ?」


「こう言えば伝わるかしら?「無敗の魔剣士」さん?」


「!?」


 フレイナがその言葉を出すと、キリヤの様子が変わる。


「……なんで、あんたがその事を、」


「ふふ。どうしてかしら?」


 フレイナは、知りたければ私に従えとでも言うようにキリヤを挑発する。


「……分かった。おい、ディル購買で焼きそばパン買っておいてくれ」


「え!?あ、はい!」


 キリヤは数枚、硬貨をディルに投げ渡す。


「それで、俺はどうすればいいんだ?」


「私の後ろをついてきて」


 キリヤはフレイナと共に教室を出る。


「兄貴ご武運を」


「なぁ、ライデルト?」


 そして、キリヤの無事を願うディル、そのの後ろから声をかけられる。


「どうかしたか?」


「いや、焼きそばパンってたしか超人気商品で早く行かないと売り切れるんじゃ……」


「え?……!!?」


 ディルは、その言葉を聞き、急いで席を立ち上がる。


「あ、お、おいライデルト?」


「兄貴の焼きそばパンが売り切れる前に行かないと!うぉぉぉ!!!」


 そして、ディルは超ダッシュで教室を出て、廊下を走っていた。









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