第5話 契約魔法と契約ノ魔剣


「……決まったな。勝者、キリヤ!」 

 

「くそっ!くそぉっ!!」


 教師が勝敗を宣言するが、その結果に拍手の一つも起こらない。

 訓練場に響くのはライデルトの悔しがってる声だけだ。


「さて、俺が勝ったら何でも言うことを聞くだったよな?」


「くっ……。あぁ、そうだったな」


 ライデルトは立ち上がり【契約】の魔法を出す。

 そして契約の魔法陣を


 パキンッ


 壊した。


「くっ、くくく。はははは!!!」


 ライデルトは、壊れた魔法陣を見ながら笑う。


「……【契約】を破ったのか」


 キリヤは慌てる様子もなく、ライデルトに冷たい目を向ける。


「そうだ!【契約】の魔法は普通であれば、破ることは出来ない。だが!【契約】をした者同士の魔力にあまりに差がある場合はその限りではない!」


 キリヤの魔力はゼロ。

 対するライデルトはクラスでも上位の魔力の持ち主だ。

 それは差なんていう生ぬるい物ではない。そもそもライデルトは負けた場合に契約を守るつもりは無かった。


「どうだ!悔しいか?せっかく勝って俺に命令できるとでも思っていたのか?ははは!!!」


「……はぁ〜」


 キリヤはライデルトを見て、心底呆れたというように、ため息をつく。


「ははは、なんだ?そんなため息をついて、強がらずに悔しいがればいいもの……うっ?!」


 笑っていたライデルトは突然うずくまり、胸を抑える。


「うっ、くっ。な、なんだこの痛みは?……まさか、貴様の仕業か?」


 ライデルトは胸を抑えながら、キリヤを見上げる。


「……あぁ、そうだ」


「いったい、何を?」


 ライデルトはだんだん辛そうになっていく。

 そんなライデルトの様子を見てもキリヤは表情を崩さない。


「……『契約』だよ」


「バカ、な。俺は、契約が実行される前に消した。【契約】の代償は、受けないはず、っだ!」


 ライデルトが言ってるのは【契約】の魔法を実行しなかった場合におけるペナルティのことだ。

 今回の【契約】の内容だと、キリヤが勝った場合にライデルトがキリヤの命令を聞かなければならない。


 この場合、キリヤが命令をしてから【契約】を破ると、ペナルティを受ける。

 だがキリヤが命令をする前に【契約】を破れば、ライデルトはペナルティを受けずに済むのだ。


「……違う。忘れたのか?俺が【契約】に何をしたのか?」


 キリヤは、鞘から剣を引き抜く。『斬魔ノ魔剣』とは違う別の剣。


「その剣、契約のサインをした剣だな?」


「あぁ、この剣は『契約ノ魔剣けいやくのまけん』。その能力は『契約ギアス』。この魔剣の能力で【契約】の魔法に少し細工をさせてもらった」


 キリヤは、『契約ノ魔剣』を撫でる。


「細工?いったい、なにを?」


「なに、そんな複雑なことはしてない。ただお前が【契約】を破った時、お前の心が壊れるようにしただけだ」


 キリヤは『契約ノ魔剣』を鞘に納める。


「なっ!?…あ、あぁぁぁぁぁ!!?!あ、あ…」


 キリヤの説明が終わると共にライデルトは叫び、そして動かなくなった。


「……安心しろよ。壊したのはお前のその醜い心だけ、だからな」


その後ライデルトは残りの授業を全て休み、キリヤと他の生徒とたちは通常の授業を受けた。




 ________


 次の日


「おはようございます!兄貴!!」


「………は?」


 キリヤが教室にて座っていると、突然そんな挨拶をされる。


「ライデルト、お前いったいどうしたんだ?」


 キリヤを兄貴と呼んだのは、ディルガス=ライデルト。

 キリヤと戦いその心の一部を壊された、高位貴族の少年そのはずだったが……。


(どうしたんだ、こいつ?確かに心を壊しはしたが、こんなことになるなんて。予想外だぞ……)


「えっと、ライデルトだよな?あのディルガス=ライデルト」


「はい!ディルガス=ライデルトです。あ、よろしければ今後はディルとお呼びください!!!」


「あ、あぁ、うん。わかった。いや、そうじゃなくて、なんで自分の心を壊した俺にそんな態度を?」


 さすがのキリヤもこのライデルトに驚いており、言葉の端々に動揺が見られる。


「確かに。俺は兄貴に敗れ、心を壊されました。ですが!そのおかげで、俺は醜い心を捨て改心することができたんです!」


「は、はぁ〜」


「そして!俺は、俺を負かし改心させてくれた兄貴の強さに憧れを持ったんです!」


「はぁ、は?憧れ?」


 キリヤは、ライデルトの言葉に固まる。


「はい。魔力が無いにも関わらず魔剣に認められ、この魔法学園にも入学して俺を打ち負かした。俺はその強さに憧れました。もっというと惚れました!」


「惚れ!?……まぁ、うん。それで?」


「それで俺は兄貴の強さを見込んで、ぜひ俺を舎弟にして、そして俺を鍛えて欲しいんです」


「……そうか。事情は分かった」


「なら!」


「あぁ、当然断る」  


「……ふふふ、兄貴がそうおっしゃるのは分かってました。ですが兄貴、俺を舎弟にすることで兄貴にも利益がありますよ」


「利益だと?」 


「えぇ。見たところ、兄貴はこの学園の事情に疎いと見えます。その点俺は、貴族であり、兄様がこの学園に通っていたこともありかなりの情報を持っています。この学園でトップになるのに俺は使えますよ?」


 ライデルトは次々とメリットを提示していく。

 そしてそれは、この学園をトップ成績で卒業しなければならないキリヤにとって魅力的なものだった。


「……分かったよ。これからよろしくな。ディル」


「はい!よろしくおねがいします兄貴!」


 キリヤは入学数日にして、新入生上位の実力を持つ舎弟を手に入れた。

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