第3話 剣士の魔法測定

 教室から場所を移し、キリヤたちは室内訓練場へ来た。


 理由は当然授業のためだ。


 ただ、授業といっても初日ということもあり今回は各々の自分の実力を測る『魔法測定』をすることになった。




「最初の授業は魔力測定と魔法の測定だ。まずは魔力測定。と言っても簡単、みんなにはこの水晶に触れてもらう。それだけだ」


 キリヤたちの担任である男の教師が取り出したのは、測定水晶。


 この水晶に触れると、水晶が光り出す。光の大きさによって自分の魔力量が分かるという代物だ。

 魔力は魔法の源、その魔力の量多いというのとは必然的に強い魔法を使えるということでもある。


 さっそくクラスメイトたちは水晶に触れていく。


「ふむ。さすがはこの学園に入学するだけあって、みんな中々の魔力量だな。次、ディルガス=ライデルト」


「はい。見てろよ、そこの剣士!」


 ライデルトは水晶に触れる。するとこれまでなかった強い光が起こる。 


「さすがは、ライデルト家の次男だな」


「やっぱり、上級貴族は格が違うな」


 クラスメイトたちもライデルトを褒める。


「よし。いいぞライデルト。さすがの魔力量だな」


「ありがとうございます。どうだ、そこの剣士!」


 ライデルトはキリヤに自慢げに話しかけるが、肝心のキリヤは、


「あの水晶。どうなってるんだ?」


 キリヤの故郷では見ることはなかった水晶に興味を持ち、ライデルトの話を一切聞いていなかった。


「この、剣士が……」 


「ライデルト、早く下がれ。次、フェルニーナ=フレイナ」


「はい」


 次に教師に呼ばれたのはフェルニーナ=フレイナ。

 長く赤い髪をたなびかせ、凛とした足取りで水晶まで歩く。その姿をひと目見るだけで育ちの良さがわかる美人の女子生徒だ。


 そんなフェルニーナはそっと、水晶に触れる。

 すると、水晶は先のライデルトを超えるほどの光を放つ。


「さすがは最強の炎魔法【フェニックス】の使い手のフレイナ家だよな。俺たちとは格が違うぜ」


「まったくだ。やっぱ次期、【炎帝】候補。ライデルトもすごかったがやっぱりフレイナ様のほうが凄いよな」


 生徒たちのそんな声が聞こえてくる。

 ちなみに【炎帝】とは、各属性の魔法を極めた他の魔法使いとは、一線を画す魔法使い【魔帝】。


 その【魔帝】のなかで炎属性の魔法を極めた者に送られる称号を【炎帝】という。


 フレイナ家は代々【炎帝】の座を維持している上級貴族であり、フレイナ家のみに伝わる【フェニックス】という魔法こそフレイナ家を【炎帝】と言わしめる炎属性最強の魔法だ。



「さすがだな、フレイナ。お前がクラストップの魔力量だ」


「……ありがとうございます」


 フェルニーナは教師に一礼をして元の場所に戻る。


「次はキリヤ。水晶へ」


「はい」


 フェルニーナとすれ違うようにしてキリヤは水晶の元に歩く。


「……あの剣。まさか」


 すれ違う一瞬、フェルニーナはキリヤの剣を見てそんなことを呟く。


(いま、あいつ何か言ってたような?)


 キリヤはフェルニーナの様子を気にしつつ水晶に手を触れる。


「………」


「………」


 だが、当然水晶は微塵も光る気配はない。

 キリヤは水晶から一度手を離しもう一度近づけたり、左の手で触ったりとしてみるが、ぼんやりとも光る気配はない。


「……えっと。キリヤもういいぞ」


「はい……」


 キリヤは分かっていてたこととはいえやはり、ショックではあるのか肩を落としながら元の場所へ戻る。


「おいおい。あの剣士、まったく水晶が光らなかったな」


「ああ。あんな鈍ら持ってるからまさかとは思ったけど、まさか魔力がないとはな。どうやってこの学園に入学したんだよ」


 他の生徒からはキリヤを揶揄するような声が多く聞こえる。


「お前らあんまり騒がしくするなよ。どんどん測定していくぞ……」




 _______


 魔力測定が終わり次は実技、魔法の実力の測定に入った。


「さて、次は二人一組で模擬戦をしてもらう。組み合わせは……」


「先生、よろしいでしょうか!!」


 教師の言葉を遮り意気揚々と発言をするのはディルド=ライデルト。


「なんだ?ライデルト」


「この模擬戦。俺とそこの剣士でやらせてください」


 ライデルトはキリヤを指差す。


「理由は?」


「そこの剣士は、魔力が無いにも関わらずこの学園に入学しています。きっと不正をしたに違いありません。その正体を俺が暴いてやりたいんです」


 ライデルトはもっともな理由を言うが、本音はキリヤが気に入らないので、みんなの前で潰したいと思っているだろう。


 教師はそんなライデルトの真意を知ってか知らずか、考える素振りをしながらキリヤに話しかける。


「どうする?キリヤ。お前がやると言うなら俺は承諾するが……」


 キリヤはそんな言葉を受け、ライデルトの方を見る。

 そんなライデルトはニヤニヤと、笑っている。

 恐らくキリヤが勝負を降りると思っているのだろう。だが、そんなことをすればそれこそ不正をしたと疑われてしまう。


 そこでキリヤは、


「……形式。ルールはどんなものですか?」


 この勝負に乗ることにした。


 これには、ライデルトもさすがの教師もすこし驚いたのか、少し間を開けてキリヤに答える。


「……そうだな。本来であれば、片方が魔法を打ち、片方がそれを防ぐというものだが、お前らはそれでは満足しないだろう」


 教師は、手に持っている紙をパラパラとめくる。


「なので、この学園の決闘に基づくルールを採用する。教師立ち会いの元、命の危険がなければどんな魔法だろうが、武器だろうが使って構わない。決着はどちらかが戦闘不能になるか負けを認めることの二つ。このルールでどうだ?」


 キリヤとライデルトは教師に頷く。


「よし、これで決まりだ。二人とも用意をしたら各場所についてくれ」


 魔法の使えない剣士と未来を担う貴族魔法使いの戦いが今始まる。





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