狭間漂う

郷野すみれ

ぷりんきらい

「ねぇ、今日もジャンケンするの?」


 3時間目の休み時間に親友のななちゃんがあたしを不安げに見て言う。今日はお休みの人がいるからね。


「もちろん! 今日はプリンだよ。絶対勝ち取んないと!!」


 あたしにとって、給食はエネルギー源。6年生になって難しくなってきた授業を頑張るためにも、放課後の部活にも必要なもの。最近は負けてばかりだけれど、今日は大好きなプリンだから一段と気合が入っている。


「そろそろ、やめたら? ジャンケンしているの、みかちゃんの他に男の子だけだし……」

「ななちゃん、食細いもんね」

「いや、そうじゃなくて……」


 ななちゃんはおどおどと目を伏せた。


「恥ずかしくないの?」

「え、なんで?」


 あたしはななちゃんの質問の意味がさっぱりわからず、首を傾げた。


「いただきます」


 みんなで手を合わせる。あたしは既に椅子の上でソワソワしている。


「今日は1つプリンが残っています。欲しい人はジャンケンで~」


 担任の先生が言い終わると同時にダッシュで前の方へ行く。


「またかよー」


 ジャンケンに集まった男子達に不満を言われつつもみんなでジャンケンする。


「ジャン、ケン、ポン! アイコでしょ!」


 7人いるけれど、1回のアイコのあと、奇跡的にあたしが勝った。


「やったー!」


 あたしは飛び跳ねて喜んだ。


「良い気になるなよ」

「大人しく引っ込んでろ」


 憎たらしげに捨て台詞を吐く男子達。


「あたしが勝ったもん。正々堂々と。だから、今日はあたしのもの」


 ふと、教室の妙な空気が突き刺さる。


「またやってる」

「女子なのに」

「恥ずかしいよね」


 誰のかもわからない、先生は気づかないくらいの微かなひそひそ声。なんでジャンケンに勝っただけでこんなふうに言われなければいけないのだろう。ななちゃんを見るとあたしから目を逸らした。あたしはギュッとプリンを握りしめて席に戻り、強張った顔で席に着き、給食を全部平らげた。プリンの味はよく覚えていない。


***


「なんてことがあってさ」


 私は大学の同級生にカフェで語る。友達の前にはプリンアラモード、私はパフェを頼んだ。ここのお店はプリンが売りだけれども。


「だからプリン食べないんだね」

「そう」


 今だったら、納得はできないけれどわかる、当時の同級生の気持ち。


 プリンきらい。


=====

2020年3月22日

#どくラジ談義

「プリンきらい」にて

Twitterより

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