第10話 魔法と常識(1)

 先生と話を終わらせた後は部屋に戻って本を読むことにした。


 ちなみに今回は鍵を忘れずにかけた。


 まずは午前中に見ていたケルバー語の文字を復習した。ちなみに英語ならアルファベット、日本語ならひらがなとかになるが、ケルバー語のそれはケルバンと呼ぶらしい。ケルファベットとかだったら覚えやすかったのにな。


 それもしばらく経つと飽きてしまったから、続きは明日以降にすることにして、ひとまずこの世界の常識と魔法の本を読むことにした。


 文字とかそういうのは一回勉強したら睡眠を挟むと次の日結構覚えているもんだ。無理に一日で詰め込もうとしなくてもいい。そう正当化しながら本を手に取る。


 目次を見るとどちらも第一章に基本事項の概要が載っていた。何事もざっくりとでいいから全貌を見てからだと入りやすいものだからこれはありがたい。


 魔法が気になったので最初に読むことにした。わかったことは以下の通りだ。




 まずは魔力の性質について。

 魔力は意志によって様々な作用を起こすエネルギーで、あらゆる生物がその量の多寡こそあれど持っているものだ。



 ところで魔力ってどこからできてるんだ?まさか自分の体内に未知の魔力生成器官でもできてるとか?

 …後で人体解剖結果とか聞いてみるか。

 いずれにしろ魔力の発生源は今後調べておきたいな。



 純粋な魔力を放出することもできるが、魔力そのものは何の作用も起こさない。

 魔力は時間が経てば霧散してしまうものの、魔力が十分に空間に満ちている場合、それを消費して魔法を行使することもできる。


 他人の体内の魔力はその人の意志で制御可能なため、意図的に自分の魔力を押さえている状態でないと体内に魔法の作用を起こすことは難しい。



 これが治癒魔法に関わってくるのか。


 しかし魔力が何も作用を起こさないというのが疑わしい。何とも作用しない素粒子なんて存在しないはず…いや何とも作用しなかったら認識できないというだけであってもおかしくはないか。


 恐らく魔力自体は何らかのエネルギーを持った粒子、あるいは力を媒介する粒子なのだろう。どこまで実験装置が用意できるかによるが、全く新しい物理法則が見つかりそうだ。


 だがそもそもの話、意志によって起きる現象が変わるなんて全く不自然なことだ。

 謎は深まるばかりである。




 次は魔法陣について。

 そもそも魔法陣とは魔法言語と呼ばれる未解読の言語によって書かれた模様のことだ。その模様はインクで紙に書いたり板や地面に溝を彫ったりして、背景からはっきり浮かび上がるようにすれば良い。要は背景に溶け込んだり識別できなかったりする場合は不可ということだ。


 魔法陣は魔力を込めることで直接複雑な現象を起こすことができる。魔法の法則の研究において非常に重要な性質を秘めているとされている。


 複雑な物には多層だったり大規模だったりするものがある。


 魔法陣に魔力を込めながら魔法を起こすとき、その魔法陣に記述されている根本的な現象を一々イメージすることなく複雑な現象を起こすことができる。

 これは例えば本来雲を作りたいとき水蒸気量やら気温やらを考える必要があるが、この魔法陣を通せば雲を作るとイメージするだけでできてしまう、というようなことだ。


 魔法陣の発動は一瞬だ。


 発動には魔法陣の形を認識できた上で(書かれた模様が背景と見分けられる状態で)魔法陣の部分をなぞることをイメージしながら魔力を流す必要がある。全部トレースするイメージは必要無いが、どこが魔法陣として書いた模様なのかははっきりイメージする必要がある。


 これはつまり白い紙に黒いインクで書いた魔法陣は、黒い方が魔法陣だときちんと認識した上で魔力を流す必要があるということだ。



 魔法陣として認識されるための条件、発動のために必要なイメージは決まっているようだ。結局魔法陣も魔法の一種であり、発動にはある程度定まった方法というものがあるということだろう。


 魔法陣に魔力を流すと複雑なことをスキップして魔法が使えるとのことだが、これはプログラミングでいうところのライブラリみたいなものだろう。

 ライブラリとは既にできあがっているプログラムを参照することで複雑なプログラムを簡単に使えるというものだ。


 それで言うと魔法言語というのも非常にプログラミングらしい気がしてくる。魔法陣に魔力を流し込むのがちょうど電子回路に電気を流すような感じで。


 魔法言語が十全に使えればかなり魔法の自由度が高くなりそうなものなのだが、解明されていないとのことでとても残念だ。言語はド素人だが解読の研究があるなら私もぜひ応援したいものだ。


 あと気になったのは発動に要する時間だ。


 一瞬といってもさすがに0秒なはずはないと思う。魔力を流し込む以上伝達速度の限界として光速があるはずだ。

 …いやそんな常識も通用しない可能性があるんだった。これも思い込んだりせずきちんと調べないと。でも限界速度が無いなんてことは無いはずだ。




 読んでいる途中だが、ものは試しと魔法陣で魔法を発動してみることにした。


 パラパラとページをめくっていくと、物を浮かせる魔法陣があった。

 試しに鍵を浮かせてみる。複雑な形状だが行けるのだろうか。


 書かれていた発動方法の通りに、対象に鍵をイメージしながら黒いインクに魔力を流すと鍵が浮かび上がった。しかもかなり安定している。

 うまいこと姿勢を制御できるように作られているようだ。


 一度発動を止めて自力で同じ事をしようとするが、やはり安定はしなかった。微妙で複雑な制御を行うためにはまだ練習が必要そうだ。




 さて気を取り直して本の内容に戻るともう一つ重要事項として魔法の使用についての法律があった。


 基本的に魔法によって他人を害する行為は他の傷害行為と同じように裁かれる。


 治癒魔法は医療行為のような扱いであり、緊急時を除いて重傷に対してはきちんと教育を受けた者でないと使用してはいけない。しかし軽傷の場合は本人の了承の元であれば使用が許可される。



 他人の体内に自由に魔力を流せる状況だとやりようによっては殺すことも容易だろうから結構こういうところは厳しいのだろう。




 とまあ魔法については一章でこのくらいの内容だった。目次を見る限りこの先は主流な魔法が系統ごとにまとめられているようだ。外部に現象を起こすだけでなく、治癒魔法のような身体に作用するものもあるようだ。

 物体を直接動かすことすら難しいのに生体を操作なんてどうやるのだろうか。


 最後の方には現在の魔法研究についても書いてある。俺にとっては今後のためにも重要なことだ。基礎を身につけたら読んでいこう。



 ここまで魔法について色々と知ったが、今までの常識と照らし合わせてかなり不可解なところが多い。だが科学だってきっとそういう不思議から出発してきたのだろう。むしろ不可解であればあるほどやる気が出てくるというものだ。


 さてあまり魔法ばかり調べる訳にはいかないので今度は常識についても調べることにするか。

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