ジャン視点 履行

 捕らえた者たちを縛りつけ、廊下に転がしておく。一部やり過ぎた者もいるが、侵入者なのだから文句を言われる筋合いはない。


「それで、この家に来た目的はなんなんだ?」


「ひょれは、りょうひゅしゃまにひゃのまれたからです」


「あっ?何を言ってんのかわかんねえぞ」


 顔を一番腫らしたやつが答えるが、何を言っているのか何一つわからない。なんでこいつが先に答えるんだよ…


「わ、私たちは領主様に頼まれたのです。この家に金髪の少女が無断で住み着いてしまっていて、自分たちは警戒されているから、部屋から出して欲しいと、そう頼まれて…ひっ」


 侍女や料理人たち全員に睨まれているのがわかって、やっと黙った。お嬢様が無断で住み着いているだと。あのくそ野郎が…


「団長、こちらにいましたか。お嬢様の部屋に向かおうとする何人かと、騎士団に紛れ込もうとした一般人を数人捕らえました」


「こっちもか。それで、どうしてるんだ?」


「はい。騎士たちに紛れ込んできた者たちは、気づかないフリをしていつもの訓練メニューに取り込んでもらっています。いっそ、戦闘訓練でもしましょうか?」


「やめとけ、こいつらは一般人だ。さっさと雇われた事実を吐いてもらえれば、それだけでいい」


「それもそうで「なんだこれは!」上手くいけば、言質を取れますかね?」


 小声で言ってくるアルフレッドに頷く。さて、ペラペラと喋ってくれたら楽なのだがな。


「これはこれは旦那様。これらは今日、侵入して来た者たちです。誰に雇われたのか、今から口を割ろうとしていたところなのですが…続けても?」


「…いや、そいつらは私が昨日雇ったんだ。放してやれ」


「お言葉ですが、いつもそう言う連絡はローレン殿から話を聞いているんですよ。今回はそれが無かった。それに、仕事場を放棄して何か別の用事もありそうでしたが?」


 男の後ろに立っているローレンを見ながら言うと、首を降っている。やはり、個人的に雇ったか。こんな数だけ集めた烏合の衆だけで、何ができると思っているのやら…


「うるさい!俺がいいと言っているんだ。お前たちは大人しく言うことを聞いていればいいんだ!」


「……放してやれ」


 さてと、逆上させすぎると会話にならねぇからな。まるで子供の癇癪だ。お嬢の方が立派な大人に見える。


「…ちょうどいい、ここにいる連中を連れてシアの部屋に行く。今日こそあの娘を亡き者にしてやる。これで、俺以外がこの家を継ぐ者はいなくなる。お前たち、昨日シアが言ったことは覚えているな。命令はちゃんと果たせよ」


「ええ、もちろんです。人形が外に出たら何をしても良いんでしょう?」


「いや、必ず殺せ。絶対に逃すな。シアには後で上手く言っておく。人形など代わりの者を差し出せば、シアも何も言わないだろう」


「ハッ!」


 命令はちゃんと果たせ…ね。わかっていますよ。お人形を持ち出そうとする不届き者には何をしても良いんでしょう?お嬢は優しいですね。だって、殺さないんですから。

 お嬢に言われていなかったら、こいつの首を今すぐにでも切り飛ばしてやりたいぐらいなのに…


 ぶん殴るだけで許してやるんだからなぁ!


「グァ!」


「オスカー様!あなた!一体何をするのですか!」


「何って、ご命令を果たしただけですよ。お嬢のね」


「何を言って…!?」


「そのうるさい声を黙っていて貰って良いですか?さもないとこの首が飛んでしまいますよ?」


 おいおい、短剣を出すほどでもねぇだろ。何考えてるんだ?


「私は侯爵夫人ですよ?そんな私にこんな…こんなことをして、タダで済むとでも!?」


「そうですか…で?たとえそうだとして、それが何か?私はあなたたちよりもっと上の方からアリシア様の命令を聞くよにと仰せ付けられています。なので、あなたの命令を私が聞く必要はありません。わかりましたか?」


「私はシアの母親ですよ!?」


「関係ありません。そうですね。理解もできなさそうですし、少し眠ってもらいましょうか」


 ドスッ という鈍い音がでて倒れるが、誰も支えようとはしない。侍女が三人もいるのに。まぁ、そのうちの一人が犯人なのだが…


「どうして最初から殴らなかったんだ?」


「いえ、アリシア様の母親とはお会いしていなかったので、もしかするとアリシア様のような方を育てた素晴らしい方なのかと思ったのですが、違ったようです」


 そういえば、お嬢の母親がどうかは気にしていなかったな。今日で分かったわけだが、このことをどうやってお嬢に言おうかねぇ。


「はぁ、お嬢が帰ってくるまで、押し入れにでも入れておくか?」


「そうですね。アリシア様が今日帰ってくるかはわかりませんので…」


「帰ってこねぇのか?」


「ええ、主人様が狼になっていたらおそらく…」


「…まあいい、一日ぐらいなんとかなるだろ」


「そうですね」


 お嬢様を押し入れに押し込んでおくつもりみたいだったし、自分たちも経験すれば良いだろう。あとは、紛れ込んできた連中を記録して、帰す作業か。


 面倒な仕事を作りやがって、大人しく押し入れで反省してろ。


「団長、言質を取るんじゃなかったのですか?」


「……すまん」

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