第5話 魔封空間

 あかい半透明の球体結界が解かれると、那月は脱力し、空中にあって水中を漂うような体勢になった。


 ──ここは魔封空間まふうくうかん


 那月の緊急事態に対応するためにある世界。


 その周囲に広がるのは脈動する赤。


 ドクン、ドクンと一定のリズムを刻み、生きてることを示している。


 別の言い方をすれば、ここは空間生命体の体内であり、意志や人格などはなく、植物のようなもので、魔力を糧にしている。


 それが証拠というように、那月本体から現れていた幾つもの那月が吸われていき、消えていった。


「よし、余計なものはなくなったな」


 呪神じゅしんが言うとおり本体だけになった那月だが、その意識は失われて身体がぐったりしたまま、胸部から黒い血を連想させる魔力が流出し続けていた。


「では、いきますよ!」


「了解」」

「分かった」

「ガーッハハハ」

「了解でッス」

「わかったわ」

「いいぞ」


「せーの!!!!!!!」


 惣神そうしんのかけ声ととともに七柱の神がそれぞれの神気を那月の心臓に集中させた。


 一瞬、身体が震え、那月の心臓が止まった。


 と同時に、那月から流出していた魔力も、弁が閉じたように消えた。


「よし、次は蘇生だ」


「ではもう一度いきますよ。せーのっ!!!!!!!」


 呪神が状態を確認して促すと、再び惣神がかけ声をかけた。


 ドン、という衝撃が那月の心臓に伝わり、身体が大きく揺れた。


 血流は元通り走り出し、口が空気を取り込む。


「鼓動を感じる」

「呼吸も正常、成功ですね」

「よかったー」

「ガーッハハハ」

「ひと安心でッス」

「タダでできるのは良いが、きっついな」


 呪神、惣神、衣神いしん武神ぶしん宅神たくしん商神しょうしんがそれぞれ安心の言葉を言う。


「安全が確かめられれば長居は無用。帰るとしよう」


 銃神が言うと、那月の手にあるシリンダーがスイングアウトしたままになっているスピールの引き金が自動的に引かれ、あおい半透明の球体が那月の身体を包んで居住空間へ転移させた。

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