第28話 明日

「でさー」


 と、サシャが食堂で買ってきたパンを食べながら愚痴をこぼす。

 今はお昼休みであり、昼食の時間だ。


 ユリとサシャは俺と隣同士なので、いつも一緒に食事を摂っている。


「僕ねぇ、もっと強くなりたいってエレア先生に言ったら『君はまず勉学に励もうよぉ』って言ってきたんだよ! 酷くない!」


「酷くはない」


「ええ!?」


 普通に正論である。

 なんたってここは学校なのだ。


 決して遊びに来ているわけではないし、知識がなければ強くはなれない。先生として、正しい意見を彼女は言っている。


「まぁ、サシャさんは戦略を立てるのが上手ですから、それを伸ばせば自然と強くなれますよ」


 ユリは本当に優しいし上手いと思う。

 彼女を尊重して、自然と勉学の方向へ導こうとしている。


 『上手』と言われて嬉しかったのか、サシャは笑みをこぼして、


「そうかなぁ! いやそうだねぇ!」


 と、完全に調子に乗っていた。

 俺はその二人に会話に挟まれながら、エレア先生のことを考えていた。


 〈死者蘇生〉に関すること。

 彼女はなにかに気がついたのかもしれない。


 普通にあるえることだ。

 ここは多くの分野の研究者がいる場所。


 数多くの知識人が協力すれば……可能性はある。


 買ってきたメロンパンを齧る。

 この甘さが、疲れてきた脳を癒してくれる。


 気がするだけだが。


「ガルド」


 声がした方を見ると、ドアの隙間から顔を出して、手招きをしているエレア先生の姿があった。


「ちょっと行ってくる」

「ああ、いってらっしゃーい」

「いってらっしゃいです」


 二人に手を振られながら、俺はエレア先生の背中を追いかける。追いつき、横に並ぶ。


「暗雲の魔女生存説……とでも言おうか。その件について、一つ気になることがあったんだよぉ」

「なんですか」


 彼女は顎に手を当てながら、


「彼女は……一度死んでいる」

「いや、それは時間の流れ的に当たり前じゃないですか?」


 アウトローは決して魔族でもなんでもない。

 寿命は魔法で伸ばせたとしても、もう負荷によって動けもしないはずだ。


 ほぼ、死んだも同然だ。


 普通に考えて当たり前のことである。


「いや、それが普通の死じゃないんだ」


 彼女は少しだけ溜めて、


「自殺している」


 アウトローが……自殺?


「とある賢者との戦闘に負けた憎しみ。それがキッカケとなって彼女は自殺したらしい」


 そうレミリオン歴史の研究者が言っていた、と付け加えて。


 嫌な汗が滲む。


 彼女は憎しみを礎にして動く魔女。

 それが自殺して……となると、今の彼女は何者なんだ?


 転生魔法は決して本人が死ぬわけではない。

 魂を未来の子供に託す魔法だ。


 魂のなくなった体はもちろん抜け殻になるが、それは決して死ではない。ただ、魂が移動しただけなのだ。


「一だったものがゼロに。そしてそれをもう一度、一に戻す魔法を魔女が使用した可能性があるねぇ」


 〈死者蘇生〉それと間違いなく関係がある。

 エレア先生はニヤリと笑い、もし君がその賢者だったと仮定してと言って、


「これは、王都の危機となってしまう可能性が大いにある」

「……なるほど」

「とにかく、君は明日学園を休んでダンジョン攻略に向かうことにしてくれ。わたしも同伴する」

「分かりました。明日、決着を付けるのですね」


 彼女は深々と頷いて、


「明日だ」 

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