第55話 戦いの果て

 ルルルンとキャリバーン、お互いに吹き飛び、両者ともに地面に叩きつけられる。


 空を見上げるルルルンの目には、巨大な魔法陣が映る、ヘブンスフォールはまだ効果を失っていないらしい、フワフワとした感覚が意識を白く混濁こんだくさせていた。

 痛みは麻痺していて、左腕の感覚がない。


「ぐ……あ……」


 左腕側に顔を向けると、白く濁った視界に赤い液体がうっすら映る、左腕から流れた血だろうか、ぼんやりとする意識の中、今起こっている事実を確認する。

 ルルルンの左腕はエクスキャリバーンに切り飛ばされた、出血を止めるためにとっさに発動した回復魔法がかろうじてルルルンの命を繋ぎ止めている。

 異世界に転生した時も似たような感覚を体験しているルルルンは、この状況がいかに不味いか理解はしている、理解はしているが、行動する力が残っていない。


「しまったなぁ……エクスキャリバーン……強くしすぎたなぁ……」


 自業自得はいえ、エクスキャリバーンの設定をいまさら悔やむ。


 突如現れたエクスキャリバーン、何故どうして現れて、魔女を倒すなどと息巻いていたのか?

 エクスキャリバーンに与えた設定は単純、正義の味方であること、魔法少女に熱いライバル心を持っていて、特にルルルンの事を宿命のライバルだと思っている、その二つ。


 それがどうしてこうなるのか……


 考えられる可能性はいくつかある、いくつかあるが


「単純じゃなさそう……だな……」


 頭が回らない、生命維持で精いっぱいのルルルンにに追い打ちをかけるように、聞きたくない声が聞こえる。


「流石だなルルルン!しぶとさも互角ってやつか?」


 威勢のいい声が響く。


「危うく死にかけたぜ!あの状況で俺様をここまでにしてくれるとは、さすがライバルよ」


 顔面の半分が吹き飛んでなお、元気なエクスキャリバーンが、姿をあらわした。

 その姿は何故か縮んでいて、人間サイズになっていたが、間違いなく先程までルルルンと死闘を繰り広げていた巨大ロボである。


「……なんで小さくなってんの?」


 小さくなったエクスキャリバーンの顔面の破損部分から火花がバチバチ出ているが、エクスキャリバーンは動いていた。


「身体のサイズは自由に変えられるんだよ!おかげでギリギリ助かった」


 ストリムランスの直撃寸前に、エクスキャリバーンは自らのサイズを小さくし、直撃の致命傷を避けたのだ。


「そんな……設定あったっけ?」

「フフフ、創造主から頂いた裏設定ってやつだ!」


 おそらくミズノカオリがこっそり作った裏設定なのだろう、ルルルンは溜息混じりにかつての部下に思いをはせた。


「ミズノォ……」


 「すいません」と誤魔化すミズノカオリが走馬灯のように見える。


「ついに!!!年貢の納め時だなっ!!!!!!」


 気合いを入れると顔の火花がさらに激しく弾ける。おそらく、キャリバーンも相当なダメージを負っている、負ってはいるが、この状態からの逆転の一手が、まったく思い浮かばない。


「やはり俺のライバル、油断ならない奴だ!!ちょっとびっくりしたぞ!!」


 頭から火花を散らしながらエクスキャリバーンが近づいてくる。

 このままでは自分の作った憧れのロボットに殺される。


「命乞いとか……してもいい?」


 ダメ元で命乞いを試す。


「なんだ?一言許す」


 一言許されたルルルンは一か八かの命乞いをする。


「俺、実は……お前の創造主のヨコイケイスケで、ルルルンじゃないんだ……」

「………」


 突拍子もない命乞いに、エクスキャリバーンは一瞬だけ止まって考えたが、すぐにそれを否定した。


「見苦しいっ!!!!!」

「そうなるよね……」

「我が主の名をかたるとは、不届き千万、そんなウソを命乞いに使うなど、やはり貴様は悪の魔女!」


 逆に感情を逆なでしたみたいで、エクスキャリバーンはルルルンに対し聖剣を突きつける。


「あ、でも……ヨコイケイスケを……主って認識してるのか?」

「当然だ!俺を創造した主!マスター!!この世の全てよ!!」

「ミズノじゃなくて?」

「ミズノカオリ様も同じくこの世の全て!!!」

「だったら……」


 自分をヨコイケイスケと認めさせれば、あるいは……ルルルンは一縷の望みを期待するが。


「その高貴なる存在をかたるなど、絶対に許すわけにはいかん!!!」


 名乗った事が逆効果となり、エクスキャリバーンは更に火花を散らし激昂する。


「穢れた魂を、我が聖剣で浄化する!この剣が貴様を救う救済の剣となろう!!」

「だめ……か……」


 エクスキャリバーンの聖剣が光を放ち、ルルルンに止めを刺さんとする。


 ルルルンも諦め目を閉じる、自分の作ったキャラクターに殺されるなら本望かと、前向きに走馬燈を見ようとしたその時。





 目の前に稲妻が走った―――――――




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る