第27話 特訓の果てに

 超次元の打ち合いがしばらく続いた。

 ルルルンはライネスの全力を全て受けきり、まだ余裕の表情を見せる。逆にライネスは不慣れな魔法を使い続けているのが原因か、勢いが少しづつ落ち、動きも鈍くなっていた。


「はぁはぁはぁ……」


 魔法で強化してるとはいえ、いつもならこの程度の動きで息を切らすことはない。ライネスは自分の身体の異変を確かめるように、冷静に呼吸を整える。


「いつもの数倍の力を出し続けてるから、体力もその分早く削られるって話」

「な!?」


 ルルルンの答え合わせに、ライネスの表情が強張る。


「そういう事は……早く言ってくれ」


 ゼイゼイと息を切らせて、ライネスはルルルンを恨めしそうに見る。


「スタミナは強化してくれないのか……」

「そんな都合のいい魔法じゃないよ!」

「それは、そうだな!!!」

 

 落ちた勢いだがライネスは攻撃を休むことなく続ける。一撃一撃に思いを込めて。


「はあっ!!!!」


 ギンッ!!

 ラファオンの刃でライネスの一撃を大きく弾くと、ライネスがその弾かれた勢いのまま距離を取る。

 打ち合いが止み、少し距離を取ったライネスは、いよいよ体力が限界の様子である。


「少しも、はぁ、勝てる気が、しない」

「ほっほっほ、まだまだ、初めて魔法を使う人には、負けんよ」


 師匠キャラを気取りつつも、いきなりラザリオンを使いこなし、近接戦闘で言えば自分と遜色ない、いや、それ以上の能力を見せたライネスにルルルンは驚かされるばかりであった。

 元居た世界では感じる事のなかった胸が熱くなる感覚、自分と同じ領域に辿り着けるかもしれない可能性を持った存在に、ルルルンの心は踊っていた。


「いつか……かな、らず、一太刀、だからな、ケイスケ」

「楽しみにしてるよ」


 そう言うとライネスの周りの雷が霧散し、ラザリオンが解除される、魔素切れだ。


「あっ」


 解除された瞬間、逆立っていた髪の毛が元にもどり、それに連動するように、ライネスの身体から一気に力が抜ける。ラザリオンを使った反動で全身が全く動かなくなってしまったのだ。何も出来ず、その場で倒れこむライネスをルルルンがそっと受け止める。


「ケイスケ……」

「ラザリオンを使った反動だよ、しばらくすれば動けるようになるから」

「そうか……これも初めての感覚だ」


 自傷気味に笑うライネスを包むその華奢な腕は、たしかに女性のそれだが、彼女には何よりも安心できる力強い、そんな腕に感じられた。


「……また」

「ん?」


 ライネスが小声でつぶやくが、ルルルンと目が合うと顔を伏せる。


「あっ……」

「どうかした?」

「なんでもない……」

「大丈夫だよ、言ってくれ」

「私は……お前に、酷い事を言ったくせに……こんな事を言うのは……ずるい」


 ライネスは顔を赤くして精一杯の声を絞り出している。


「ずるくないし、酷い事なんか言ってないよ、何か言った??」

「あの事で……」


 シアの事を話そうとするが言葉を飲み込む、一方的な、自分でもよく分からない気持ちをぶつけるのは余りに無粋だと、下を向いたままライネスは


「……また、特訓に付き合ってくれるか?」


 小声で正直な気持ちを吐露した。


「………」


 ルルルンは少し真面目な顔をした後、ライネスのあまりにもしおらしいお願いに、笑いを堪えることが出来ず、思わず笑ってしまう。


「笑うな!笑わないでくれぇ……」


 笑われて恥ずかしくなったのか、ライネスは身体をぎゅっと縮めて涙目になっている。ひとしきり笑ったルルルンは、涙目の最強騎士の頭を優しく撫で。


「付き合うに決まってるだろ?」


 ライネスの目を見つめ、ハッキリと言った。


「本当か?」

「俺はライネスの師匠だろ、弟子の修行に付き合わない鬼師匠じゃないぜ俺は」

「……感謝する」


 いじわるなルルルンから視線を背けて悪態をつきながらもライネスは喜びに口元が緩んでいた。

 ルルルンは、動けないライネスを自分の背中に乗せる。


「よっと」

「わわわ、ケイスケなにをぉ!?」

「おんぶ」

「そうじゃなくて、私は重い、だから」

「大丈夫、その重さはライネスの努力そのもの、だから少しも苦じゃない、嘘じゃないよ!」

「……」

「動けないんだから、家まで送るよ」


 そう言われ、ライネスは黙ってルルルンの背中に、顔を伏せ。


「助かる……」


 そう、小さく呟いた。

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