第12話 4人の魔女と消えない過去②

「いやいや、旧って言っても、騎士団なんだろ?それなりの力のがあって、ライネスみたいな強い人もいたんじゃないの?」


 ルルルン自身が、ライネスの強さを目の当たりにしているだけに、騎士団の全滅という結果が信じられなかった。


「旧騎士団は、魔法に対しての対抗策を持っていなかった、魔法への対抗術を騎士団に取り入れたのは、この件の後になる」

「その鎧とか?」

「そうだ、聖帝様がお作りになられた耐魔法防具、あの時にこれがあったら、全滅という結果にはなっていなかったはずだ」

「聖帝様?」

「聖帝様は、今の聖帝騎士団の頂点におられる方だ」

「聖帝……」


 【聖帝】度々名前が出てくる存在にルルルンは想像を膨らませる、今の騎士団の中心的存在なのだろうが、いったいどんなヤツなのか……きっとごつくて髭を生やしたおっさんに違いない、と思いつつもそれを口にすることは無かった。


「過去の話にたらればを言ってもしょうがないがな……」

「ライネスは?戦ったのか?」

「馬鹿を言うな、10年前だぞ、私はまだ騎士ではない、聖帝騎士団に入ったのはこの戦いの後だ、その時の私は無力で……無力で、ただ魔女に怯えているだけだった、私は何もできなかった」


 唇を震わせるライネスから、やり場のない悔しさが伝わってくる、もしあの時、今のライネスが戦いに参加していたら、話は違っていたかもしれない。


「現在確認されている魔女は『火の魔女』『塔の魔女』『欲の魔女』『沈黙の魔女』10年前の魔女戦争で討伐出来なかった魔女が二人と、その後現れた魔女が二人」

「ちなみに、4人の魔女は、結託しているわけではないんだよね?」

「これも憶測で申し訳ないが、それぞれがそれぞれの目的で個別で行動しているはずだ、過去一度も魔女が同時に現れたという話は聞かない」

「仲が悪いって事?」

「分からん、だが手段や思想がそれぞれ違う、というのが今の騎士団の見解だ」


 なるほど魔女業界にも競合会社が4つあって、それぞれ別の思想で経営してるんだなと、ルルルンは社会の仕組みで置き換えて考える。だけど、それならなんで競合会社同士、経営範囲の拡大を目指すはずなのに、それをしないのか?魔女の間で争ってはいけないルールでもあるのか?それとも会社の業務内容自体がまったく違うのか……?ルルルンの想像は尽きる事がない。


「それぞれの土地に根付いた経営でも目指してるのかねぇ」

「なんの話だ?」

「こっちの話」


 いずれにしろ、それは魔女本人にしか知るところではないし、知る手段もない。


「10年の間、世界が魔女に蹂躙されていないのは、奴らの気まぐれだ。だが、その気まぐれでもしも、魔女4人が手を組むことになれば、世界は確実に魔女の手に落ちるだろう」

「仲の悪い競合会社が一つの目的のため合併するとか、夢があるね」

「何を言っているんだ?」


 ふざけた例えにライネスが睨みを利かすが、ルルルンに悪気はない。魔女という存在がいかに大きな存在かを知るには十分な情報だった。


「ちなみに、ライネスでも魔女には勝てないのか?」

「分からない」

「戦ったことは?」

「ない……私は子供の頃に魔女の一人をがあるだけだ……」

「そうなんだ」


 意味深な言い方ではあったが、ルルルンは質問を続ける。


「10年現れず、戦ったことが無いなら、もしかしたらもう魔女は存在していないとか」

「それはない……今でも魔女は存在し眷属を生み続け混乱を起こし続けてる、お前が倒しただろ」

「眷属って、あいつらか」


 魔女の眷属と呼ばれる、魔法を犯罪に使う奴ら。その眼で見て経験したからこそ納得ができる。あれを野放しにしている時点でたちが悪いのは、誰でも理解できる事だ。


「とにかく、我々が分かっている事は極端に少ない、目的や規模、知る事すら叶わないまま、戦い続けてる」

「今の聖帝騎士団で、討伐はできないのか?なんかできそうじゃない?ライネス強いし」

「さっきからやけに過大評価するな、私を余裕で倒したくせに、嫌味か?」

「違う違う、ほんとにライネス強いんだって、自分が今まで出会ったノーマでぶっちぎりで一番だから」

「やかましい、褒めすぎだ」


 ライネスは、手放しに誉めるルルルンに対して、照れ隠しで顔を逸らす。


「魔女がどれだけの力を持ってるのか分からないけど、ライネスが戦えば多分勝てるさ」

「出来るならとっくにやっている、しかし10年前から居場所すらつかめていないんだ」

「居場所がつかめない……秘匿魔法で隠れてるのか……?」


 居所を秘匿する魔法は存在する、超界レベルの簡易的な魔法なので、この世界に存在していると考えていいだろう。しかしライネス達にしてみれば、それは解決する事のできない問題だ。何年探しても見つかることはないだろう。


「だから、魔女が現れたと聞いた時は本当に驚いたんだぞ!!本当に驚いたんだ!」

「なんかごめん」


 ルルルンの出現は、それこそ聖帝騎士団にしてみれば悲願を果たす機会、ライネスがあれだけ本気だったのも今なら理解できる。


「やっと宿願を果たす事ができると来てみれば、魔女ではないよくわからん危険な女で、しかも私は敗北したときてる、酷い話だ!!」

「ほんとごめん」


 恨み節が感じられるライネスのお言葉に、ルルルンは悪気は無いとはいえ、頭を下げる。


「だが、お前と対峙して初めて分かった、本当の魔法は、眷属たちの使う魔法などとは比較にならない。私は慢心していた、今の自分なら引けを取らないと……心のどこかで思っていた、だが、魔法の力は想像を超える遥かにすごいものだった」

「そうだね、魔法はすごい、すごいけど使い方次第、戦いに使う奴もいれば、人を助けるために使う奴もいる、使う人次第なんだ」

「それは、お前は後者という意味か?」

「いや……自分は何も成し遂げてない、人を助けるために魔法を使おうとしたけど、ダメだったんだ、これだけ力があっても、誰も助けることができない、だから魔法はライネスが思うほど万能じゃないんだよ」

「ケイスケ……」


 誰かを助ける前に、魔法はヨコイケイスケの掌から零れ落ちた。何も掴めなかったルルルンは、揺らがない信念を持つライネスを羨ましく思う。


「だからこの世界で、魔法を使って人を助けて、少しでも人を幸せにしていければと思ってる、死ぬ前に成し遂げられなかった夢を、どんな形でもいい、叶える事ができれば嬉しい」

「お前は……」


 あれだけの力を持っていながら、願うのは他人の幸福。ライネスは目の前の魔法少女に歯痒さと尊敬、そして嫉妬に近い思いを抱いていた。


「もし、私にお前のような力があれば……きっと復讐に使ってしまう、お前のような考えにはなれない……お前はすごいな」

「ライネスのほうがすごいよ!」

「いや、お前のほうがすごい」

「ライネスだって」

「私は魔法が使えない、魔法を使えるという事は選ばれた人間なんだ、自分の力はもっと誇ればいい」

「力ね……」


 羨む気持ちを察したのか、ルルルンはライネスに提案をする。


「手を出して」

「どうした急に?」

「いいから」


 そう言うと、ライネスの手を取り、ルルルンは自分の手を重ねる。


「な、なんのつもりだ!!私はそこまで気を許したわけではない!!」

「今からライネスに魔法継承をする」

「は?」

「俺の魔法をライネスにあげるって事」


 ライネスは、何を言っているんだ?と眉を曲げ怪訝な表情を浮かべた。

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