魔女のうわさ

「あっそうそう。リリアからこれだけは伝えてと言われたんだったわ。あっぶない、このお料理美味しくて忘れそうだった。」

 と慌てたように胸を叩きワインをごくごくと飲み干すビオラ王女に皆注目する。

「はあ。あっ失礼、リリアは、バミリオン王太子の婚約者になりました!はいっ伝えたわよ。」


「「え?!」」


「なに?あなた達が追放したからうちの弟が拾ったのよ~文句ある?」


「…………。」


 そこへ息切れしながら入ってきたロザリーヌ。


「遅れて申し訳ございませんっ。あっロザリーヌ シャンティと申します。初めまして」


(しまった、意地悪に振る舞うの忘れた……いや外面はいい事にしよう、あれ?どうしたのこの空気。異様に静か……なに、私やっぱり意地悪にしなきゃだめ?!フィリップ様の前は嫌よとか?隣も嫌よとか……でももう、お皿とか配置されてるし申し訳なくて言えない……。)


 新情報に、これから待ち受ける困難の数々に、今目の前で様子が違うロザリーヌに、感情の整理が追いつかずフィリップはパンク寸前である。食欲も皆無に等しい。


「あら!あなたっ!お人形さん?」

「え?」

「失礼したわ。ビオラよ。バミリオンの王女。フィリップ王太子の婚約者候補でとばされたわ。……歓迎されてないけどね。」


「ビオラ王女 お会いできて光栄です。婚約者?あ そうですか……」


 完全に圧倒されるヴァロリアの面々であった。もちろんパルルの一名も眉をハの字にし、口は開いたままである。


「なに?!暗いわね。誰か死んだの?」


 斜め向いからアンリーが、なにか話せと合図を送ってくる。ロザリーヌは、ビオラの指輪に目を留めた。


「その真っ赤な石 素敵ですね。」

「アゲートよ。緑も黒も、色々あるわ、バミリオンには原石の採掘場所がたくさんっ」

「その指輪はわざと原石を砕いたままの形に?ラフロックというのでしょうか」


「いえ、バミリオンにはね、いい職人がいないのよ〜。細かく削ったりする道具もね、テーラーだって少ないし、腕が悪いから貴族はわざわざヴァロリアまで依頼するのよ!不器用国家ね はははは」


 それを聞いたロザリーヌは目を輝かせた。ため息を床に穴が開くほど落とすフィリップとは正反対に、材料を他国から買い、このヴァロリアを技術大国にしようと意気揚々とした。

(そうだわ!教会学校と、技術者、職人の養成施設や工房も作らなきゃ!)


「ねえ、ロザリーヌ、あなたが性悪元王女なんでしょ?」

「え、性悪……?」

「フィリップ王太子も、美男の騎士も奪ったという、したたかな女……には見えないわね……どちらかというと……」


 じろりとロザリーヌを覗き込んだ黒い目はニコッと笑った。そして再び大きな赤い口が動く。


「世間知らずのウブなお嬢さん。でも好奇心は旺盛。ちょっと寂しがり屋さん。どう?当たってる?」

「あ……」

「私こう見えても、占い得意なのよ。人相占い。」

「人相占い?」

「そうよ。顔を見ればだいたいどんなタイプか読めるわ。だから私も困るのよ〜こんな堅物で心配性みたいな王太子殿下の妃になんて」


「な……こちらもお断りだ」

 とフィリップが反応するが、アンリーは声を押し殺して笑っていた。




 ◇◇◇


 翌日


 ロザリーヌは、ダミアン騎士とメリア騎士と共に教会学校と、レストラン、職人の工房を見学しに王都へ出向く。

 そこには、ビオラ王女の姿もあった。


「あのお付きの方は来なかったのですね」

「ああ ブレンダ?めんどくさいってさ」


(わあ すごいな。キャシーやメリとは大違い。あ私が頼りないから皆世話してくれるんだ。ビオラ王女みたいに逞しければ……)


「ねぇロザリーヌ 栗色の髪の方でしょ。あなたの愛しの騎士様は」


「あ はい。ダミアン騎士です。優しくて格好良くて素敵過ぎます。ほんと……あ、で、赤毛の騎士は……」

「メリアです!!ビオラ王女様!私は女です」

「え!!!人相占いにも引っかからなかったわ。あなた本当に女?」

「失礼ですね……」

「そう言われれば私と同じ匂いがするわ。メリア、あなた男に尽くすなんてお断りってタイプね」

「ああ まあそうですね」

「ほらっ気をつけなさい。お嫁に行き遅れるわよ」


 レストランに挨拶し、教会学校では子供たちが描いた絵をロザリーヌ達に見せに来る。


「へえ 上手ね。これは?馬?」

「うん。ダミアンの馬 虹色なんだ」

「じゃ、こっちは?」

「天使 んーロザリーみたい?白いから」

「はは ありがとう」

「でもね、この間来た人がロザリーは魔女だって言ってた」

「魔女?」


「どんな人だった?」とダミアンはその少年に聞く。

「言っちゃだめだって」

「…………」


 魔女と言われ、なにか不吉な予感がするも、教会学校や王都改革に携わり何かとけむたがる貴族もいるだろうとロザリーヌはそれ以上気にしないことにした。


「あんた達、慈善事業にしてはなかなか本格的ねあの学校。」

「そうですか」

「金持ちの子供からお金とって一緒に学ばせたら?貧困層も金持ちも小さいうちにごじゃまぜにすれば後々やりやすいんじゃないかしら」

「そうですね。貴族が入りたいと思うような学校に早くしたいです。」

 ビオラもまるで、王都視察団のように見ていたのだった。


 その後は、ジュエリーの彫金師、テーラーや、鍛冶職人の工房を見学する。


 日が暮れだし、メリア行きつけの酒場に四人は足を運んだ。


「またここか」とダミアンが呟く。

「なんだよっ立派な店だろ。」

「今回もまた王女様連れて来てしまったな」と笑う二人。

「王女と元王女ですね」とロザリーヌもそれにのった。


 じろりと周りを見渡し、席に座るビオラをロザリーヌは気使う。

「あ、やっぱり王女様には汚いですか?苦手なら……」


「え?私の趣味はねバミリオンを飲み歩くことよ。スラムにだって行くんだから。お茶会よりよっぽど面白いからっ、人間くさくてね ワハハハハ」と、笑うのである。


 酒豪のビオラはりんご酒にワイン、ビールも飲んだのだった。

 ダミアンは完全に圧倒されていたが同じようにワインを口に運ぶロザリーヌに気が気でない。


「ロザリー、君はペースダウンして。一緒に飲まないで」

「だって!ビオラ王女楽しいんだもの。こんな姉がいたら幸せだろうなあ ぐ ふ」


 少々酔いが回ったロザリーヌは、ダミアンに肩を預けている。緩む頬を緩まぬように気をしっかり持つダミアンを眺めビオラ王女は急に大きな声を上げる。


「決めたわ!!」

「どうしました?ビオラ王女」

「私、あんた達につくわ!」

「つく?」


 ビオラは、リリアから吹き込まれたロザリーヌの悪い話が全くもって嘘だと、本当の性悪はリリアかもしれないと一日行動を共にし悟ったのだ。酒の勢いも無きにしもあらずだが自称人相占い師であるビオラは確信を得たらしい。


 四人が打ち解けたように話が弾むテーブルに突然酔った男が手をつく。


 とっさにダミアンはロザリーヌを背にし、剣に手を添えた。

「なに!あんた酔っ払いかっ」とビオラは威勢が良いが、


「みな、魔女に騙されるな!!国の金を使って孤児やスカラにこの街を乗っ取らせるつもりだ!!!この魔女に騙されるなー!!」

 と男が叫ぶ。


 ダミアンが、男の胸ぐらを掴んだがロザリーヌが止める。

「さっそろそろ帰りましょう」



 宮殿に着いた馬車から降り、ビオラについて中に入ろうとしたロザリーヌの手をダミアンは掴む。

「ロザリー」

「職人達を動かす話、アンリー様に仕切って貰ったほうがいい。君が前に出ると危ない気がするんだ」


「そうかもね。話してみる……ありがとう ダミアン」


 話は済んだが、手を離さないダミアンはロザリーヌをぎゅっと力いっぱい抱きしめた。

「お願いだから、俺の見える場所に居て」

「ダミアン……」

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