投獄のとき

 シモン王子が後ろ髪を引かれながらヴァロリアを去って数日、リリアはまだ床に伏せたままであった。

 吐き気に頭痛、目眩をうったえ、フィリップ王太子が説得し医師が診に来ていた。



 その頃、ロザリーヌはダミアンとメリアと共に王都の教会に出向いていた。

 王都で一番大きなドーム型の大聖堂と鐘の塔が並ぶ。ここはヴァロリア王国の神聖な行事にも使われている場所である。


「では、こちらで教会学校を始めても良いのですね!」

 司祭(神父)の了承を得て喜ぶロザリーヌ。

 ストリートチルドレンや孤児の為の学校、ゆくゆくは孤児院としても機能させようと考えていたのだ。


「ロザリーヌ様、教師はどうするのですか」

「神父様のお話や、字を教えたり、それからお昼の食事を提供したいけれど……」

「商人達に声をかけましょう。王都のレストランにも」

 ダミアンもロザリーヌの逞しい試みに希望を抱いて話し込む。


「私は貴族の方々に寄付を呼びかけるようアンリー王子にも言ってみるわ。ほんとは至福を肥やす貴族から絞りあげたいけど。自分達が寄付したって方が後々いいわよね」


「ここって懺悔室ありますか……」とメリアは何やら聞いている。そんなに懺悔が必要なことをしてきたのだろうか。




 その頃、宮殿では大きな騒ぎとなっていた。


 王宮騎士団が走り抜け、向かった先はロザリーヌの部屋。

「なっなんですか?!ロザリーヌ様は外出されてます!」

 部屋中を無断でひっくり返す騎士達に唖然とするキャシー。


「あったぞ!」


 医師はリリアの病状は薬草の毒物と疑った。リリアのメイドポルテが、パルル土産だというロザリーヌからもらったハーブティーを飲みだしてから体調が悪かったかもしれないと言った為に捜査されたのだ。

 そしてロザリーヌの部屋から出てきたのはハーブの塊であった。


「キャサリン ウッド、ハーブの分析結果が出るまで拘束する」

「…………」

 キャシーは宮殿の地下牢行きとなった。


 騎士団は、そのまま王都へ向かう。



 教会から出て、早速レストランに教会学校の昼食について話をしようと三人は会話しながらゆっくりと歩く。


「――居たぞ!」

 騎士団が集団で迫りくる。ダミアンとメリアがいる為異常な大人数で向かってきたのだった。


「なんですかっ。」

「何故に王宮騎士団が なんの真似だ」

 ダミアンが前へ出る。


「王命です。ロザリーヌ ヴァロン王女 並びにダミアン アンドレ、メリア タルテ 三名をリリア スチュアート様毒殺未遂の容疑で拘束する」


「王命……」


 ロザリーヌは力無く騎士に腕を捕まれる。

(リリア……毒殺。誰が……)

 ダミアン、メリアもそれに続いた。


 王都の細い道は騒然としたのだった。


 三人は宮殿地下の別々の牢屋へ入れられた。



 フィリップ王太子もまた、宮殿内を走り回る。


「マシュー団長!!」

「フィリップ様……」

「何故に一方的に拘束する?」

「それは、王の命により致し方なくです。直にハーブの分析結果がでれば……」


「分析結果なんぞ黒に決まっている。これは仕組まれた罠だ。マシュー団長はどこまで知っている?」


「パルルのシモン王子に睡眠薬を盛ったのは、リリア様のメイド、ポルテだとダミアン騎士から聞いています。王都の薬師、ジュセリアという女性がはいたと。」


「シモン王子?……薬師……そやつを連行しろ!」

「ジュセリア薬師は既に今、聴取を受けています」

「他には何も知らないか?」

「はい」


「パルルへロザリーヌがガエル王太子と向かった日、馬車がスカラ族に襲われたすきにロザリーヌが誘拐された。すぐにダミアン騎士が救ったがロザリーヌは怪我を負ったのだ。

 リリアがロイスを使い誘拐させた。

 さらに、パルルにまでスカラ族が奇襲をかけロザリーヌを拐おうとした。これもリリアの指示だ。多額の報奨金をちらつかせてな。パルルの兵に守られ事なきを得たが、パルルの尋問で明らかになった。」


「…………」


「いや、すまない。全ては私が力も無いのに伏せていたのが悪かった。私が守りきれるような事態ではなかったようだ……。」


「いえ。ダミアン騎士と話してみます……。面会に行きます」


「私は父上に直接話す」

 フィリップは急いで王の執務室を目指す。そこへアンリー第二王子が走ってきた。


「兄上!いったい何が……」

「お前は良い、大人しくしていろ」

「父上はリリアの悪事を知らなかったの?」

「アンリー、お前は」

「知らないけどだいたい分かるでしょ。普通」

「そうか、ならば共に行くぞ。父上に話さなければ」

「……聞くかな」




「王は審判の場まで誰ともお会いにならないと仰っています」

「……はあ」「…………」


 王は頑固で一切の面会を拒否した。



 マシュー団長はダミアンの牢を訪ねる。

 ロウソクの灯りを頼りに階段を降りていく大柄な背中は自身の無力さを責め幾分か小さく見える。


「ダミアン……すまない。何か大きな誤解があるようだ。」

「いえ。来てくださって感謝します。ロザリーヌ王女は?大丈夫ですか?」

「ああ。ただお前と同じように牢に居られる。酷い扱いは無い。」

「……そうですか」

「フィリップ様からリリア様が仕組んだという誘拐、奇襲の話は聞いた。他に何か無いか?」

「薬師……違法毒物を売るあの店にポルテが出入りしているので、おそらく今回の毒も。あの店主を拘束出来ますか?」

「既に聴取をとっている。やはり全ては審判を待つしかないか。」

「…………」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る