シモン王子とやっぱり閉じ込められました

「シモン様 シモン様 閉じ込められましたっ」

「……え?」

 シモンからすれば、ロザリーヌが部屋にいる事すら謎である。そのまま呆然とガチャガチャするロザリーヌを背後から眺めている。


「鍵は?鍵はありますか?」

「え、え?鍵ってあるのですか?」


「とりあえず叫びましょうか」とロザリーヌはドアを叩きながら大声を出そうとした瞬間、シモンの手がロザリーヌの口を塞ぐ。


「ちょ ちょっと待ってください」

(なに なになに 何を待つ?!)


「あ いえ い 今 誰かが我々を見れば、そ その好んでここにいると……お 思われます……。」


 それを聞いたロザリーヌはハッとする。誰かがこの部屋に無理矢理入れた訳ではなく自分の足で勝手に入ったのだ。鍵が閉められたのは誰かのイタズラではあるが、直にその誰かが来て開けられてはまずいと、また落ち着きをなくす。


 部屋を見回しロザリーヌはベッドの下へ潜り込んだ。ベッドを覆うカバーは高級感のある重たいもので金糸のフリンジがフロア絨毯すれすれまでかかっている。


「…………」

 それを見たシモン王子は、もうどうしたらよいか分からない様子で、床の絨毯ぎりぎりに顔をつけ覗いた。


「ロザリーヌ王女 ロザリーヌ あ きっとあなたが居なくなれば騒ぎになります」

 またひょっこり顔だけ出してきたロザリーヌは困った顔をする。

「……ではどうやって出ましょう」


 シモンの部屋は一階である。バルコニーはないものの腰より上あたりの高さに出窓がある。


 その時、キャシーがロザリーヌを探していた。


「ロザリーヌ様!ロザリーヌ様!」


「あ、ポルテっロザリーヌ様見なかった?」


 リリアのメイド、ポルテも居るようだ。

 よって直に鍵もさっと開けられるだろう。



 ベッド下から覗くロザリーヌの頭を押し戻し、シモン王子はまたテーブルに座り紅茶に手を伸ばす。



 カチャッと誰かが鍵を開けた音がし、しばらくしてノックされる。



「シモン様 フィリップ様がおいでです」

「シモン様?」


 キャシー、ポルテ、フィリップ、執事のクルーゼは、しばしドアの向こうで立つ。

 

 ポルテはロザリーヌとシモンが居るのを予想している。もしかしたら本当に二人はベッドで愛を育む可能性もあると期待していた。リリアに良い報告が出来ると。


 応答は無いままだが心配で苛立ったフィリップがドアを開けた。


 しかし一同の目に飛び込んだのは、座ったままいびきをかくシモン王子であった。


「…………」

 フィリップは何も言わず去ろうとしたその時、起きたシモン王子が声をかける。


「あ フィリップ王太子」

「ああ、ごめんなさい。お疲れのようで」

「い いえ、どうされました?」

「ロザリーを見なかったかな?」

「えっ?い」

「いや、いいよ。ゆっくり休んでくれ」




 シモン王子は紅茶をじっと見る。まさか、紅茶に睡眠薬?!と今気付いたようである。


 ベッド下に息を潜めていたロザリーヌが這い出てきた。

「シモン様 シモン様 大丈夫ですか、その紅茶飲まないでくださいよっ」


 ロザリーヌを引っ張り出したシモンは手を取ったまま向き合い問いかける。

「で 出ますか?でも……あなたを探して今皆さんうろうろされています」


「……どうしましょう」

「い、嫌ですか?ぼ 僕とそうなるのは……」

「………………」


 驚いた様子で俯くロザリーヌを優しく見つめたシモンは笑う。

「ははっはははは。冗談です。あ 窓しかないですね さっ手を貸します。こちらへ。」


 ロザリーヌは開いた窓枠に足をかけ外側に降り立った。

 暗い庭を進もうとしたした時、誰かの砂利を踏みしめる音と共に

「誰だ」という声がした。


 暗いとはいえ宮殿の明かりで照らされ、小さく座り込むベージュのドレスを着たプラチナブロンドのロザリーヌは暗闇には溶け込めない。

 近づいてきた男はロザリーヌの前にしゃがみ込んだ。


「まさか シモン王子の部屋に……」

 と呟いたのはダミアン騎士であった。


「ち、違います。違うわけでも、いや違いますっ」


「おかえりなさい」

「あ はい た ただいまです」


 パルルから戻り初めて会話を交わした二人であった。

 ここ最近のお転婆ぶりが面白いのかふっと笑ったダミアンは

「とりあえず、ここを離れましょう」とロザリーヌの手を取る。


 歩きながらロザリーヌは、事の発端を説明する。

「……それから、紅茶に睡眠薬が入っているのではと思うのですが……。」

 それを聞いたダミアンは、目の色を変えロザリーヌを連れてまたシモン王子の部屋を訪ねた。


 ロザリーヌはわざわざ庭から一周してきた事となった。


 ダミアンはティールームにあった瓶を使い飲み残しの紅茶を入れ懐にしまう。


 フィリップ達がティールームにやって来た時にはダミアンも居る為、おかしな疑いはもたなかった。


「ロザリー何処にいた?」

「あ、私は庭に……夜風に当たろうと……。」

「庭?心配したじゃないか……。さあっおいでロザリー」

(いやいやお兄様……今はそんな状況では)


「ロザリーヌ様に、護衛をつけてはどうかとシモン様と話しておりました。そこへたまたま散歩から戻られたロザリーヌ様とこちらにご一緒しておりました」

 とダミアンが言う、それに合わせるようにシモンも

「ぼ 僕が気になりまして、色々とありましたから」


「そうだな。すぐにでも護衛をつけよう。ダミアン、明日朝マシュー団長を私の元へ寄越してくれるか。」


「はい。承知しました。」

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