王女の帰還

 出発の朝、パルルの王とやっと部屋から出て少し態度が小さくなったガエル王太子に見送られロザリーヌ達は馬車へ乗り込んだ。


 前の馬車は安全のためにシモン王子とロザリーヌが共に乗っている。

 キャシーはシモンのお付きの執事クルーゼと後ろの馬車にいた。


 銀髪をなびかせ恥ずかしいのかロザリーヌには一切視線を向けないシモンに、ロザリーヌは声をかける。


「シモン様はヴァロリアは初めてですか?」

「あ 小さな頃に一度 あります」


(ちっちゃなシモン王子 可愛かっただろうな。それにしてもすぐ沈黙……何話そう。)


 その時、馬車が止まる。

 シモンは急にキリッとした顔になり剣に手を伸ばす。扉を開けると外の声が聞こえてくる。


「なんだよっガキ」

「今度はガキ使っておとり襲撃か?」と兵たちが小さな子供を囲んでいた。

「早くどけっ馬車で引いちまうぞ!」


「ロザリーヌ王女 危険です 離れてください」

 と言われようとも今にも泣き出しそうな男の子に走り寄るロザリーヌ。

 男の子は足を痛めているようで動けない。芝居ではなく痛がっている。ロザリーヌは落ちていた枝と兵士の腰に引っ掛けてある布を使い足を固定した。

(こんなので固定出来たかな……無いよりはマシかな。骨折してませんように……)


「この辺りに住んでるの?」

「うん、あっち」と指差すのはスカラ族の居住エリアである。

 呆気にとられていた兵士に「この子を送ってあげてください」とロザリーヌは言った。

「……はい」

 シモンもこれには驚いたが、子供を送り届けた兵が戻り再び出発した。



 馬車の中シモンはロザリーヌを微笑みながら見ている。

 無意識のうちに頬が緩んでいるようである。

 もっと気の強い王女だと噂で思っていたが、自身の目に映る彼女は女神のようだと。

 一層のこと、ロザリーヌの汚名返上に力を貸したいと思うのであった。



「ロ ロザリーヌ王女、あなたはヴァロリアに居たいですか?」

「ええ ああ はい。王都を見たいです。あ、あの久しぶりに……。」


 それを聞くと少し寂しげな顔をちらつかせた。


 シモンは、もしヴァロリアにロザリーヌの居場所が無いのであれば、パルルへ連れ帰り自分の妃にしたいと考えたのだった。だが問題児の兄が王太子である以上それも苦労させる種になるかと、頭の中であれやこれや妄想を繰り広げ、結果じっとロザリーヌを見つめている。


「大丈夫ですか?シモン様……私、なにか……」

 あまりにも見つめられ、ロザリーヌが挙動不審となる。

「あ、いえ だ 大丈夫です」




 ◇◇◇



 ヴァロリアに到着した一行を出迎えたフィリップ王太子、アンリー第二王子、リリア。

 リリアはひきつった笑顔を浮かべてはいるが度肝を抜かれている。


 キャシーが泣いてロザリーヌが拐われた!と叫ぶのを予想していたのに、ロザリーヌは笑顔でシモン王子に手を引かれ馬車から降り立ったのだ。



 挨拶もほどほどに、直ぐにフィリップ王太子とシモン王子の話が始まった。

 貴賓室で静かに語るシモン王子。いややっぱり少々どもってはいる。


「あ、えっとですね……あ まず パルルへ向かう際の誘拐未遂はご存知ですか?」


「誘拐未遂?聞いていないが……ロザリーヌの自作自演かなにかではないか?結局嫁ぐのが嫌で戻ったのだろう?」


「はあ……」

 とため息をついたシモン。予想通りの堅物そうなフィリップにたじろぎながらも続ける。


「あ、あの 兄によると、ヴァロリアの騎士がロザリーヌ王女を助けたと。連れ去られた際、馬から飛び降り怪我もされていたので自作自演ではないと思いますが……」


「怪我??ロザリーヌが馬から飛び降り……うちの騎士が助けた?」


 フィリップは全く報告を受けていなかったのだ。


「騎士の名前は?」

「あ えーと ダ ダラ?アンドレだったような……。すいません。兄から一度聞いただけでして。」

「いや、分かった。ありがとう シモン王子」


「そ それからパルルの城に奇襲がありました」


「なに?!」


「ロザリーヌ王女を狙った スカラ族でした。で、尋問の結果……」


「誰だ 誰の差し金だ ロイスか、他国か」


「いえ。あ 申しにくいのですが…………リリア スチュアート様です」


「…………」


「あ、この事はロザリーヌ王女には知らせていません」


 フィリップは険しい顔をし額を手で何度もこする。今にも倒れそうであった。

 しかし、ロザリーヌがこの頼りなさげなシモンを言いくるめ虚偽の報告をさせているのではと疑う。


「分かった。ありがとう。一度こちらでも調べてみるよ」


 不安げなシモンが佇む貴賓室を去り、直ぐ様自室にダミアン騎士を呼んだ。




「お呼びでしょうか。フィリップ様」


「ああ、ロザリーヌがパルルへ向かった日、何をしていた?」


 ダミアンは一瞬ハッとしフィリップの目を見てまた視線を落とし切り出した。


「ロザリーヌ王女の護衛を致しました。」


「そこで何があった」


「ロザリーヌ王女は誘拐されましたが、馬の上でもみ合ったのか馬から飛び降り走って逃げておられました。怪我もされており、私が馬に乗せてまたパルルへの馬車へとお連れしました。」


「なぜ一度連れ帰らなかった、そんな状態で……」


「それは……」


「リリアか」


 リリアと聞いたダミアンの目は明らかに泳ぐ。


「リリアが関わっているのだな?」


 観念しダミアンは、リリアがロイスを脅しロザリーヌを誘拐させようとした件を報告したのだった。

 対するフィリップはパルル襲撃犯もリリアの指示だと話した。


 二人は同時にため息をつく。

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