第26話 出会ってしまった
何かいたらすぐに閉めればいいさ、と勢いよく開けられる最大まで開けた。しかしそこにはケーシャがいただけで、黒い大きな影の主はいなかった。
「あ、エータ。人形知らないか?」
いても困るが、何もなくて拍子抜けしてしまった。あの影、じっくりと見たわけではないがデカかった。
少し考える。ふと、いつもは閉まっている外に行くための扉が開いているのが見えた。
「ケーシャ、いつ来た?」
「朝日が上まで昇ってからだけど? エータ疲れて起きてくるの遅いだろうと思ったから。どうかしたか?」
「来たときこの部屋おかしくなかったか?」
「……特にいつもと変わらないと思うが」
「あの扉、開けたか?」
「あー珍しく開いてたな」
無意識につばを飲み込む。
扉の近くまで行くとドアノブを確認する。しかし傷付いていることもなく、扉自体も変わらないように見える。
「エータ。もしかして人形が動いたのか?」
「その方がいいよ。昨日そのガラスの向こうにデカい影を見たんだ」
「木じゃないのか?」
「できればそう思っていたい。疲れてたし、外の扉が開く音を聞いたのも足音っぽい音がしたのもきっと気のせい!!」
そう。強制的に血を造って増やして抜かれたのだから精神的にまいって幻覚を見たとかもありえてほしい。
「ついに出会ってしまったのか」
ケーシャが真顔で言う。やめてくれ。そういえばこいつはじめからなんか言ってたな。
「ついにて。俺多分外が夜でも好きなところで寝てただろ?? 本当1回も、何も、見たことなかったぞ」
「寝てて気付かなかったとか?」
「身の危険を感じないほどの熟睡、なんて、……するか? 今の俺ならワンチャン……」
ここに来てから鈍感度が上がっている気がしてならない。仕事と生活に追われていないせいだろうか? なんにせよ生きやすいのは良い事だが。だが危険を感じないのは生き物として終わっている。どうしたものか。
「そうじゃなければ原因はどうしたって昨日の人形だろ。で、人形どこだよ。本当に歩いてどっか行ったのか?」
「あ、今持ってくる」
「ん? 持っていったのか?」
慌てて玄関から人形取ってくる。それを抱えてケーシャの近くまで行く。
「その影に壊されると困るかなって持っていったんだ。だって俺の血だし。あんなに頑張ったのにもったいないだろ」
「実際見たかは置いておいてエータが恐怖を感じるとはな」
ケーシャが人形を受け取った。
「失礼だな。一通りの感情は持ってますー!」
「よかったな」
「笑うな!」
ケーシャが人形の胸に耳を当てて音を聞いている。俺は寝てしまったので分からないが昨日の状態と変化がないか確かめているのだろう。
「なあ、発掘品ってなんなんだ?」
「んー。遺跡が見つかると出てくる昔の道具、といったところか。剣や魔法の研究書みたいな実用的なものからこういった用途がないものまで色々あるけど、遺跡から出たものは全てそう呼ばれる」
「なるほど? でもこの人形使い方知ってたよな」
「それは発掘品を専門に研究している人たちが解析したから分かるんだ。解析して性能や使い方が判明すると大抵のものは売られる。特殊な使い方をするものは使い方を記したものを付けてな」
「それで分かるのか」
「そういうことだな。さて問題なく動作しているがどうする? 俺は早く試してみたいんだが」
どことなくワクワクしているケーシャ。
「確かめるったってどうするんだ」
「魔方陣があるなら中心に置いてみたらどうかって言われたからしてみたい」
「どーぞ」
特に止める理由はないので好きにしてもらう。
しかしこれからどうしたもんかな。
ここにいると昼も夜も判断がつかないから安易に部屋の外に出れなくなってしまった。完全に部屋から出れないんじゃ本当に引きこもりになってしまう。
危害を加えられていないとはいえ流石にあの影と仲良くできる自信はない。
ケーシャが人形を魔方陣の上に持っていく。
「エータの見えてる魔方陣の中心ってこの辺か?」
ケーシャが止まった場所は中心ではない。部屋の中心ではあるが、魔方陣の中心はそこからずらすように描いてあるのだ。
「もう少し左……あっ行き過ぎ戻って、止まって。そこから後ろに3歩くらい。そこそこ。今左足で中心踏んでる」
「ここだな?」
ケーシャは左足を後ろに引くとその場所に静かに人形を座らせた。
「ここで合ってるか? 置いたときにずれてはいないか?」
「ばっちり」
そしてケーシャが俺の方に戻ってきた。壁に寄りかかる俺の隣に来ると俺と同じように壁にもたれた。
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