第21話 金持ちコレクター

 グロリアは俺にぴたりとくっついている派手な男に目をやった。伺うようにじっと見ている。


「やっぱりサライスじゃない。変な格好してなにしてるの?」

「どうしてあなたは分かるんでしょうね? 顔まで変えているのに」


 否定することもなくコレクターはあっさりと答えた。


「魂から変えてこない限りそれは無理、よ」


 グロリアは右手の人差し指を立てる。その指でコレクターもとい、サライスの胸元を突いた。

 サライスはふむ、と自身の口元を指で撫でた。


「それは無理ですね」

「そりゃそうよ。ね、ケーシャといつの間に知り合ったの?」

「今しがたですよ。負けましてね」

「あら、変な自称コレクターってあなたのことだったの?」

「ひどい言いぐさですね」


 知り合いだったのか。グロリアは変なやつと交流があったんだな。


「お兄さん。包めたよ!」

「ああ。悪いな」

「何かあればうちに持ってきてくれよ。ちょっといい値段で買い取ってやるからな」

「その時は」


 包まれた人形をバッグに収める。サライスも積んでいた札束を収納しだした。流石に置いていく気はないようで勝手に安心した。

 今日俺たちは町に泊まる予定だ。予定より早く着いたがずっと野営だったのでベッドで眠りたい。エータはひっ迫してないし一泊したっていいだろう。


「そうそう。こっちに近寄れないうちに宿は取ったわよ」

「そうか。ありがとな」

「こっちよ」


 前回は時間が惜しかったので泊まることなく町を後にしたのでこの町の宿ははじめてだ。あの時は俺が焦っていた為にふたりには迷惑をかけた。

 グロリアに寄り添うロアの後ろを、サライスがついて来ている。ぎょっとしてグロリアに駆け寄る。


「おい、グロリア。あいつ付いて来てるぞ」

「いいのよ。そのつもりだもの」

「は?」


 どういうことだろう? 喋らなくても通じる何かがあるのか?


 宿に着いて女将さんに軽く挨拶を交わす。

 2つ取ってあった部屋のうち大きな方へ入る。部屋にはベッドと机と椅子しかないがグロリアがロアと一緒に泊まれるように部屋自体は大きい。床にはちゃんと柔らかい厚めのマットが敷いてある。ロアが早速くんくんと匂いをかいでからくるくるとその上を歩いている。


「さ、いくらまで出してくれるの?」


 ベッドの上に座ったグロリアがゆっくりと足を組む。


「それは物を見てからでしょう?」

「それもそうね。ケーシャ私に残り渡してくれる?」

「ああ」


 懐からあの巾着を取り出すとグロリアに渡す。

 ロアはというとサライスに危険を感じないのか机の近くで伏せていた。グロリアの邪魔になると悪いので俺もロアを見習って机の方に移動する。

 グロリアは勿体ぶってサライスを焦らしていた。なぜならまだ巾着から取り出した空間石は1つだけだからだ。そして細い指で摘んでサライスに見せびらかしていた。


「どう?」

「思っていたよりずっと良いものを持っていますね」

「クズ石ばっかりだと思った?」

「この頃出回るのはそういうのが多いですよ」

「よーく知ってるわ」


 自身も探して良い石が見つからなかった事を思い出したのかグロリアは顔をしかめた。

 サライスが手を出す。


「ほら、早く貸してください」

「仕方ないわね」


 グロリアはそっとサライスの手に空間石を乗せる。

 サライスは嬉しそうにそれを手の中で転がす。


「ふふふ状態の良いこんな大きさ久しぶりです。さあまだあるでしょう。良い値段で買い取ってあげますから全部出しなさい」

「嫌よ。全部なんてあげないわ」

「おや、残念」


 グロリアがいくつ出したかはここからだと分からないがサライスは満足したようだ。

 サライスが札束を取り出していく。ひと山、ふた山……さっき積み上がっていたのとほぼ同じ量の札束がベッドの上に積み重なる。


「これぐらいでいいですか?」

「そんなこと聞くなんて、お願いすればもう少しくれるの?」

「もちろん良いですよ」


 そして7束追加される。気軽すぎないだろうか。

 グロリアは札束に慣れているのか楽しそうだ。俺はというと怖い。巾着といい札束といい怖いものが増えてしまった。

 サライスは財布を手にすると山となっている札束をそこに全て入れた。それをグロリアに渡す。


「これはおまけです。ほぼ満杯の為劣化していくとお金が溢れてくるので注意ですよ」

「あらありがと」

「いいんですね?」

「いいのよ生真面目なんだもの」

「それは仕方ないですね」


 生真面目? いったい何のことだろう?


「ふふ、ちょうど良かったわ」


 グロリアが指を組んで前の方に伸ばす。


「いえいえこちらこそ。思わぬ大収穫です。どこで手に入れたか今は聞きませんよ。また珍しい物を手に入れたらこれを使って連絡を。私に買い取らせてくださいね」


 サライスが細長い紙の束をグロリアに手渡した。

 遠くからでも縁に模様が入っていることが分かる紙だ。グロリアが紙とサライスを何回も交互に見る。


「もしかして完成したの?」

「試作段階よりも実験中と言いましょうか? まだ一方通行なんです。私にしか届きませんし、使ってみてくださいと誰にでも気軽に渡せる物ではないですしね」

「ちょうどいい相手だったわね?」

「本当に。では私はこの辺で」


 サライスはすっと一礼すると静かに部屋を出ていった。

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