第19話 コレクターがひとり
短期間に往復をしていたせいだろうか? 道中の魔物との戦闘は最小限で済んだ。そのおかげで前回よりも早く町に着くことができた。
前回大きく日数がかかったのは大型動物の群れの移動に出会ってしまったことが原因だ。その群れを追ってきた肉食獣と魔物が獲物を奪い合うという争いに巻き込まれた。巻き込まれたというか多勢に無勢でなぎ倒して進めるはずもなく、通り過ぎるのを静かに待っていたというか。
しかもそのせいで付けられた足跡で道を見失ったりもした。
それに比べて今回はなんと平和に来れたことか。
町までの道をロアが覚えてくれたので前回のように道を見失うことがなくなったというのも大きな要因だ。
想定日数より早く着いたのは幸運だったと思い知るのはすぐのことだった。
さて人形を売っていた店主の所へまっすぐ向かっていたら違和感に気付いた。
「あら?」
「騒がしい、な」
以前来たときも人はいたがこんなに賑わった感じではなかった。
今も近くの民家から出てきた子供たちが駆け足で露天の並ぶ方へ走っていった。
「お祭りでもしているのかしら?」
グロリアも首を傾げている。
「何でかこんなところまでコレクターの人が来てるんだってよ」
「コレクター?」
グロリアか呟いたのが聞こえたのか道端に腰掛けていたおじさんが教えてくれた。
「自分でそう名乗ってた。まーまー変な人だったよ。ちょっとでも珍しい物だとほとんど買ってるらしいよ。面白いほど買うからみんな面白がって見てるんだ」
「へぇ。そうなのね」
グロリアがちら、とこちらを見たような気配を感じた時には俺の足はもう地面を蹴っていた。
後ろで何やら声がするが、後で聞くからと口の中で謝って目的の店まで走った。
近くまで来ているはずだが人だらけでいまいち分からない。すべての話し声が値段交渉をしているように耳に入ってきてしまう。
ひときわ人が密集しているあたりの人垣をかき分けると運良く探していた店主を見つけられた。もうひとかきかき分けて密から抜け出せた。
前見た店主は誰かを相手にしている。それを沢山の人間がぐるりと囲んで見物していた。
店主と向かい合っているのは頭に緑と黄色の縦のしましまの丸い帽子にギザギザした襟の白いシャツ。動くたびキラキラと輝く赤い上下を着て歩くのには向いていない尖った金色の靴を履いた人だった。
コレクターが変な、というのはたくさん買い漁っているからではなく服装のことだったらしい。変だ。
「まだ欲しがりますか〜?」
「これは相当貴重な品ですからねぇ」
コレクターが何を欲しがっているか。店主の持っている貴重なものなど俺が今買いに来たあの人形以外にない。はずだ。
現にふたりは人形を挟んで話していた。人形の脇には積まれた札束。
積まれた札束はぱっと見ただけで前に店主が提示した金額を超えていることが分かる量だ。なのにコレクターはまだ売る気のない店主に向けてさらなる金を投入しようとして懐を探ろうとしている。いったいどれだけの金持ちなんだ!?
「ん〜ではこれを追加でどうです?」
「ちょっと、待った!」
買われてしまっては困る。手放さない可能性があるからだ。仕方なくコレクターが追加の金を提示する前に目立つのを覚悟で割り込んだ。
「おや! お兄さんちょうどよいところに!」
もっと釣り上げられると踏んだのだろう。満面の笑みの店主が俺の手を引き隣にこさせる。
金に目のくらんだ店主め。口調まで変わっている。
「さっき言ってた先約はこの方なのですよ」
「おや。本当にいらっしゃったのですねぇ」
ふたりとも口はにっこりと笑っているが目はどちらも笑っていない。ああ。巻き込まれたくはなかった。
だが間に合ったのは幸運だった。
「てっきり売りたくないか、値段を上げたいがための嘘かと思いはじめていましたよ」
「なんてことをおっしゃいますか。約束をしたお客様が1番ですからね」
面倒くさい!! すでにだ!
「で、お兄さん。どうなりました? こちらは今見ての通りでして。ここに積まれた以上出せばすぐにあなたのものですよ」
「ならこれも追加しておきましょう」
ぽん。と朝食の卵に塩をかけるかな、といった気軽さで札束が追加される。コレクターと目があった。口の端を釣り上げて楽しそうに笑う。勝てると踏んでいるのだろう。
通常であればそうだ。こんな格好の冒険者風情にそれを超える現金など用意できるはずはない。
だが俺にはエータに貰った物がある。現金ではないがこの価値がわからない商人はいない。
「流石にあの金額を超える現金は用意できない」
「おや? ならこちらの方にお売りしてもよろしいですかね?」
「それはこれを見てから言ってくれるか?」
店主をぐいっと後ろに振り向かせて手の中に用意しておいた小さな大きさの空間石を2つちらりと見せる。もちろん店主にしか見えないように。
横目で反応を待つ。
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