第17話 都合のいい話
「あら? ケーシャそのカバンどうしたの?」
ホールから出てくれば薬草を摘みに出かけているかと思っていたグロリアがいた。簡易かまどを作っていたようだ。
「エータに借りた」
「え、借りたの? それを? あなたの持ってるものとよく似ているけど、よく見ると違うカバンね」
「色が微妙にな」
「違うのはそれだけじゃないわよ。エータ君これどうしたのかしら?」
「なんか部屋に置いてあったって」
「そうなの」
「ものすごく入るカバンだぞ」
「……まさか。似てるだけの普通のカバンでしょ?」
中から肉をにゅるりと出す。他にも次々と出す。
「…………本当だわ。かなり詰め放題じゃない」
「不思議だよな」
グロリアが側まで来てエータのカバンを観察する。開けたり、ひっくり返したり。
「ケーシャのカバンを見たからこんなに似てるのね」
「そうなのか?」
「正確なところはわからないけど参考にはしたと思うわよ」
「誰が?」
「エータ君が?」
「別にあいつが作ったわけじゃないだろ」
「でも彼が使ってる部屋に置いてあったのよね? 食べたいものが出てくるっていう部屋」
「そうだと思うが……」
なんだろう。グロリアは何が言いたいんだ。
「出てくるのが食べ物だけじゃないのかしら……ねえ、ケーシャ。たしかあの中に空間石あったわよね」
グロリアがにっこりと笑う。嫌な予感がする。
「エータ君それがもっとあるところ知ってるかしら?」
「……もしくは?」
「エータ君の部屋にそれも置いていないかしら!」
想像だけで楽しくなってしまったのかグロリアが小さく飛んでいる。
「いやいやそんな都合のいいことないだろ」
「なくてもいいのよ。試してみてほしいだけなの」
ね? と首を傾げるグロリア。こうなったら実行するまで言い続ける。
「聞くだけだからな」
「やったー! よろしくね。ケーシャ」
「はいはい……」
ここまでテンションが上がっているのも珍しい。
もしかしたら、が実現しそうだとこうもなるか。
「じゃ、いってらっしゃい!」
グロリアに促され再びホールに向かうのであった。
まずがらくたのある部屋の木箱の中の空間石を探しに行こうとした。
しかし入ったら妙な表情を浮かべるエータがいた。どうしたのだろう着替えている。
「本当にするのか?」
そこでさっき受け身の話をしたことを忘れていることを思い出した。
「あーその前にちょっと探しものしていいか?」
「いいけど」
口ではそう言うがあからさまにホッとしている。厳しくしたつもりはないんだけどな。
「ついて行ってもいいか?」
「構わないぞ」
むしろ来てくれた方が話しやすくてありがたい。
俺の後ろをほてほてとエータがついてくる。
部屋の中に入れば少し片付いている。
「片付けたのか?」
「暇ですこーしだけな」
「そうか」
だが木箱の中に変わりはなかった。
前に戻した石が戻した時と同じように入っていた。それを手に取る。
「それ何か知ってるのか? 石の中にでかい白玉みたいな形の水晶が混ざってるみたいで傷つかないのかなー……ってケーシャ、どうした?」
「これと同じもの見たことないか?」
「ないけど……」
あごに手を当てて一瞬考えたような素振りをしたエータ。
「ちょっと待ってて」
と、どこかへ行ってしまった。本当に心当たりがあるのだろうか?
そしてすぐにエータは戻ってきた。
「大きさ気にしないか?」
「別に大きくても小さくても」
「なら良かったー! 手出してくれるか? はいこれ」
手を出せば部屋にあった大きさより小さいものが5つ、大きいものが3つがのせられた。
「これ」
「似てるけど違うかもしれないから違ったらごめんな」
「えっと、ちょっと仲間に見せてきていい、か?」
「好きにしろよ。あげるから」
「駄目だって! これ」
「大丈夫。きっと山ほど出てくるから好きにしてくれ。遠慮はしなくていいからな」
真剣な顔をされて、空間石を握らされてしまう。
「じゃ、今回だけ……」
そう言えばエータは満足そうな表情でうんうんとうなずいている。
出てくるとはどういうことだ?
「グロリアまだいるか?」
とんぼ返りで戻ってくればグロリアは薬草をまとめているところだった。俺に気付くとすっ飛んでくる。
「どうだったの!」
「どうもこうも」
ほら、と見せるのが早いか、奪われるのが早かったか。
グロリアが貰ってきた石をじっと観察する。ひっくり返したり、光らせたり。
「ケーシャ。すごいわ。全部本物よ」
「都合のいい予想だったけど予想通りだったな」
「いいじゃない。人生で1回くらいこんなことがあったって」
「そういうもんか?」
「ね、これ売ればいいんじゃない? 絶対足りるわ。余るくらいよ」
「うーーん」
「魔石の中でも空間石ならまだ目立たないはずよ?」
「うーーーーん」
「他に稼ぐあてないでしょ?」
「だかなぁ……」
「じゃ人形は諦めて他を探すの?」
「それは、あー……そうだよな」
いくら色を付けてもらえるといっても薬の値段はそこまでいかない。貯まるよりも先に調査が終わるだろう。それにそれを借りたら生活費が消える。グロリアに返すあてもない。
エータには悪いがこれを売るしかないのだろうか。
「でもケーシャのこういう時の勘って何故か当たるのよね」
「何の話だ?」
「人形の話よ。あなたがこれ、と思ったならそうなのかもしれないわ」
「勘が当たるって……そんなことあったか?」
「本人は無自覚なものなのよ。私もあなたにこんなこと言ったことないしね。そういう時、あら勘いいのねと見ていただけなのよ」
いつの話をしているのかわからない。でもまあグロリアが言うならそういう事があったのだろう。
「ま、売ってもいいか聞いてらっしゃい」
「いいって言うぞ。好きにしていいって言ってたから」
「太っ腹ね〜じゃ早いほうがいいと思うし明日には出発する? まだ荷物そこまで開いてないから楽勝よ」
「そうするか。挨拶だけしてくる」
「はーい」
ホールに入ろうと思ったら木の枝をくわえてきたロアに出くわした。いないと思ってたら薪集めてくれてたのか。
「ごめんな、いっぱい集めてきてくれたのに……」
よしよし。ひと通り撫でられて満足したのかグロリアの方へ歩いていった。
こんなに出たり入ったりしたのは初めてではないだろうか?
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