幻荘・死者の団地の記録

読天文之

第1話孤独なおじいさん

死者が今も住んでいるという噂が絶えない、市営団地に私は足を踏み入れた。

市役所からの情報では、幽霊や夜中の不気味な物音が多発したために、四年前から居住者がいなくなり廃墟となったという。

外見はかなり古いが、まだ階段や床はしっかりとしている廃墟だった。

この廃墟は十二階建てで一階ごとに十部屋ある、私は一階ごとに部屋を見回ることにした。

すると「104号」の部屋にふと目が止まった。

そして中へ入ると・・・、そこには白髪のおじいさんがいた。

「ああ、これは失礼しました・・。」

と言ったがおじいさんには聞こえていない。

よく見るとおじいさんは、写真立てを持ちながらブツブツつぶやいていた。

「許せん、許せん・・・。わしを一人にさせておって。」

それから「許せん!!」とおじいさんは大声で連呼していた。

さらに私は部屋のいたるところに、「呪い」や「天誅」と墨で書かれた張り紙がたくさん張り付けてあることに気づいた。

この時点で私は震えていた・・・、がさらにおそろしいことが起きた。

なんとおじいさんはどこからか金槌を持ってくると、写真立てに向かって思いっきり叩きつけた。

「うあああ!!天誅じゃぁーーーっ!!」

叫ぶおじいさんは鬼そのものになっていた、私は恐怖でついに部屋から逃げ出してしまった・・。






後に知り合いに調査してもらった結果、あのおじいさんはこの部屋で七年前に自殺したことがわかった。

おじいさんの本名は直枝敬造なおえけいぞう、この市営団地に来る前は妻と暮らしていた。

ところがその妻がなんと若い男と不倫したことがわかり、敬造は離婚し住んでいた家から市営団地に引っ越した。

しかし妻に裏切られた気持ちは消えず、人付き合いをほとんどしなかったことで、孤独にさいなまれ、そして妻への恨みが沸き上がったのか、夜な夜な「許せん、許せん!!」と叫ぶようになったという。

そんな孤独なおじいさんの住んでいた部屋だった。


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