異世界解放同盟

 僕はあのゴーストが言っていた『異世界解放同盟』について、校長先生にも魔法警察にも、リョウにも伝えなければいけないと思っていた。特にリョウは憑依者だから異世界解放同盟から狙われている対象そのものだ。


「ゴーストは、自分たちは『異世界解放同盟』だと言っていました。」

「異世界解放同盟? 聞いたことがないな?」


 魔法警察のロック警部が首をかしげる。


「異世界解放同盟は、憑依者を目の敵にしているようなことを言ってました。だから、リョウ。気をつけてほしい。」

「心配しなくていいよ、アスラ。ボクが負けるわけない。」


 さっき蛇の魔物に巻き付かれて、ファーの助けがなかったら危なかったくせに……。


「ポポス先生も異世界解放同盟の仲間かもしれない。」

「私の問いかけに全く答えてくれないのだけど、おそらくその可能性が高いね。」


 校長先生がそう答える。僕は校長先生なら『ステータス』を見て何でもわかるはずだと思っていたのでその返答には疑問を持った。少しみんなから離れたところで校長先生に質問をする。


「校長先生ならスキルで全部わかってたんじゃないですか?」

「アスラくん、私はね、この学校の人間のステータスを全て見て知っているわけではないんだよ。確かにステータスを事前に見て選別をすれば良い人間だけを集めることも可能だろう。しかし、それは自然な環境ではない。それにスネに傷のない人間などいないのだよ。潔癖に人間を切り捨てていけば、いつか必ず行きすぎる。そこまでしてしまってはスキルの悪用と変わりないのだよ。それよりも私はステータス抜きで人間として向き合い、相手を信じていきたいのだよ。」

「校長先生。」

「しかし、彼のことを見逃してしまったことは、やはり私の失敗だった。」


 校長先生は本当に後悔しているようだった。

 僕はもう一つの疑問を聞いてみた。


「ポポス先生が盗もうとしていた研究って何なんですか?」

「……前世の世界に行くための研究さ。」

「え!?」

「全くうまくいってないのだけどね。リョウくんやユウキ外交官など憑依者の人たちにも協力してもらっていたんだ。異世界解放同盟……偶然ではないだろうね。なぜそれを知っていたのか。」


 前世の世界に戻る研究……。僕にとって前世の世界は賢斗の世界だ。僕は別にそこに戻りたいと思ったことはない。しかし、憑依者たちにとってはあの世界が自分たちのいた本当の世界のはず。戻りたいと思わないはずはないだろう。

 だが、校長先生は僕らと同じ転生者。前世の記憶とスキルがあるだけの、この世界に生まれた人間なのだ。なぜ、前世の世界に行きたいと思うんだ?


「アスラくんには目覚めたばかりだからわからないかもしれないね。私はずっとあの世界がどうなったのか知りたいと思っていた。なぜ私がこの世界に生まれたのかということも。これは私の生涯の研究なのだよ。」


 校長先生は寂しそうに笑って言った。その顔は僕に、あの時ステラが夢について話した時の表情を思いおこさせたのだった。

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