第六話 危機

暗躍する何者か

「レオ、バイト辞めたの?」

「辞めたっていうか短期だからな。予定どおりだよ。それで今はメイノと一緒にポポス先生の手伝いに行ってるんだ。ステラに頼まれてさ。タイムも一緒だけど。」

「そうだったのか。」

「三人がかりだから午前中には終わるようになったぜ。だから午後はアスラたちの練習を見に行ける。」


 今や、僕とファーの魔法大会の練習の観客はステラとメイノ、レオとタイムもおなじみになり、いつものメンバーで楽しくやっていた。

 みんなに手伝ってもらって検証した結果、僕の自動防御魔法の精度は普通の大会用の攻撃魔法なら百パーセントを防ぐことができるものであるとわかった。これならば魔法大会でも充分に通用するだろう。


「確かにその魔法なら私の剣も全て受けられることはわかったわ。でも、強度が足りないよ。ほら! こうやって魔法の板を弾き飛ばせる! これなら魔法の板を貫通させて貫ける! まだまだよ!」


 なぜかステラは僕の自動防御魔法に対抗心を燃やしてしつこく剣で斬りかかってきた。魔法大会なんだからルール上有効な攻撃魔法だけを防げればいいのに。魔法力を強く込めれば強度が上がるかもしれないけど、魔法切れを起こしてしまっては勝てなくなる。優勝を狙うなら当然、魔法力は温存しておく必要があるのだ。


 練習に協力してくれるのはありがたいんだけど、ステラに本気で来られたらこっちは持たないよ。ちなみにステラに僕の自動防御魔法を体験してもらったところ、剣の感覚が狂うから要らないと言われた。

 僕は少し休憩を入れてから、ファーと相談して決めた次の魔法の準備に入る。僕の魔法陣については、ファーからもいくつか欠点を指摘されていた。それは、魔法陣の生成に時間がかかることと、作った魔法陣を動かせないこと、一つずつしか作ることができないことだった。大会のルールでは魔法陣は杖に入れた五つとなっているが、大会中の魔法陣の交換は禁止されていない。杖から発動すれば有効と審判魔法は判断することが第七回の大会でわかっている。しかし、僕のスキルのこの欠点のため大会中の魔法陣の交換は難しいだろうと結論付けられた。


「今の大会でも他のチームはこの審判魔法の穴をどうやって突くか考えてくるはずよ。」

「なるほどねえ。」


 審判魔法は大会当日までは公開されないし、バージョンアップもされているはずだ。そのため僕らは、過去に有効と判断された魔法を改良するという堅実な方法を採ることにした。次に僕らが作る魔法は攻撃魔法を自動追尾にする魔法だ。これは第六回大会で、優勝を逃したものの、相手チームを全員倒して勝ち進むという勝ち方をしたチームが使っていた魔法だった。


 僕が魔法陣を用意している時、

「あれ、誰だろう?」

とステラが言ったので僕は魔法陣生成を中断し、ステラが示した方角を見た。そちらには校舎の方に入っていく男の人がいた。大きな円柱型の帽子を被っていて、着ている服もかしこまった感じだった。


「学校の先生じゃないよね。来客じゃないの?」

「夏休みに?」


 確かに言われてみれば少し違和感はあるかもしれない。


「あの人は……、俺、見たことあるな。確か中央センドダリアの外交官だ。この国に駐在してる。兄ちゃんが護衛したことがあるんだ。」


 レオが男性を見て言った。


「外交官?」

「ああ。確か憑依者だったはずだ。何の魔物の憑依者だったかな……。エスカルゴ?」


 エスカルゴ……って何だっけ? あ、カタツムリか。この世界の魔物は前世の世界の生き物にそっくりなのでそちらに例えた方が認識しやすい。前世の記憶を使って魔法をイメージする練習をしているせいか、最近の僕は前世の記憶をかなり受け入れている気がする。この世界の動物の方が変な姿をしているように感じてしまう時もある……。

 あれ……待てよ? 僕はカタツムリが壁を這う姿から、あの時の剣技大会の試合会場で見た壁の魔法の痕跡が連想させられた。まさか……。


「憑依者ってことは、魔物の姿にもなれるってことなのかな?」

「そりゃなれるんじゃないか? あんまり良い見た目じゃねーと思うけど。」


「……実は、あの剣技大会の時、壁に魔法の痕跡があったんだ。」


 僕はみんなに僕が見た壁の魔法の痕跡の様子を話した。


「確かに、まだ事件の犯人は捕まっていないみたいだけど。」

「外交官なら剣技大会にも招待されていたかもしれないわね。」

「でも、そんなことで疑うのはどうなのかな? 地位のある人なんでしょ?」

「うーん、ちょっと私にはわからないです。」


 ステラもファーもタイムもメイノも、あまり僕の意見には賛成ではない様子だった。そりゃそうか、根拠も無くよく知らない人を疑うというのは良いことではない。でも僕は、もしかしたらステラを狙ったのかもしれない犯人をどうしても許せなかったので、少しの可能性でも見過ごせないと思ってしまっていた。


「まあ、俺はアスラの気持ちもわかるぜ。ちょっと様子を見に行ってみるだけしてみるか?」


 レオがそう僕に言ってくれたので、僕とレオは校舎の様子を見にいくことにした。考えてみれば、まだ犯人が捕まってないということは秋の魔法大会だって妨害されるかもしれないということだ。いったい誰が何の目的であんなことをしたのか。魔法警察が犯人に辿り着くことができないなんて、どういうことなんだろう?

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