永夜の闇に咲く紅の華

黒埜怜依

第一章

第一話  ロンス

       プロローグ

 

雷雨が降る暗闇の空の中、一つ光り輝く満月の下に少女はいた。

「…目標発見。指示通り仕留める」

「「嗚呼、頼む。メリッサ」」

イヤホン型の通信機から聞こえる声。それに応答するようにメリッサと呼ばれた少女はスナイパーライフルを構えた。彼女のいる場所は三十階建ての大型ビルの屋上、それに対し彼女が狙っている獲物は地上にいる黒づくめの大男。スコープで覗き狙いを定めては躊躇いもなく引き金を一気に引く。勢いよく飛び出した弾丸は大男の頭に命中した。周りにいた奴らが何処から撃ってきたのか、誰がやったのか銃を構え周りを見渡す。しかし周りには誰もいない。空中に向けても似たようなビルばかりでたとえ撃ったとしてもその弾丸は届かない。

仕事を終えた少女はまた通信機にこう呟く。

「任務完了」



            第一章  一  ロンス


 時代は以前より発展していく。建物、経済、モノ、そしてヒト。時代が進んでいくにつれ人体実験も止むことなく日々進化していっている。その中で『異能』は生まれた。異能とは現実世界では考えられない能力を持つ人間の事を表す。異能の種類として大きく三つの傾向に分かれる。一つは自然能力。現実世界でも現れるモノ、例えば炎、風、水、雷など自然界で出現するモノの能力。もう一つは獣能力。これは自然界に存在する動物のDNAと人のDNAが合わさり人獣化する能力。人獣化を使えば普通の人の何百倍ものの力を発揮できる。最後は魔法能力。対象に向けてもしくは周りの状況に合わせて攻撃することが出来る。または対象の心や視覚などを一時的に操ったりする能力。これらいずれかを持って生まれた者たちは見つかれば裏社会の餌食となってしまう。異能という珍しいモノをオークションで売り、大金を貰ったり、監禁したりして自分のモノにし一生飾っておくなどの悪質なことが増えていった。そしてこの裏社会を回す三大マフィアがこの世界には存在する。その中でも異能を保護し裏社会全体を取り押さえている組織がある。その名は『ロンス』と言い三つの中でも最近できたばかりの組織だが一番勢力を伸ばしている組織でもある。


「ボス、この前の案件についてです。お時間がある時にでもご確認お願いします」

「嗚呼、ありがとう、見ておくよ」

渡された書類を受け取り自室に戻る。俺は柊玲緒。このロンスのボスをしている。最近できたばかりの組織だが意外と大丈夫だと感じる。この組織を作って早々二人のメンバーが入ってきた。永月とそのお付きの鴉だ。彼女らと出会ったのはある雷雨の夜アジトに帰る途中で路地裏の隅に座り込んでいた所を見つけた。彼女に声をかけ自分のアジトに連れて行ったことがきっかけだった。

以前、彼女に一つ仕事を頼んで見たがそれはもう完璧としか言いようがない程の仕事っぷりだった。まるで今までにもこのような事をしてきたのかと疑ったこともあった。

だが、彼女には一つ問題がある。それは一人自分の殻に閉じこもっていることだ。確かにマフィアという仕事は個人仕事でもあるがそれと同時に団体仕事という事にも変わりはない。しかしずっと殻に閉じこもっていると他のメンバーが来た際、メンバー同士の交流が難しくなってしまう。今は彼女のやりたいようにやらせているが、このままでは色々と手遅れになってしまうと考え自分がロンスの仲間であるという事を忘れずに伝えないといけない。

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