山根が好いている人物

第19話 いーちゃんより以前のケーキを買っていた少女

クロックにもいーちゃんが俺を好きとかが全てバレたのだが。

ゲーム屋に勤めている久々に会ったクロックに、だ。

恥ずかしいものだなって思う。


思いつつ俺は.....少しだけ居心地の悪い様にクロックを見る。

クロックは、そうなんだね、と納得していた。

何を納得しているかと言えば.....小説の事である。


「良いと思う!だって.....いーちゃんと鳩ちんの小説なんでしょ?楽しみ〜」


「クロックも題材にして良い?」


「私なんて役に立たないよ?良いの?題材に使って」


「うん。だって.....クロックだから」


「.....いーちゃん.....」


うーん!有難う!!!!!いーちゃん!鳩ちん!と抱き付いてくるクロック。

満面の笑顔で、だ。

俺達は慌てながら、オイオイ、と思う。

だけどまあ悪い気はしなかった。


「そういえばさっきいーちゃんが温泉って言っていたけど.....」


「.....ああ。そうなんだ。.....んでそれを君にやろうって思ってね。温泉チケット」


「.....えー?.....有難いけどバリバリ元気だから温泉なんて意味無いよ?」


あ。そうだ。

とクロックは手を叩く。

それから俺を見つめてくる。

ニコニコしながら、だ。

もし良かったら私が入ろっか?コンビニのシフト。

と言ってくる.....は?


「いや。普通に考えれば.....無理だと思うぞ」


「.....そっか。.....うーん。.....うーん.....」


「クロック。無理はしなくて良いよ?.....残念だけどね」


「そうは言っても。折角.....。......じゃあさ。鳩ちん。説得するよ。私」


「.....何を?」


んー。コンビニの店長さん!、と笑顔。

オイオイ。

いやいや無理だ。

それでも到底無理だと思う。


時間が足りないしな。

思いつつ、まあまあ、と言いながら。

電話掛けてみてよ、と言ってくる。


俺は、無理だと思うけどな、と言いながらゲーム屋の椅子を借りながら電話してみてみた。

すると直ぐに店長が出て来てから。

そのままオーケーになった。


『あらぁ.....積極的な美少女ちゃんなのね?オネエの私にとっては嬉しいわぁ。可愛がってあげるわよぉ』


「.....いや。駄目っすよ。店長。幾らなんでも」


俺のコンビニの店長。

佐藤アラベスク。

そもそも本名かこれは。

思いつつ.....俺は苦笑いを浮かべてしまう。

だけど良い店長さんなんだよな。


何故かと言えば.....俺に色々な物を渡してくれるし。

例えばお菓子とか.....そういうの。

全部.....夕日が喜ぶものだ。


本当に心からお世話になっている。

けど.....何というか。

あの生真面目っぽいコンビニにオネエは強いわ。

考えながら俺は頷く。


『1日ぐらい良いと思うわ。ほら短期バイトなんてそこら辺にあるでしょ?大丈夫じゃ無いかしら?私の店ぐらいなら。それに良ければ本採用になるしね』


「.....店長.....でもやっぱり.....」


『たまには羽を広げてきた方が良いと思うわよ。.....だから大丈夫よ。.....もしクロックちゃんが来れなくてもバイト代は弾むわ』


「しかし......」


『面倒臭い子ね。全く。.....私が良いって言ってんのよ。行ってらっしゃい』


店長はそう言う。

それから、クロックちゃんに代わってくれるかしら、と店長は言い出した。

俺は、うーん、的な顔を浮かべながらクロックに代わる。

そして、もしもし?、的な感じで話し出した。

その様子を見ながら俺はいーちゃんを見る。


「.....店長さん.....なんて?」


「.....良いって感じだね。.....羽を伸ばしてきたら良いって」


「.....そうなんだね。.....でも夕日ちゃんの問題があるよね」


「.....そうなんだよな。夕日の件があるからやっぱり行けないと思う。.....いーちゃん本当に御免な」


「そうだね。.....じゃあやっぱりこのチケットはクロックに渡そうかな」


「.....そうだな。.....また今度一緒に何処か行こうか」


そうだね。ふふっ、といーちゃんは少しだけ紅潮しながら嬉しそうな笑みをそのまま浮かべる。

俺はその顔に釣られて笑みを浮かべる。

そしてクロックに全ての事をありのままに提案したら、うーん。じゃあ仕方が無いね。分かった、と受け取ってくれた。


良かった、と思う。

俺達はその後に買い物をする為にスーパーに向かう。

その行き道の事だ。



「小説のネタってどう考えるのかな?」


「そりゃ勿論だけどイチャイチャだよ?」


「.....恥ずかしいんだけど.....」


「当たり前じゃないのー。私も恥ずかしいよー」


だがそう言いながらも。

いーちゃんは、えへへ、と俺の腕に自らの腕を絡ませた。

そして満面の笑顔を浮かべながら俺を見上げてくる。

アスファルトが柔らかく感じた。

それぐらい甘い笑顔だ。

苺の様に、である。


「私ははっちゃんが好きだからね。だからこそ小説を書きたいと思った。はっちゃんが居たから.....書きたいんだ」


「.....そうなんだね。.....有難う。いーちゃん。そう言ってくれて嬉しい」


「うんうん。あ。子供が見てるね」


「.....恥ずかしい.....」


そんな感じで居ると。

目の前の公園の噴水付近に.....和服を着た様な少女が居た。

パソコンを.....打っている?


似合わないな。

俺達は?を浮かべながら顔を見合わせていた.....が。

先にその人物の正体に気付いたのは俺だった。

その人物は.....小説家だ。

何故かと言えば.....この少女.....見た事があった。


「うさぴょん.....さんだっけか?」


うさぴょんと聞いてから。

何故かその和服の少女はビクッとした。

それから俺を見てくる。


ボブに整えられている髪が揺れて赤くなる。

頭に結んだ紐の様な形の髪飾り。

相当な美少女だった。


で、何故それを知っているかと言えば。

いーちゃん以前にケーキを買っていた少女が居たのだ。

だけどその少女は途中で小説家と勘づかれてあっという間に消えた。

買いに来なくなったのだ。


その後にその事で気になって色々と調べると、うさぴょん、というラブコメを書いている小説家に似ているのに気が付いたのだ。

でも顔を見るの久々だな、って思う。


「.....何でその名前を.....」


「.....いや。君は確か小説家だったよね?それで.....」


「.....」


うさぴょんさんは.....俺を見ながら、思い出した、と呟く。

そして目を丸くした。

また.....新しい物語が.....動こうとしている.....そんな感じがする中で、だ。

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