枕本語ーまくらもとがたりー

枕本康弘

巻一

  ルリツグミを描く絵師とルリビタキ

 姿を描かせてもらう代わりに、食物を与える約束をして、絵師がルリツグミを描いていると、ルリビタキが周りに集まり喚き出した。

「お前がルリツグミを描く事で、私達ルリビタキの肩身が狭くなっている! さっさと筆を折って二度と描くな!!」

 絵師はその言葉を無視してルリツグミを描き続けた。構わずルリビタキは続けた。

「お前はルリツグミを絵に描くことで私達からも搾取している! 環境型ハラスメントだ! すぐにその絵を焼き捨てろ!」

 それでも絵師はルリツグミを描き続けるので、ルリビタキは焚き火を探して燃える小枝を絵師に投げつけ始めた。

 しかし、いくら投げても絵師にも絵にもかすりもしなかった。


 業を煮やしたルリビタキの一羽が自身のくちばしに燃える小枝を咥えて、直接絵師を叩こうと飛び立った。

 絵師を叩ける間合いに入ると矢庭やにわに一陣の強風が吹き、ルリビタキの咥えていた小枝の先端が燃え盛ったかと思うと、風と共にその羽根をさらい、身体丸ごと錐揉み回転して、ルリツグミの絵にぶつかった。

 そのせいで絵が勢いよく燃え上がり、火炎に包まれたルリビタキの断末魔。

「なんで私が燃えるのよ! 悪いのはこんな絵を描いたあいつなのに! 嗚呼ああ、何もかも憎くて堪らない。こんな絵を描くあいつも、ボケッと呆けて絵に描かれているだけなのに、食い扶持にありつけるルリツグミも」

 絵師は懸命に消火しようとしたが、間に合わず森から逃げ出した。それ以来、絵師が森を訪れる事はなかった。

 それからルリビタキはその鳴き声で「ルリビタキだよ」と訊いてもないのに自己紹介するようになりましたとさ。


 このように自らは絵を描けないくせに、他人の絵を消そうとする者が大勢いる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る