記憶

強い日の光で目が覚める。


「…っ!月くん起きたっ?」

重い瞼を開けるとそこには心配そうな星川の顔があった。


「…ほしか、わ。

…ふぁ、おはよ……っいた。」

あくびをしながら体を起こすと全身に鈍い痛みが走る。


「全然起きないから心配したよ…。体まだ痛む?」

「…なんかめっちゃ痛い」


「じゃあ横になってて」

そういうと星川は暖かいものでも淹れてくるとその場を離れた。


星川が部屋を出て行った後、僕は上の服を脱ぎ痛みの原因を探す。

…どこにもアザはない。

でもなんだ…?めっちゃくちゃ痛い。


特に腰が。


寝違えた?そう思うが何か違う気がする。

どちらかと言うと激しい運動をした後の酷い筋肉痛に近い。

全身筋肉痛…?

昨日何してたっけ…?

寝ぼけた頭を叩き起こし考えるが思い出せない。


ふと、手首に目をやると何かで縛られたようなあざが出来ていた。

「え…」

なんだこれ…

身に覚えのない跡がある事に恐怖を感じる。


もう一度昨日の事を思い出そうとするが頭にモヤがかかりどうがんばっても無理なようだ。


「月くん」

そうこうしているうちに星川が戻ってきた。


「…服なんか脱いでなにしてるの?」

「あ、あぁ…体が痛いから気付かない間に怪我でもしたかなって…さ」

そういう僕に向けられる星川の視線は何故か熱く鋭い気がした。


翠は月の手を壊れ物を扱うようにそっと手にして取るとこう続ける。

「それ多分谷川くんだよ」

「昨日月くん手首掴まれてたよね…その時に体も強く壁にぶつけちゃったんじゃないかな?」

そう言って星川はちらっと僕の手に目をやった。

「だってほら…アザになってる。月くんこんな事がするなんて谷川くんって酷いひとだよね?」

「大丈夫。2度と月くんに指一本触れられないようにぼくが守ってあげるから」

女神のような微笑みが僕に向けられた


なんかそんな事もあったような気がする。

…でも勝のやつこんな力だったか…?

どちらかというと手で絞められたというよりは何か布のような物で縛られ、長いこと抵抗し続けたような…


「いやでも勝は…」


「月くん」

僕の言葉を遮った。


「昨日僕のことはこれから名前で呼んでくれる約束したの忘れちゃったの?」

「え?」


まったく覚えてない。


「そっか昨日の夜うちに来てすぐ眠たそうにしてたから忘れちゃったんだね」

…たしかに星川の家に来てからの記憶が欠け落ちている。

忘れてはいけないこと事を忘れているような…


「呼んでくれないの?」

「昨日の月くんはちゃんと呼んでくれたんだけどな。翠ってほら…」


呼んで?そう強く促される


「…翠」

そう彼の名を口に出すと星川の顔が満面の笑顔になる。

「嬉しい!寝ぼけてる月くんに呼んでもらうのも嬉しかったけど起きてる月くんにも呼んで欲しかったから」

「これからは下の名前で呼んでね?」


「…んー、慣れるまでには少し時間かかるかも」


「うん、分かってるよ!

その代わり読み間違えた回数…ちゃんと数えてるからね?」

「ん?」

なんで数える必要なんかあるんだとそう思ったが気にしない事にした。

星川はこどもっぽい事をする事がときどきあるからその延長戦だろう。


「…つーきくん」

星川が甘えたように僕に擦り寄ってくる。


「…近いって」

「えー?僕アフターケアは大事にしたいタイプなのにー」


…何また訳の分からないことを。

ぷぅっと頬を膨らます無邪気な星川は愛嬌があり多分誰が見ても好感を持ってしまうんだろう。

そう思いながらきっと遅刻だと叱られる事になるであろう学校へと2人で向かう事にした。









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