そして竜呪は輪廻する

アメイロニシキ

プロローグ

 まずは状況を整理しよう。


 たぶん俺は今まで眠っていて、その眠りから目覚めた。気が付いてみれば目の前は真っ暗で、何か身体中がベトベトしてて気持ち悪かったのはよく覚えてる。


 で、とりあえず明るい場所でもあればと思い立って歩こうとしたが、そもそも体がほとんど動かせなかった。そこでようやく、俺はやたらと狭い場所に閉じ込められていると自覚した。


 ちょっと手を伸ばせば壁。ぬるっぬるの硬い壁。気持ち悪い。見えないから余計に。


 次に気付いたのは自分の声。俺の声は高くもなく低くもなく、これと言って特徴もない普通の成人男性の声だった筈だ。なのに、いざ声を出してみると妙に高かった。

 女性の声とかそういう類のものでもなく、というか人間の声とはとても思えない。言葉にするなら、キューキューみたいな声。うん、自分で言ってて意味が分からない。


 あーだこーだと色々考え、ふと眠る前の自分の記憶を辿ってみようと思い立った。まぁ、辿るも何も鮮明に覚えているし、正直あまり思い出したい記憶でもないけど。


 とりあえず、意識を手放す瞬間の事を思うと、何故生きてる・・・・・・のかが不思議だった。


 誰かが助けてくれたのか。或いは奇跡的に生き延びたのか。


 そんな事を1人うんうんと考えていると、不意に真っ暗だった空間に光が差した。

 少しずつ少しずつ、壁が剥がれ落ちるように。やがて見えてきたのは明確な光。どうやら有難いことに誰かが壁を壊してくれたらしい。

 ただ、光の手前に薄い膜のような物があって向こう側が見えなかった。


 手を伸ばし、その膜を破るように引っ掻いてみると、驚くほど簡単に突き破る事ができた。

 早いとこぬるぬるから解放されたかった俺が急いで外に飛び出せば、何やら藁のような物が敷き詰められた地面に投げ出された。


 壁の向こう側が藁の地面。なんだそりゃと疑問に思う前に、立ち上がろうと地面に手をつく。その時、ようやく異変に気付いた。


 視界に移るのは人の手……ではなく、どう考えても人外の手。白い鱗に覆われ、小さいながらも鋭い爪が生え揃った手。それが自分の手だと理解するのに暫くかかった。


 「……キュ?」


 そして現在に至る。


 どれだけ見ても、どんなに裏返してみても、そこにあるのは人の手ではなかった。


 え?なにこれ、どういう状況?え、俺? これ俺の手? いやいや……いやいやいやいや! 俺人間だったよね!? 寝てる間に何が起きた!?


 「キュ、キュー!? キュキュー!」


 やっぱり声もおかしい! ていうか人の言葉が話せない!? 心の中ではこんなに流暢に話せてるのに、いざ言葉にしようとすると可愛らしい声しか出せない! やめろ! 俺今年で24だぞ!? 気持ち悪いわ!


 そ、そうだ! さっき壁を壊してくれた人に助けを求めれば!おーい!助けてくれてありがとー!俺はここ――。


 「グルルル」


 「……キュゥゥうわーぉ


 ここ、に居るけど気付かないで欲しかったなぁ……は、ははは。


 低い唸り声のようなものが聞こえて、その場で上を見上げると、そこには巨大な怪物。もとい、所謂ドラゴンと呼ばれるとんでも生物がそこに居た。

 白い鱗に深紅の瞳。鋭い爪の生えた手を俺へと伸ばしてくる。


 「キューーーっぎゃーーーっ!!? キュキュイキュー食われるー!!」


 死に物狂いだった。自分の身に何が起きたとか、この気持ち悪い手は何なんだとか、そんな疑問すら投げ出して、自分の身を守る事に全神経を集中した。


 その結果、俺がとった行動は逃亡。迫る手から一目散に逃げ出し、足を必死に動かして奥へ奥へと移動する。


 というか走りづら! 何でこんな……うげ!? あ、足まで人じゃなくなってる!? どうなってんだよホントに!

 い、いやそんな事はどうでもいい!足場も悪くて余計に走りづらいけど、今はとにかく逃げるんだ! あんなのに捕まったらプチッと握り潰されるか丸呑みされる! 理由は分からんがせっかく生き延びたのに、こんな形で死んでたまるか!


 「キュイっもうちょいキュッはっ!!?」


 緩やかな斜面を登り切って、その向こう側へ逃げようとしたが、何と下には深い水。遠くにはほんの僅かな岸があり、そこへ泳いで渡るかとも考えたけど、この両手足で泳ぎ切る自信なんてなかった。下手をすれば溺れる。


 周りに橋らしき物もないし、ってか何だここ!? 明らかに外じゃない!


 俺が立っている藁の地面はぐるりと水に囲まれ、更にその水を取り囲むように岩の壁がそり立っている。遥か真上の天井っぽい部分にはポッカリと穴が空いており、そこから太陽の光が射し込んでいた。


 逃げ場、無し!!!


 更に追い打ちをかけるように衝撃の事実が発覚した。


 水面に映る俺らしき姿が、どう見ても人間ではなかった。全身白い鱗に覆われ、背には小さな翼、クリクリとした瞳はあのドラゴンと同じ深紅色……これは、いや、まさか、そんな事がありえるのか? だってこの姿は――。


 ドラゴンの雛そのものではないか。


 「キュイ、キュウうそ、だろ……」


 どれだけ見ても、触っても、見た目はドラゴン、手触りもドラゴン。そこに居るのはドラゴン以外の何者でもなかった。





――――




あとがき。


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